L.v.ベートーヴェン 交響曲第6番 ヘ長調 <田園>

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏NBC交響楽団
録音1952年1月14日
カップリングベートーヴェン 交響曲第5番
発売BMGジャパン(RCA)
CD番号BVCC-9915(74321-45622-2)


このCDを聴いた感想です。


 まあ、予想通りといいますか、トスカニーニらしい力強い演奏です。
 田園に来ても自然を楽しむという雰囲気ではなく、ブルドーザーで造成地でも作るかのようにグイグイと力で押し進めています。
 しかも、田舎時間に合わせてのんびりと過ごすつもりもさらさら無く、都会と全く変わらない分刻みのスケジュールで生活しているみたいにキビキビと活発に動いています。
 音が明るい点なんかは田園に似合ってなくも無いのですが、緑の豊かさを連想させるような柔らかい明るさではなく、もっとギラギラと輝いていて、どっちかというと人間らしい活気、それも歓楽街のようなエネルギーに溢れる世界のイメージで、どうも田園ではなく都会的な印象を受けます。
 特に、どんどん高まっていく高揚感がそういう印象を強めるのかもしれません。
 フレーズの最後を叩きつけるようにスパッと切っていのが何とも爽快で、これが何度も繰り返されることで一気に気持ちが高まってきます。
 さらに第1楽章では、低音が同じ動きを繰り返している間、高音楽器が同じ音でずっと伸ばしている音型がよくありますが、わずかずつクレッシェンドしていくことで、高い緊張感を保ちながらじわじわとしかし着実に盛り上がっていきます。
 第2楽章なんかも、本来は小川のほとりのくつろいだ情景のはずですが、この演奏だと、柔らかさなど表面に軽く表れている程度で、内の音は硬くメリハリを少し大げさなぐらいつけているため緊張感が高く、くつろぐどころか、草むらに毒蛇でも潜んでいて、それと息詰まる対決でもしているのではないか、と考えたくなるほどです。
 当然、第4楽章の嵐となると、雷ぐらいでは済みません。
 ティンパニーなんてあれでよく皮が破れないものだと感心するぐらい思いっきり叩いていますし、弦楽器も腕をちぎれんばかりに必死に動かして音を短く切りながらも力強く、金管にいたっては天井裏まで突き抜けそうなぐらいの鋭い音を出して築き上げられた大音響は、さながら紅海を真っ二つに割ったモーゼ張りの大スペクタクルといったところでしょうか。
 ちなみにこの興奮は第4楽章だけに収まりません。
 第5楽章に入ってからも、ピアノでの弦楽器が良く歌っているのが違うくらいで、フォルテの部分になると曲調は明るいのに第4楽章の激しさが復活して、「嵐の後の喜びと感謝」どころか「あまりの嵐の激しさに興奮して暴風雨の中で大騒ぎ」と副題をつけたくなるような豪快な音楽になっています(笑)

 これだけ田園らしさからは遠く離れたこの演奏ですが、だからといって悪い演奏ではありません。
 田園らしさよりも第5番に通じるような力強さを追求している演奏として、見事に成功しています。
 田園に来たからといって、急ににわかナチュラリストに目覚めたりせず、都会での姿そのままに、堂々と草木を踏み潰して進んでいます(笑)
 わたしのような、遅くのんびりとした音楽が苦手な者にとっては、かえってこういう力強さを前面に出した演奏の方が、すんなりと受け入れられるようです。(2004/8/28)


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