※このSSは「行殺☆新選組」と「SPARK!」のパロディーです。両方をプレイされていないと、意味不明だと思います。
登場! 藤堂志乃
カキーン、カキーン
「ほらほら、どうしたの。そんなんじゃ、沙乃には一生敵わないわよ」
「く、くっそー……」
俺は、珍しく原田沙乃と稽古をしていた。
まあ、腕の差がかなりあるから、正確には胸を貸してもらってるようなもんだ。
……
いや、よく考えたら、沙乃には貸してもらうような胸はなかったか………のわっっ!!!
バコンッッッ!!
「…いま、あんた失礼なこと考えてなかった?」
「イテーーーッ!! おまえ! 今、本気でなぐらなかったかっっ!!」
俺は、沙乃に脳天を槍で思いっきりどつかれ、床の上でのたうちまわった。
「……まったく、沙乃がせっかく稽古をつけてあげてるっていうのに」
「いや、俺だって、まじめに考えてるぞ」
俺は立ち上がって胸を張った。
「…ふーん…何を?」
沙乃が疑いの目を向ける。
「たとえば、沙乃のスピードの速さは、空気抵抗のなさに秘密がある…」
キラーン
目にもとまらぬ速さで、目の前に槍が突きつけられた。
刃先を俺のほうに向けて…
「だったら、身をもって体験させてあげるわ……大丈夫、ちょっと眠ってもらうだけだから。いつもより、ちょーーーっっと、深い眠りにねっっ!!」
ヒュン! ヒュン!
槍を振り回しなが沙乃が俺を追いかけてくる。
「わ、こら、待て沙乃っ! 早まるなっ!」
「そこまで言って生きて帰れると思ってるのっっ! だーーいじょうぶ。苦しめないで楽にしてあげるからっっ!」
うわっ、沙乃、目がマジだぞ!
ガラッ!
急に稽古場の扉が大きく開かれた。
「おーほほほほほ!! 相変わらず子供の喧嘩ね」
沙乃は声の方を見てげんなりした表情を浮かべた。
「……志乃か」
そう、そこには紫の髪を後ろでまとめて馬の尻尾……もとい、ポニーテールにしている女の子が、腰に手を当てて高笑いをしている。
「おーほほほほほ!! 稽古をするのなら、この藤堂志乃"様"に一言言ってくれれば良かったのに」
「……あんたは、いちいち高笑いをしないとしゃべれんのか」
疲れた声で沙乃がつぶやく。
この変な女は藤堂志乃。こう見えても北辰一刀流の目録の腕前らしい。しかも、ホントかウソかわからないが、噂によると合気道の使い手でもあるそうだ。
「島田、あなたがどーーしてもって頼むんだったら、教えてあげてもよろしくてよ」
「…沙乃に教えてもらうからいい」
「島田、無理しなくてもいいのよ〜 素直に教えてくださいって言いなさいよ」
「………」
「わ、わたしが、珍しく教えてあげるのよ!」
「………」
「……いーの、いーのわたしなんて…ぶつぶつぶつ……」
志乃は、床に膝を抱えて座り込んで「の」の字を書いている。
沙乃がたまりかねて俺にそっと声をかけた。
「ねえ、島田。いくら志乃とはいえかわいそうだから、教えてもらいなよ」
確かに、ここにずっといられると鬱陶しいしな。
「おい、志乃!」
「なによ!」
顔を上げた志乃は既に涙目になっている。
「なあ、俺に教えてくれよ」
志乃は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにそっぽを向く。
「ふんっ! 沙乃に教えてもらえばいーでしょっ! わたしはここで床が抜けるまで「の」の字を書きつづけてやるんだから!」
だーーーっ! うっとーしーやつっ!
沙乃はあきれている……わけじゃなくて、笑いをこらえるのに必死になっている。
しょうがないなぁー
「やっぱり俺は、志乃に教えてもらいたいんだよ。なんていっても志乃の剣の技には圧倒されてるからな」
「そうそう、島田も本当は志乃に憧れてるのに、素直になれないだけなんだから♪」
あ、こら沙乃! おまえ調子に乗ってなんつーことを!
志乃だったら本気にしかねんぞ!
バッ!
