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  ※このSSは「痕」の「柏木家の食卓」のパロディーです。「柏木家の食卓」シナリオをプレイされていないと、意味不明だと思います。
  ※また、横に並べて、原文との違いを見較べながら読まれますと、より一層お楽しみいただけます。


藤崎家の食卓


 
 ・・・ドクン、ドクン、ドクン。
 ひどく緊張している・・・。
 例えば、子供の頃、病院で注射の順番待ちなんかで味わう緊張。
 自分が、今まさに犯罪者となろうとする瞬間も、多分こうなんじゃないかな?
 とにかく緊張し、心拍数が・・・。
 
「ど〜いう意味よ!」
 詩織に言われ、俺は苦笑を返した。
「いや・・・でもね」
「そんなに私の手料理を食べるのが嫌なの?」
「そりゃあ、嫌に決まってるっしょ?しおりんの料理は超あやしいって話じゃん!」
「朝日奈さん!」
「・・・ひ・・・ひなちゃん、言い過ぎだよう・・・」
「そう言う沙希だって、箸を握ったまま、一口も手をつけようとしないじゃん」
「・・・えっ、そっ、それを言うんならっ、美樹原さんだって・・・」
「あ、あの・・・」
 詩織を不安げに見ていた美樹原さんは、うつむいてしまった。
「みんなひどいわっ!いくら私が、ちょっぴり料理が下手だからって・・・」
「ちょっぴり・・・って、しおりん、自分の料理を食ったことぐらいあるっしょ?
 あれのどこがちょっぴりなのよ・・・」
「・・・だ、だからって、そんな毒みたいに扱わなくてもいいじゃない」
「・・・で・・・でも・・・現に味見した美樹原さんのムクが・・・」
「あっ、あれはきっと、熱かったのよ。猫舌っていうけど、犬もきっと犬舌があるのよ!」
「・・・だけど・・・ムク、動かなくなっちゃったよ・・・」
「き、きっと、、ムクだけに、そのうち「ムクッと」起き上がるわよ〜。ムクとムクッと。ワンワン!なんちゃって〜っ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・詩織ちゃんひどい・・・」
 詩織は赤い顔でコホンと咳払いをした。
「・・・とっ、とにかく、あれからもう一回手直しして、自信を持ってお届けするんだから、大丈夫!」
「だいたいさあ、しおりん。自分のぶんはどうしたの」
「も、盛りつけてみたら、足りなくて・・・」
「じゃあ、あたしのぶん少しずつ分けたげるよ」
「い、いいわよ。朝日奈さん。私は作ってるときに、たくさん味見したから・・・」
「遠慮しないでって!沙希、皿、持ってきて!」
「うん。ちょっと待ってね。」
「それ、カチャカチャ・・・」(夕子)
「あたしもあげるね、カチャカチャ・・・」(沙希)
「あっ、俺も、俺も、カチャカチャ・・・」(俺)
「え、そんな…カチャカチャ・・・」(愛)
「うん。これで、みんな行き渡った」
「・・・わ、私のぶんがすごく多いんだけど・・・」
「ま、作った本人なんだしさ。一番多く食べらんなきゃ可哀想ってもんじゃん。」
「・・・みんな、よっぽど、食べたくないのね・・・」
 詩織はクスンと鼻をすすった。
「・・・あ・・・あの・・・藤崎さん・・・」
「・・・ふんっ。いいわ、そんなに嫌なら食べなくても。私がひとりで食るもんっ!」
 詩織は、プンとすねながらもスプーンを取り、そのいかにも怪しいキノコのリゾットをすくって、口に運んだ。
 全員が息を飲んで見守るなか、詩織はもぐもぐと食べた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 そのとき、
「・・・うっ!」
「しおりん!」
「藤崎さん!」
「詩織!」
「詩織ちゃん!」
 
