L.v.ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調<Eroica>

指揮ジョン・バルビローリ
演奏BBC交響楽団
録音1967年5月18・19日
カップリングバルビローリ編曲 エリザベス組曲
発売DUTTON(HMV)
CD番号CDSJB 1008


このCDを聴いた感想です。


 この演奏、何が凄いかといえば、やはり演奏時間でしょう。
 第2楽章の18分13秒は、わたしの知っている中では最も長い時間です。
 それまで「これは遅い!」と自信を持って断言できたフルトヴェングラーの演奏(1944年のウィーン・フィルとのライブ。いわゆる『ウラニアのエロイカ』)ですら17分台で、他の演奏ならいいとこ15分台、流行の古楽器系の演奏にいたっては13分台というのもあるぐらいですから、バルビローリの演奏がいかに遅いか分かって頂けると思います。聴いたことはありませんが、チェリビダッケ辺りで対抗できるかできないかというところではないでしょうか。
 第2楽章以外の他の三つの楽章はさすがに第2楽章ほど特別に遅くはありませんが、それでも十分遅い方です。
 これほどテンポが遅い演奏ですが、実は聴いている時は、そこまでテンポが遅いようには感じられません。たしかに遅めのテンポという感覚はありますが、演奏時間を見て「あれ、そこまで極端に遅いテンポだったっけ?」と逆に少し驚いてしまうぐらいです。
 テンポが遅い演奏というと、じっくりと力を込めて弾き、分厚い響きに重い音というイメージをしがちですが、この演奏は、そんなイメージにひょいと肩透かしをしてくれます。
 響きは厚くても濃密という感じではなく、もっと風通しが良い軽いもので、音もあまり低音をしっかりと響かせた重いものではなく、すっと抜いて短かめに切っているため響きよりもリズムの方が強く表れ、むしろ遅いのにテンポよく進んでいると感じるぐらいです。
 メロディーはたしかに表情豊かに歌っていますが、これも渾身の力を込めて入念に歌うのではなく、逆に伸び伸びと力よりもスピードの乗ったキレのある歌い方です。
 テンポはフルトヴェングラー以上なのに、歌い方とか雰囲気は、現代のテンポの速い演奏の方により近く感じました。流れの良さはそのままに、テンポが遅い分、他の演奏ならあっという間に流れてしまう細かく入り組んだ部分まで、高速度撮影したみたいにクリアに聴き取れます。
 さらに、テンポの遅さを最大限に利用した部分もあります。
 やはり第2楽章の、長調から短調に戻る直前辺りのトランペットのファンファーレで、これは速いテンポだとトントントンと上へ昇っていく動きが目立ちます。しかし、この演奏ではここだけは遅いテンポをいいことに一音一音を力強く吹きぬいて、それが十分に時間をかけて昇っていくため、ここぞとばかりに輝かしく響き渡り、ほとんど世界が誕生した瞬間でも表しているのかと思えてくるほどです。
 テンポが遅い演奏というと、ダラダラと間延びしてしまうか、それを防ぐために、力を込めて濃密に演奏するぐらいしかないと思っていたのに、こういう軽くキレの良い演奏をできるところに驚きました。(2005/8/6)


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