「おーほほほほほっっ!!! なーんだそういうことだったのね。それなら早く言いなさいよ」
うわっ! 急に立ち上がって高笑いすな! ビックリしたじゃないか!
「じゃ、沙乃はもういくから。後はまかせたよ〜」
「ほーほほほほっ! 沙乃。後はわたしにまかせてゆーっくり休んでてよろしくてよ!」
「へいへい。じゃあね」
沙乃ーーーっっ!!! 焚きつけるだけ焚きつけて逃げんなーーっっっ!!!
後悔しまくってる俺と対照的に、志乃はすっかりきげんを直している。
まったく立ち直りの速い奴だ。
「じゃあ、はじめるわよ」
「まあ、お手柔らかに頼むよ…」
「ふふん。容赦しないわよ! それっ!」
ビシビシビシッ!
「ほーほほほほほ!」
…必ず高笑いがつきものなんかい。
「志乃。おまえさー」
「なによ」
「刀よりムチを持ったほうがいいんじゃないか?」
「そう? だったらムチに変えようかしら」
志乃にムチ……ううっ、はまり過ぎてコワいかも……
「……やっぱりいい」
「そう? 残念ね。なんだかうまく扱えそうな気がするのに」
だから、怖いんじゃないか。
ビシビシビシッ!
「しかし、島田はほんっとうに下手よね〜」
「悪かったな」
「島田が下手じゃなかったら、この京都…いや日本中で下手な奴はいないわ!」
「ほほ〜、そうすると俺が日本で一番下手というわけかな?」
「……どんなことにせよ、島田が日本一っていうのも何だか癪よね〜」
「ほほ〜、それでは俺が日本一下手というわけでないと?」
「それもまちがってるわよね〜 うーん、うーん、うーん……」
考え込んでしまった。
やっぱりこいつは正真正銘のアホだ。
「おっ! 二人ともこんなところにいたんだ」
振り返ると永倉新がハンマーを肩に担いだいつものスタイルで戸口のところに立っている。
「どうしたんだ、新?」
「歳さんが、みんな集まって欲しいんだって。なんでもついにキンノーたちの密談場所がわかったらしい」
「よし、わかった。おい、志乃すぐ行こうぜ……っておい!」
傍らを見ると、まだ「うーん」と考え込んでいる。
ポカッ
「いた〜い。島田、何するのよ」
「こらっ! 志乃。すぐ行くぞ」
「はいはい。今行くわよ……まったく、乙女の頭を叩くなんて、ぶつぶつ…」
ぼやいてる志乃はほっておいて、すぐに講堂に向かう。
「おっ、島田と藤堂がきたな。よしこれで全員だ。では早速説明する………」
俺たちが講堂に入ってきたのを見て、土方副長が説明をはじめた。
数日前拘束した古高俊子を締め上げたところ、キンノーが今日密談することを白状した。
しかも、坂本竜馬や桂小五郎のような大物も顔を出すらしい。
ただ、実際の密談場所については、四国屋と池田屋のどちらかはまだ決まっていない。
結局、より可能性の高い四国屋の方に、土方副長が大部分の人員を率いて踏み込むことなり、池田屋の方は、局長のゆーこさんが少人数を率いて行く。
とりあえず、実際に踏み込むのは夜なので、それまでは各自武器の準備をすることになった。
「……それにしてもあの古高がよく吐きましたね」
俺は、講堂から出るときに土方副長に訊いてみた。
確か、古高はかなり強情だったから、とてもそんな簡単には吐きそうになかったんだけどな……
「うむ。確かに苦労した。だが、みちるが一晩頑張ったからな」
山南副長が……一晩中………も、もしかして、バ、バイオレンティブ…
ブシッ!