「・・・うっ、うっ、・・・うまいっ!なんてねーっ!」
 ガタッガタッガタッ。
 全員がこける。
「あらっ、ウケちゃった!?」
「こ、古典的すぎて、こけたんだよ」
 俺が言った。
「でも、ホラ、大丈夫!おいしいわよ!」
 詩織はパクパクと自分の料理を食べる。
「・・・正直、ちょっとヤバイかな〜って思ってたけど、ウン、全然平気!」
「・・・ヤ、ヤバイかなって、ヤッパしおりん・・・」
 朝日奈さんが睨むように詩織を見た。
「ホラ、ホラ、美味しいわよ!みんなも早く食べて食べて!」
 パクパク・・・。
「ありゃ?食ってんじゃん。」
「・・・だ、だまされちゃだめだよ、朝日奈さん。詩織は、とんでもない味覚オンチなんだからな」
「でも・・・美味しそう・・・」
「駄目だって、虹野さん!それが罠なんだって!」
「こらっ、コウくん!なにが罠よ!」
「あ、あたし、食べる!」
「さ、沙希!」
「だって、美味しそうなんだもん」
「やっぱり虹野さんは優しいわね〜。ひねくれ者の誰かさんと違って・・・」
「俺がひねくれたのは、みんな詩織のせいだ!一番付き合いの長い俺は、小さい頃から詩織のそんな偽善・・・ヒッ!」
 俺は息を飲んだ。
 詩織がこっちを見て微笑んでいる。
「コ、ウ、くん・・・?」
「ひいいいぃぃぃっ」
「・・・い、ま、な、ん、て、言、お、う、と、し、た、の、か、な、?」
 にっこり。
「な、な、な、な、な、なんでもないですぅ」
「そっ。ならいいの」
「はっ、はぃぃ…」
 
「いただきま〜す」
 虹野さんが料理に手をつけた。
「もぐもぐ」
 ややあって。
「おいしー!」
「えっ!?本当!?」
 俺と朝日奈さんと美樹原さんは声を揃えて訊いた。
「本当よ!すっごく美味しいわ!根性を感じるわっ!」
 …根性っていったい…
「でしょでしょ?」
「うん、本当に美味しいわよ!とっても不思議な味がして、ほっぺたが落ちそうになるわっ!」
「ふ・・・不思議な味」
 虹野さんは、ちょっと異常なくらい、「美味しい美味しい」と言って食べ続けた。
 俺と朝日奈さんは顔を見合わせる。
「だ、大丈夫そうだな」
「・・・う、うん」
「・・・君はどうするの、美樹原さん・・・って、アラーっ!?す、すっかりもう食べちゃってるぅー!?」
「あ、あの…大丈夫そうでしたから・・・」
「すみずみまで残さず、しかもこんなに早く!?」
「メグは食べるの早いからね。」
 詩織は、驚くべき事実をさらりと言った。
「しゃーないなあ〜。あたしも食べよっと。」
 朝日奈さんは安心したようにそう言うと、早速パクパクいきはじめた。
 相変わらず決断が早いな〜。
「おっ!マジいけるじゃん、これっ!」
「でしょでしょでしょ〜!」
「しおりんにしては超ウマイって感じだよねっ、コレ!」
「それに、リゾットなんて凝ってるしねっ」
「そう、そう。料理の下手な奴に限って、妙に凝ったメニュー作るもんなのよね〜」
「朝日奈さん…人のこといえるの…」
 
 パクパクパクパク。
 すでに食べ終わった美樹原さん以外の全員が一心不乱に食べている。
 そんなにうまいのか。
「コウくんは食べないの?」
「おいしいわよ!」
「コウくんに食べてもらおうと思って作ったのに・・・」
 詩織が、ちょっとすねたような可愛い顔で俺を見る。
 うっ。  ど、どうしようか・・・。
 
 そうだ、やっぱりやめておこう。
 俺の本能がそう叫んでいる。
 長い付き合いからくる勘とでもいおうか。
 なんといってもやばそうなのは、俺の視界に入る、リゾットの中の「キノコ」!
 詩織の料理以前に、このキノコという食い物がくせ者なのだ。
 だいたい、こんなギャグシーンに出てくるキノコを食うと、ろくなことにならない。
 料理に怪しいキノコが出てきて、美味しいからって調子にのって食ってると、後でそれが
 ワライタケだとわかる・・・なんてのは、ギャグの王道なのだ。
 ワッハッハッハ・・・。
 ・・・今日も食卓は楽しい笑顔に包まれました。
 などというくだらないオチがあるに決まっている。
「その手には乗るものか」
 俺は誰にともなしにそう言った。
 
