P.ブーレーズ 主のない槌

指揮ピエール・ブーレーズ
演奏アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバー
録音1985年3月31日
カップリングブーレーズ ピアノのためのノタシオン 他
発売CBS/SONY
CD番号CSCR 8063


このCDを聴いた感想です。


 この曲はブーレーズの代表作として評判が高く、さらに邦題の『主のない槌』という題がやたらと格好良く(原題の『ル・マルトー・サン・メートル』も語感が魅力的です)、 いつか聴きたいと長く思っていましたが、なかなか縁が無く、わりと最近まで聴く機会がありませんでした。
 やっと数年前にこのCDを入手し、期待感いっぱいでワクワクしながら聴いてみたのですが、聴いた瞬間、正直言って『なんだ、こりゃ?』と思いましたよ。
 おそらく多くの人がイメージするであろう「現代音楽」そのまんまで、たしかに噂には聞いていましたが、メロディーらしいメロディーはありませんし、一応9つの部分(曲?楽章?)に分かれているのですが、どれもこれも同じに聞こえます。あまりのわけのわからなさに、聴いているとだんだん頭が痛くなってきて、終いには精神がどこか捻じ曲がってしまうのではないかと思えてきたほどです。
 そのままお蔵入りさせようかとも思いましたが、たまたまこのCDが国内盤だったので日本語解説がついており、それを読みながら何回か聴き直していると、だんだんこの曲の楽しみ方が一つ見えてきました。
 それは、今まで聴いてきた音楽の楽しみ方と全く違うもので、パズル的な楽しみ方とでもいいましょうか。感情や感覚を脇に置いておいて理屈で楽しむのです。
 例えば、全曲は9つの曲で構成されていて、それぞれは3つのグループ「激怒する職人」「孤独な死刑執行人たち」「美しい建物とさまざまな予感」のどれかに所属しています。
 何曲目がどのグループの曲にあたるかの順番は一見適当に並べただけのように見えますが、偶数の4曲(第2、4、6、8曲)は、全て「孤独な〜」のグループで、「激怒する職人」と「美しい建物〜」は連続することは無く、必ず間に「孤独な〜」が挟まれる形になります。
 一方、各グループの中は1曲だけ本体で、それ以外は本体に対する前奏や後奏だったり(激怒する職人)、補遺だったり(孤独な〜)、変奏という(美しい建物〜)いわば付属みたいな扱いです。
 演奏者は全部で7人(つまり室内楽並)で、そのうち6人は器楽奏者ですが、1人だけ声楽(アルト)が入り、そもそも曲名にもなっている『主のない槌』という詩(ルネ・シャール(1907〜1988)作)は、このアルト歌手が歌っています。
 歌は、それぞれのグループの本体で歌われていますが、「美しい建物〜」のみは変奏でも歌が登場し(「美しい建物〜」のグループは本体と変奏の2曲しかない)、全9曲の中で4曲に歌があることになります。歌があるのは第3曲「激怒する職人」、第5曲「美しい建物〜」、第6曲「孤独な〜」、第9曲「美しい建物〜」(変奏)と、バランスを取って配置されています。
 第5曲の「美しい建物〜」本体は、全9曲の中で5番目、つまりちょうど真ん中の曲であり。一方「美しい建物〜」の変奏は第9曲、つまり終曲にあたり、さらに他の8曲に較べて演奏時間が飛び抜けて長く(8:29)(次に長いのが第8曲で5:57)、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲の終曲の立場に近い扱いで、「美しい建物〜」のグループは2曲しかないが、両方とも曲の要です。
 一方、「激怒する職人」のグループは、いきなり第1曲がそうですが、本体は第3曲と全曲の中でも前半に寄っていて(ちなみに全部で3曲で三つ目の後奏は第7曲)、しかも演奏時間は1分から長くても2分半と非常に短くまとまっています。
 偶数曲の全てである「孤独な〜」のグループは、全部で4曲と三つのグループの中でも最も曲数が多く、演奏時間も4分から6分程度と中ぐらいです。このグループは1曲おきに定期的に登場するため、他の2グループを結びつけて全曲のベースとなっています。
 ……とまあ、他にも楽器編成で見た場合など、挙げて行けばきりがありませんが、その辺りを意識しながら聴くと、それまでどの曲も同じように思えていたのが、「激怒する職人」のグループは短い中に凝縮してまとめてあるなあ、とか、「美しい建物〜」のグループは、長さを生かして大掛かりに作ってあるなあ、とかなんとなく違いが見えてくるようになってきました。
 グループ内でも、本体に対してこの補遺は裏から見たような感じだなあ、とか、前奏がこう来て本体がこう続くからそれが後奏につながっていくんだ、などと少しずつそれぞれのつながりがわかって来たような気がします。
 ただ、こういう左脳で聴くような聴き方というのは、やはり本流ではないでしょうし、ブーレーズがそういう聴き方を推奨しているとも思えません。
 まあ、今はこういった数学的な楽しみ方をしていますが、そこから感覚的に何かを感じ取れるようになっていきたいものです。
 まずは慣れからですね。

 今年(2005年)、ブーレーズ本人が指揮した演奏が収録されているCDが発売されましたが、それは最近新たに録音された演奏で、このCDの演奏はそれよりも遥か前、1985年の録音です。
 ちなみに、最近発売された方のCDがブーレーズ生誕80周年記念企画の一環なのに対して、古い方の録音は、ブーレーズ生誕60周年記念コンサートを録音したものだったりします。(2005/10/1)


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