「わっ! こら島田! こんなところで鼻から血を吹き出させるんじゃないっっ!!!」
「こ、こりは、失礼ひまひた」
「まったく、血の気の多い奴だな。その血は今夜キンノー共と遣り合う時のためにとっておけよ」
「は、はひ」
「………まあ、そういうわけで、今回みちるは、休息を兼ねて留守番をしてもらおうと考えている。その分島田達には頑張ってもらうぞ」
「わかりまひた」
「………やっぱり島田に任せるのは早まったかな? でも、永倉や谷もいるから大丈夫か………」
土方副長は俺をジロッと見るとブツブツ呟きながら、どこかへ行ってしまった。
「あら、島田。どこ行ってたのよ」
控え室の障子を開けると、俺に気づいた志乃が声をかけてくる。
そこには原田・永倉・藤堂に加えて谷ナツキまでいる。
俺は、志乃に気付かないフリをして、ナツキの方を向いた。
「おっ、そういえばナツキも池田屋隊の方だっけ」
「そうさ、アタシも池田屋の方だよ」
彼女は谷ナツキ。昔はグレて京のあちこちで暴れまわったらしいが、今はこの新選組で落ち着いている。
「ちょっと、島田っ!」
志乃が声を荒らげて立ち上がった。
「ナツキ、こっちは人数が少なくて大変だよな」
「でも、本命は四国屋の方って話じゃないか。なあ、沙乃もそう思うだろう?」
「そうね。こっちは保険みたいなものね」
沙乃も槍の手入れをしながら頷く。
「島田〜」
「でも、新のハンマーがあれば何人いても一緒だよな」
「そうさ、あたしの永倉ハンマーでぶっ倒してやるぜっ!」
新はそう言ってハンマーの柄を叩いてみせる。
「……いいもん。いいもん。島田の手なんて借りなくても、わたし一人で倒して見せるもん!」
志乃がすっかりいじけて、また壁に「の」の字を書いている。
うーん。あいからず、からかいがいのあるやつ……
「でも、やっぱり最後に頼りになるのは志乃だよな」
「そうそう、なんたって北辰一刀流の免許皆伝だし」
「沙乃の槍は狭い室内だと使いづらいしね」
「あたいのハンマーも連発はきかないからな〜」
…………
「ほーっほほほほ! そうよねっ! やっぱり最後に頼りになるのはこの志乃様よね」
急に立ち上がって高笑いする志乃。
バシッ!
バシッ!
ナツキと沙乃が、志乃の頭を無言でスリッパでひっぱたく。
「い、痛いわねっ!! れでぃーの頭になんてことをするのよっ!」
「じゃかましいっ! とにかくその高笑いだけはやめてくれ。これだからご近所でも『壬生のお屋敷でも、本物を一人預かってて大変ね〜』とか噂されるんだぞっっ!!」
「本物って、誰が?」
きょとんとする志乃。
「「「「オマエだ、オマエ!」」」」
全員で突っ込む俺達。
その夜、池田屋……
ゆーこさんがみんなを集める。
「みんな、今から分担を決めるわよ。わたしとそーじと新が2階。沙乃ちゃんとナツキちゃんが1階。志乃ちゃんと島田君は庭をお願いね!」
「「「「「「はいっ!!」」」」」」
バンッ!!
ゆーこさんが扉を開けて中へ飛び込む。
「新選組です! 御用改めします! 神妙にしなさいっっ!!」
そーじや新もぞくぞくと、建物に入っていく。
「よしっ。俺達も庭にまわろうぜ!」
「いちいち、指図しないでよっっ!」
そういいつつ、庭に回ると、早くも2階からキンノーたちが飛び降りてくる。
ザシュ!
ブシッ!
「おーほほほほっ! そんな腕でわたしに立ち向かおうなんて、甘くてよ!」
さすが志乃……
あんな性格でも、俺よりははるかに腕は立つ。
俺が二人斬る間に、志乃は三人斬ってゆく。
気が付くと、室内からはまだ叫び声が聞こえてくるが、とりあえず目の前にはキンノーはいなくなっていた。
「ほほほ、キンノーじゃ、これぐらいが関の山よね」
そういって、志乃は汗をぬぐうため、額の鉢金を外した……
ザッッ!!
「死ねやっ! 新選組っっ!!」
「志乃っっ!!!! 後ろっっっ!!!!」
「えっ!?」
振り向いた瞬間、繁みから躍りかかったキンノーが志乃に向かって刀を振り下ろした。
バシュ!!!
志乃の額から血が吹き出る。
……ちょうど、鉢金を外した場所だった。
ドサッ。
目を見開き、無言のまま後ろに倒れる志乃。
「志乃ーーーっっっ!!!」
「やった! まずは一人倒したぜ……ウギャーッッ!!!」
よくも、志乃をっ!!