 いいか。
 見てろよ。
 どうせ今にとんでもないことが起こるぞ。
 3、2、1・・・。
 
「うらああああああああぁぁぁぁーーーーーーー!」
 
 そら来た!
 その声の主は、しかも、なんと虹野さんだった。
 虹野さんはいきなり立ち上がると、ちゃぶ台返し・・・もとい、座テーブル返しをした。
 ガシャーーーーーーン!
「にっ、虹野さんっ!」
 詩織が驚いた表情で立ち上がる。
「うらぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!この偽善者〜〜〜っ!
 飯の中に、なにいれやがった〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「に、虹野さんっ!?なっ、なにをっ!」
「あっ、あの優しい虹野さんが、まるでタチの悪いチンピラのように!?」
「ぜって〜おかし〜ぞ、この飯はよおぉ〜〜〜っ!」
「に、虹野さん、ど、どうしちゃったの!?」
「キノコ中毒だ!」
 俺が叫んだ。
「えっ!?キノコ中毒!?」
 詩織が読者にも解り易いように繰り返した。
「きっと、なんか珍種のキノコを食って、中毒症状を起こしたんだ!」
「ええっ!?」
「詩織、あの中にいったいどんなキノコを入れたんだ!?」
「庭になってたやつを、チョイチョイッと」
 詩織は舌を出して言った。
「こら〜〜〜〜〜っ!偽善はやめろ〜〜〜〜〜っ!
 反吐がでら〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「ひっ、酷いわ、虹野さん!私、偽善者なんかじゃないモンッ!」
 ぷいっ。
「それが偽善チックってんだよ〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
「ああ、あんな純粋だった虹野さんが、目も当てられない不良に〜〜〜〜っ!」
「おら〜〜〜〜〜〜〜〜っ!こう〜〜〜っ!」
「は、は、は、は、は、はいぃぃっ!」
「愛してるぜ、ベイビー」
 ヤンキー虹野さんはポッっと赤らんで、パチッと俺にウインクした。
「・・・よ、よろこんでいいのか、悪いのか・・・」
「・・・こっ、コウくん、こんなところに都合良くキノコ図鑑があるわよ!」
「まさにお約束。大抵こんなキノコ中毒モノの話にはキノコ図鑑があるのが相場なんだよな〜」
「それはともかく、早く中を」
「そっ、そうか」
 パラパラ・・・っと。
「おっ、あった、あった、!これだ、これだ!」
「なんて書いてあるの?」
「・・・セイカクハンテンタケ!食べた者の性格を反転させてしまう毒キノコ」
「なんか、そのままって感じの名前よね〜」
「ほんまやな〜」
「ワハハハハハハハハハハハ・・・・・・・・・・・・・・・」
 俺と詩織は、声を揃えて笑った。
「笑ってる・・・場合か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 パカ〜ンッ!
「あべしっ!」
 虹野さんの弁当箱が、俺の脳天を直撃した。
 俺は北○の拳的な呻き声とともに、意識を失った・・・。
 










 
「・・・くんっ」
 
「・・・ウくんっ」
 
「コウくんっ!」
 
 はっ。
 がばっ!
 瞼を開けると、目の前には詩織がいた。
 
「…こ…ここは?俺はいったい…」
「しっかりしてよ!キノコ中毒になった虹野さんの弁当箱の一撃でダウンしたのよ!」
「…そ、そうか」
「それよりも大変だわ!虹野さんが、外へ出て行っちゃったのよ!」
「…えっ!?」
「早く見つけて止めないと大変なことになるわ!」
 詩織は緊迫した表情で言った。
「普段は、そりゃあもうちょっとした嘘もつけない正直者だから、性格が反転したら、いったい、どんな恐ろしい悪人になることやら…」
「…た、確かに。…キャッチセールスぐらいは平気でやるだろうし、下手をすると、援助交際だって…」
「ひいいいぃぃぃっ!やっ、やめてよっ!」
「とにかく、虹野さんを捜しに行こう!」
「そうね」
 俺たちは居間を出た。
 
 廊下に出ると、美樹原さんらしい人影があった。
「お〜い、美樹原さ〜ん!」
 呼び止めると、美樹原さんは振り返った。
「虹野さんを見なかった!?」
「……」
「大変なんだ!一刻も早く虹野さんを止めないと!」
「イエ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜イッ!」
「えっ?」
「今日はもう気分ウキウキ!!チョベリグーな感じみたいな〜〜〜〜〜!」
「……」
「……」
「外はまぶしいサンシャイ〜ンッ!」
「…こ、コウくん」
「駄目だ…すっかりやられちまってる」
「せ、性格が反転したせいで、あの大人しいメグが、まるで別人のように騒がしくなっちゃってるわね…」
「一番、美樹原愛!チョー明るい歌をうたいま〜す!
 う〜ら〜み〜ま〜す〜〜〜〜〜…って、メッチャ暗いやんけ〜!」
「…ガガーン!?ノ、ノリツッコミ!?」
「ううっ、メグ、ここまで立派に成長してたなんて…。姉さんには、もう教えることは何もないわ…」
「…って、誰が姉さんやね〜〜んっ!」
 俺と美樹原さんが、ダブルで突っ込んだ。
 
