指揮 | ジョン・バルビローリ |
演奏 | BBC交響楽団 |
録音 | 1967年5月19日 |
カップリング | ベートーヴェン 交響曲第3番<Eroica> |
発売 | DUTTON(HMV) |
CD番号 | CDSJB 1008 |
この組曲は、バルビローリが作曲したものではなく、もともとはエリザベス朝時代の鍵盤楽曲集の「フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック」に収録された曲の中から、5曲を選び、それをバルビローリがオーケストラ用に編曲したものです。 その5曲は以下の通りです。 1.ソーリスベリー伯爵のパヴァーヌ(作曲:W.バード) 2.アイルランドの嘆き(作曲:不詳) 3.トイ(作曲:G.ファーナビー) 4.夢(作曲:G.ファーナビー) 5.王の狩(作曲:J.ブル) 3曲目と4曲目は、「空想・おもちゃ・夢」の通称でも呼ばれている、ファーナビーの「舞曲集」として金管五重奏曲にも編曲されていて、こちらの方がむしろ有名かもしれません。1曲目と5曲目も、やはり金管アンサンブルに編曲されていて、ファーナビー共々、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(PJBE)の演奏で知られています。 バルビローリの編曲は、金管アンサンブルとは全く異なり、基本は弦楽合奏で、最後の5曲目の「王の狩」のみホルンが加わっています。やはりこの曲だけは狩がテーマですからホルンが必須ということなのでしょう。曲調も他の4曲と較べて段違いに華やかで、曲の長さも、他の4曲が長くても2分強、短い曲では1分強しかないのに、「王の狩」だけは5分半もあります。 他の4曲は、基本的にゆったりとしたテンポの遅い曲ばかりです。1曲目の「ソーリスベリー伯爵のパヴァーヌ」はパヴァーヌだけあって優雅で、最初の曲らしく堂々としています。2曲目の「アイルランドの嘆き」は堂々とした1曲目とは変わり、落ち着いた哀愁の漂う曲です。そして3曲目の「トイ」では、1曲目のような重厚感が戻ってきます。ただし、かなりゆったりとした1曲目に較べ、舞曲だけあって、リズム感がより強く出ています。4曲目の「夢」は、また一変してゆったりとした曲調になります。同じようにゆったりとした2曲目が哀愁が漂いかなり暗めだったのに較べて、曲調は明るく、ゆったりとしたテンポと相まって、ホッと暖かい雰囲気になる曲です。そして最後の華やかな5曲目で締めくくると言う寸法で、なかなか上手い構成です。選曲と曲順は当然バルビローリによるものですから、これはバルビローリのセンスが良いということでしょう。 この曲は、バルビローリ本人も気に入ったと見えて、何回も録音したり演奏会でも取り上げているようです。わたしの手元にあるだけでも3種類あり、1954年にハレ管と、1964年にベルリン・フィルと、そして今回取り上げる1967年にBBC響と録音しています。さらに、手元に無いだけで録音は他にもあり、把握しているだけでも、これ以外に、ハレ管と1回、ボストン響と1回、ニューヨーク・フィル響とは2回の録音が残っていて、全てCD化あるいはDVD化されています。手持ち以外の4種類にはライブ録音もありますが、わたしの手元にある3種類は全てスタジオ録音です。同じ曲を3回以上も録音するというのは、カラヤンやストコフスキー辺りならまだわかるとしても、バルビローリにしてはダントツに多いのではないでしょうか。それにライブ録音もあるわけですから、バルビローリは一体どれだけこの曲が好きだったんだと思わずツッコミたくなります。 ちなみに、何回もスタジオ録音を残しているだけあってか、手元の3種類を較べても、意外と違いが出ています。 今回取り上げるBBC響との演奏は、おそらく手元に無い演奏を含めても最後の録音で、唯一のステレオ録音だと思います。 この演奏の特徴は、なんといっても「重厚」につきます。 1954年のハレ管との演奏が「リズムのキレ」、1964年のベルリン・フィルとの演奏が「ドラマティックな表現力」に特徴があるの対して、ひたすら「重厚」に押してきます。 演奏時間から見る限り、テンポ自体はそれほど遅くなっていないはずなのに、聴いた感覚では、ずいぶんゆっくりと演奏しているように聞こえます。 一音一音重みを乗せ、和音はステレオ録音の特性を十分に生かし、分厚く濃密です。 わたしが好きな3曲目の「トイ」などは(もともとこの曲を聴きたいがために、このCDを買ったようなものです)、聴き慣れた金管五重奏のキレのある動きとは全く異なり、むしろ堂々といってよいぐらい重厚な音楽になっています。いやもう、同じ曲とはとても思えないほどです。 しかし、ここまで来ると、これはもう新しい境地というべきで、逆にこの編曲に限っては、重厚であればあるほど良いと感じられるようになって来ました。 これは金管ではなく弦楽合奏であるというのも大きいのかもしれません。ストレートな金管と違って良くも悪くも響きに表現があるため、重厚でもただ重いだけではなく、厚みと重さを生かした表情をつけることができるのです。 ところで、前の方で、これらの曲は「フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック」に収録されている曲の中から選ばれていると書きましたが、1曲目の「ソーリスベリー伯爵のパヴァーヌ」については、手持ちのDoverの楽譜で見る限りは、収録されていません。Doverの楽譜はかなり分厚い上に二分割されていて、全部で297曲も収録されているため、全て網羅されているだろうと思っていたのですが、入っていないということは、これでもまだ選集ということのなのでしょうか。本当はもっと多いのか、いくら短い曲が多いとはいえ、その多さに驚かされます。(2010/8/21) |