怒りに燃えた俺の刀が、そいつを袈裟懸けに切り払う。
「……島田」
弱弱しい声が聞こえる。
まだ、息があるっ!!
俺は、すぐに志乃のそばに近づく。
「……島田、わたし…」
震える手を差し伸ばす志乃。
俺は、その手をしっかり握り締める。
「………島田、わたし……もう…だめかも……」
「バカッ! しゃべるんじゃないっ! すぐに人を呼んでくるからな!」
弱弱しく志乃は首を振る。
「……ううん。それより………死ぬ前に……一つ…お願いを……聞いて…欲しいの……」
「……なんだ……志乃」
「……わたしが………せめて……死ぬまでの……間……わたしの………願いを……かなえて……ほしい……の……」
俺はいっそう強く、志乃の手を握ってやる。
「わかった。何でも望みをかなえてやる…」
「……うれしい………」
志乃は無理に笑って見せる。
でも、その笑顔はもう曇って見えなくなりかけている……
「おい、島田! どうしたんだ!」
急に声をかけられ顔を上げると、本隊を率いて四国屋に行っていた土方副長が、こちらにかけつけてくれていた。
「ひ、土方副長…… 志乃が……」
土方副長は、志乃の横にかがんで、無言で傷を調べ始める。
「土方副長……俺……約束したんです……せめて…志乃が……死ぬまでは…何でも…願いを…かなえてやるって……」
急に土方副長が振り返る。
「そうか、大変だな」
大変!? いくら非情な副長とはいえ、まさかそんなに冷血とはっ!!
「これから、何十年もこき使われるとはかわいそうに」
………
へっ!? 何十年!?
土方副長は、俺を見てニヤリと笑った。
「これぐらいの傷なら、命には全く別状ないだろう。まあ、これから下僕としてがんばれよ」
な、なに〜−−−っっっ!!!!
「…し、志乃〜……」
「あら、ばれちゃった? 惜しかったわね〜 もうちょっとだったのにー」
そういってぺロッと舌を出す。
こ、こいつはーーーー!!!
俺は無言で志乃を起き上がらせ……
ゲシッ!!
そのまま、池田屋内に蹴りこむ!
「こんどこそ立派に死んでこーーーいっっ!!!」
「ちょっとー!! わたし怪我してるのは本当なのよーーー!!!」
その後、志乃は本当に重傷を負わされ、戸板にのって帰ってくるはめになったのだが……
「島田って、薄情ね。わたしがこんなに怪我してるっていうのに、労わりの言葉一つないんだから」
誰が心配するかっ!!!
「……おまえな。自業自得だろうが」
「あ〜あ、あの時は何でも願い事をかなえてくれるっていってくれたのになー」
ゲシッ!
俺は戸板を下から蹴り上げる。
「痛〜い。傷にひびくっ! ひびくっ!」
「だったら大人しく寝てろ!」
「……んもう、わかったわよ」
向こうを歩いていたゆーこさんがこちらにやってきた。
「今日は、二人ともよくやってくれたね。とってもうれしいよ!」
「ありがとうございます」
「うんうん。島田君は、下僕なんだから志乃ちゃんにしっかりついていてあげないとね」
……
はあーーーっっ!?
「……あのー、ゆーこさん……それどこから聞いたんでしょうか」
「えっ!? 歳ちゃんがあちこちで言いまわってたけど。どうしたの?」
逆に不思議そうな顔で聞き返すゆーこさん。
ひ、土方副長ーー! とんでもないことをーーーっっ!!
それからは、行く先々で、
「よう島田、志乃の下僕になったんだって?」
「島田……あんたも物好きよね……」
さらには、出迎えの山南副長にまで、
「あっ島田君。今日から志乃の下僕なんだってね。がんばってね♪」
…………
結局、噂を消すのに十日もかかってしまった。
土方副長〜……恨みますよ〜……
〜終〜
〜〜あとがき〜〜
せっかくだから、山南みちる以外のメンバーも出してやろうと思って書きました。
とりあえず、一番のお気に入りのアホの総本山(笑)「藤堂志乃」からということで