独奏 | チェンバロ:グスタフ・レオンハルト |
録音 | 1992年10月7〜8日 |
カップリング | バード パヴァン 「エリザベス王朝のヴァージナル音楽」より |
発売 | ユニバーサルミュージック(PHILIPS) |
CD番号 | UCCP-3467(438 1352) |
今年(2012年)に入ってから、妙にクラシック関係の訃報を耳にします。 すぐ思いつくだけでも、作曲家の林光(5日)、ピアニストのワイセンベルク(8日)、作曲家の別宮貞雄(12日)、指揮者・演奏家のレオンハルト(16日)、指揮者のベルグルンド(25日)と5人も亡くなられています。 林さんと別宮さんは、作品はあまり聴いた事がありませんが、林さんは岩城さんなどの交遊録などで名前を見かけるため多少は人となりが伺えますし、別宮さんは著書の楽典の本がとても分かりやすく、今でもよく参考にしています。ワイセンベルクは展覧会の絵などの演奏を良く聴きますし、ベルグルンドはシベリウスでは最も頻繁に聴いています。 しかし、なんといっても最も演奏に馴染みがあったのがレオンハルトです。 今回は、レオンハルトの演奏からG.ファーナビーの「トイ」を取り上げたいと思います。 さて、そのファーナビーというと「空想・おもちゃ・夢」のタイトルで呼ばれることもある、金管五重奏の舞曲集(全6曲)がよく知られています。今回の「トイ」もその中に含まれています。 ただ、この舞曲集は初めからセットとして作曲されていたわけではありません。金管五重奏に編曲する際に編曲者(E.ハワース)が多くの曲の中から抜粋したもので、もともとは「フィッツウィリアム・ヴァージナル・ソングブック」として、ファーナビーだけでなくブルやバードといった同時代の作曲家の作品などと合わせて出版された曲集の中の一曲でした。楽器もタイトルにも書かれているように、もともとはヴァージナルという鍵盤楽器で演奏されます。 ところが、この曲については、金管五重奏の編曲が有名すぎてか、もともとの鍵盤楽器による演奏というのが意外と少ないのです。鍵盤楽器と金管五重奏以外ではバルビローリが自ら編曲し本人の演奏しかない「エリザベス組曲」や吹奏楽版もあるのですが、こと鍵盤楽器でとなると実はわたしの手元にもこのレオンハルトの演奏しかありません。昔のカタログを見たときにたしかもう一種類はあったように記憶しているのですが、全く見かけません。もしかしたらCD化されていないのかもしれません。 そんな貴重な鍵盤楽器(ヴァージナルではなくチェンバロですがほぼ同系統だと思います)による演奏は、たしかに金管五重奏版などと較べてだいぶ雰囲気が違います。 良くも悪くも穏やかに音楽が流れていきます。家の中でくつろいでいるような感じで、気持ちがリラックスしてきます。チェンバロの音色もあるのでしょうが、一音一音を優しく噛みしめるように演奏し、温かみが感じられます。一家で暖炉を囲んで、その脇のチェンバロからゆったりと音楽が流れてくるようなイメージがありありと浮かんできます。 以前、金管五重奏曲版を聴いた時は、ずっと緊張感の高い印象を受けました。冷たく厳しい雰囲気の中にパッと光が差すそうな、どちらかというと「荘厳」という言葉がピタリと来るようなイメージです。 チェンバロ版は、そんな金管五重奏版と雰囲気が大きく異なっているため、最初はどこか物足りないように感じました。しかし、何度か聴いているうちに、チェンバロの音色がしみじみと染入るようになって来ました。 もともと鍵盤楽器で演奏を想定していた事からすると、こちらが本来の聴き方かもしれませんが、わたしとしては今までに無い新たな魅力を発見した気分です。(2012/2/4) |