J.ブラームス ハイドンの主題による変奏曲

指揮アルトゥーロ・トスカニーニ
演奏NBC交響楽団
録音1952年2月4日
カップリングブラームス 交響曲第4番
発売BMGジャパン
CD番号BVCC-9928


このCDを聴いた感想です。


 糊がついたYシャツのように細部までピシッと折り目正しく、なおかつ力強く堂々とした演奏です。
 キビキビとした速めのテンポで真っ直ぐに進んでいき、いかにも王道を突き進んでいるといった感じで、迷いやためらいがありません。
 これは、冒頭のテーマのようなゆったりとした部分よりも、速かったりフォルテの変奏の方に良さが出ています。
 Animatoの第1変奏や力強いVivaceの第2変奏、ホルンが吹き鳴らすVivaceの第6変奏辺りはその典型で、大編成のオーケストラらしく力強く分厚い響きなのに、テンポが速く音にスピードが乗っているため少しも重くならず、前へ前へと積極的に音楽が進んでいきます。
 反対に、ゆったりした変奏は、メロディーをよく歌わせているのですが、その分重くなってしまい、明るい第3変奏なんかでは、『動きをつけて』というcon motoの指定があるのにもかかわらず、後半ではたっぷりと歌いすぎて音楽が後ろにずるずると引っ張られています。
 そのくせ、次の暗い第4変奏では、テンポ自体はもっと遅いのですが、第3変奏ほど歌っていないため、間延びせず、引き締まって聴こえます。
 もっとも、歌うのが単純にダメなわけではありません。
 たぶん全曲中で一番ゆったりとしている、Graziosoの第7変奏では、後半に出てくる、1stヴァイオリンが演奏する、下から順に音階を上がって頂上まで行き着いてそこから順に下がってくるだけの単純なメロディーの歌わせ方が、非常に印象に残りました。
 歌い方といっても、音階が上がっていくにつれだんだんクレッシェンドしていって、下がってくるにしたがってまた徐々にディミヌエンドしていくだけなのですが、このクレッシェンドとディミヌエンドが素晴らしいのです。
 まるで剣道で何段階にも伸びる突きのようで、盛り上がり方が、ここまでぐらいかな、という予想を遥かに越えて「えっ!? まだクレッシェンドできるの!?」と途中で何度も思うくらい、想像の限界を突破してどこまでも伸びていくのです。
 たぶん、曲の中でももっとも良い部分ではないでしょうか。
 ただ、非常に残念なことに、この部分は本来は繰り返しがあるはずなのにトスカニーニは繰り返していません。他の繰り返しは全てやっているだけに、唯一この部分だけ繰り返していないことが惜しくてなりません。
 そして、この曲を語る上で抜きにできないのが最後の第9変奏(Finale)です。
 この、曲の要ともいえる変奏には、トスカニーニの突進力、力強さ、堂々としたスケールの大きさ、その全てが表れています。
 柔らかく始まる冒頭から、テンポは決して緩んだり後ろ向きなったりせず、常に前へ進んでいきます。
 レンガを積み重ねて大きな家を建てるように、少しずつしかし着実にスケールは大きくなり、しかも安定しています。
 大きく盛り上がってきても、無闇に音を引き伸ばしたりせず、あくまでも音を短く切り、勢いとスピードを常に保ちます。
 終盤、主題が輝かしく戻ってくるところでも、一つ一つの音を念を押すように力を込めていながら、テンポはあくまで速いままです。
 これは、以前書いた、フルトヴェングラーの見得を切るように急激にテンポを遅くする演奏と全く正反対のやり方ですが、トスカニーニは、このいかにもトスカニーニらしい演奏方法で、フルトヴェングラーに匹敵する迫力と輝きを生み出しています。
 両者の演奏を聴いていると、曲の魅力を引き出す方法は本当にいくらでもあるものだと、改めて感心してきます。(2004/4/3)


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