 玄関で朝日奈さんと出会った。
「あ、朝日奈さんっ!虹野さん見なかったか!?」
「…ううっ…主人さん」
「主人…「さん」!?」
「…よよよ。…今回の不祥事、全て、このあたくしのせいでございますぅ〜〜〜〜〜」
「コウくん…」
「こいつも、イッちゃってるな…」
「…ああ。…このあたくしが、料理さえできれば、このようなことには〜〜〜よよよ…」
「いつも強気だから…弱気になっちまったのか」
「これはこれで結構いいかも」
 詩織は意外に冷たい。
「…ああっ、このさいは死んでおわびを〜〜〜〜っ」
 朝日奈さんはどこから取り出したのか、普段は手にしたこともない包丁を片手に自分の喉もとに当てて構えた。
「わ〜〜〜っ!まてまてまて〜!早まるな〜!」
 俺は慌ててその手を止めた。
「…こ、こんなあたくしを、お許しになってくださるのですか〜〜〜よよよ…」
「許す許す許すから〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「…私、なんだか、今の朝日奈さんの方がいいな」
「詩織〜。そんな薄情な…」
「…そうだわ、この際だから…。ちょっと、朝日奈さん!わたしのスリーサイズとかの情報、早乙女君に流すのやめてほしいわ!」
「…ももも申し訳ございませ〜〜〜ん!あまりにもビンボ〜でしたので、思わず昼食代に売ってしまっただけなんですぅ〜〜〜〜〜〜よよよ…」
「なっ、なんですって〜〜〜!?わたしの情報が昼食代の価値しかないっていうのっ! きぃぃぃぃっ!」
「…し、詩織…(論点がずれてるよ…)」
 
「虹野さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
「虹野さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
 
「虹野さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
「虹野さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
 
「虹野さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
「虹野さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
 
「う〜ん。虹野さんはどこにいるんだ〜!?」
 俺が唸ったとき。
「あっ、いたわよ!コウくん、あそこに!」
 詩織が道路を指差して言った。
「あっ!虹野さん!」
 目の据わった虹野さんが、知らない人の家の塀の前でスプレーペンキを片手に、不敵な笑みを浮かべていた。
「フッフッフッフ…」
「虹野さん!ま、まさか、塀に「煮死悩惨上!」って書く気なのかしら!も、もしかして、そのうえ、「夜露死苦!」って書くつもりじゃ…」
 詩織の顔面が蒼白になる。
「…しょ、小市民な悪モノぶりだな〜」
 
 虹野さんはスプレーペンキのキャップをはずして塀に向けた!
「やっ、やめるんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 全力で走った俺が、飛び付こうとした、その瞬間。
 
「あっ! スプレーのキャップ、落としちゃった!」
 虹野さんは突然立ち止まり、しゃがみ込んだ。
「あううううぅぅぅ〜〜〜〜〜〜っ!」
 俺は止まらない。
 
 バキィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!
 グワッシャ〜〜〜〜〜〜ン!
 俺は人型の穴を残して塀を突き抜けた。
 …バッシャ〜〜〜〜〜〜〜ン!
 
 最後の「バッシャ〜ン!」は、もちろん、俺が庭の池に落ちた音だ。
「コウくん!」
「ブクブクブクブク………」
 俺は池の中でプカプカ浮かび、寄ってきた錦鯉が俺の体中をツンツンと突つきまわした。
 
「大丈夫!コウくん?」
 俺は、やっとのことで池からはい出し、詩織に肩を貸してもらいながらも、虹野さんを捜した。
「ううっ、虹野さんは俺に「根性よっっ!!」って言ってくれたんだ。この程度ではくじけられないよ…」
「まっ!」(嫉妬)
 ぱっ…。
 バタンッ!
「ムギュ!」
 詩織がぱっと手を放したので、俺は地面にうつ伏せに倒れて顔を打った。
「ひ、酷いよ、詩織…」
 俺が顔を上げて言った、そのとき。
「あっ、また、いたわよ!コウくん、あそこに!」
 詩織が商店街を指差して言った。
「あっ!虹野さん!」
 目の据わった虹野さんが、商店街で鏡さんに絡んでいる。
「…フッフッフ。…姉ちゃん金出しな〜〜〜〜!」
「ひいいぃぃっ。わ、わたくしっ、おっ、お金なんて、持ってませんわ!」
 な、なんと、カツアゲしている!?
「嘘つけ、このアマぁ!ジャンプして見ろぉ〜!」
「ひっ、ひいいぃぃっ」
「おらっ、跳べっ!」
「はっ、はひぃ!」
 
 ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん!
 じゃら、じゃら、じゃら、じゃら!
「うおらああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!しっかりもってんじゃね〜〜〜〜〜〜〜〜〜か!」
「ひっ、ひいぃ!これは弟達の給食代なんですぅ」
「そのふたつの手は、なんのためについてんだ〜〜?ああぁぁ〜〜ん!?弁当をつくってやらんか〜〜〜い!」
「ひっ、ひええええっ!たすけてぇ〜〜!あなたたちぃ〜〜〜〜!」
 鏡さんの声を聞きつけ、どこからともなく親衛隊がわいてきた。
「「「はいっ!、鏡さんっっっ!」」」
「ふ、不良にからまれてるのよぉぉぉっ!」
「「「なんですって!」」」
 
「げっ、マズイ!虹野さんが袋叩きにあってしまう!」
「腕が折られたら料理ができなくなっちゃうわ!」
「こ、ここは俺が!」
 俺は全力で、鏡さんに駆け寄ると、
「ボイン、タ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッチ!」
 むにゅ〜〜〜〜〜っ。
 柔らかな感触。
「ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎえ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 鏡さんが絶叫する。
「…あ、あ、あ、あなた、そんな事をしてただで済むと思ってるのっっっ!」
「「「きっ、貴様ぁ、われらの鏡さんに対してなんて無礼な真似を〜〜〜〜〜!」」」
「コっ、コウくんっ、なんてことを!」
 ううっ、しかたないのだよぉ。
「いっ、今のうちだ、虹野さん!君だけでも逃げるんだ…って、アラ〜〜〜!?もういないっ!?」
 そこにはすでに、虹野さんの姿はなかった。
「「「主人公っっ!、覚悟はいいなっっっ!」」」
 と、親衛隊。
「あなたたちっっ!やっておしまいっっっ!」
 と、鏡さん。
「見損なったわっ、コウくん!ぷんっ!」
 と、詩織。
「詩織、なに言ってんだよ。俺はただ…」
「見ろよ、アーヤ!。痴漢だってさ。」
「アンビリーバブル!しんじられないわ。夏も過ぎたっていうのに、まだパラダイスハートなのかしらねぇ?」
 と、通り掛かりの清川さんと片桐さん。
「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわん!」
 …ムク。…おまえ生きていたのか…。
 
 俺はもう何も言うことはなく、大人しく泣きながら親衛隊にどつき倒された。
 
「ふひ〜〜〜〜っ!ようやく解放されたよ〜〜!」
「おつとめご苦労さまです」
「や、やめてくれよ、そのいいかた…」
「あっ、今度はあそこに虹野さんが!」
 ちょっぱやの展開だった。
「コ、コンビニに入っていくぞ!」
「ま、まさか、万引きするのでは!」
「とっ、止めなければ!」
 俺たちは急いで中に入った。
「フッフッフッフ…」
 虹野さんは、何を万引きするかを物色している。
 ああ〜、悪の目だ〜。
 うう〜っ、これ以上、あの純粋な虹野さんに悪いことをさせるわけにはいかないぞ。
「詩織!なにか虹野さんをもとに戻す方法はないのか!?」
「う〜ん。強いショックを与えれば、あるいは…」
「ショック療法か、よ〜し!」
 俺は何か、虹野さんに強いショックを与えることにした。
 
 俺たちは、虹野さんの前に立った。
「ふっふっふ、これはこれは、おふたりともわざわざお揃いで」
「虹野さん!」
「どうした公?あたいが恋しくなったのかい?」
 い、いやだ〜。
 こんなハスっぽいの、虹野さんじゃな〜い。
「虹野さん、俺が必ず元に戻してやるからな!」
 
 強いショックか。
 うーむ。
 たとえば、どんな…。
 いきなりビンタを張る…とか。
 いや、駄目だ!
 虹野さんに、そんなことできるわけがない。
 だとすれば…。
 
 お尻を触る。
 胸を触る。
 いきなりチューをする。
 駄目だ〜っ!
 これじゃ、後で詩織に確実に殺される。
 だとしたら…。
 う〜ん。
 う〜ん。
 
「えいっ、ハリセンアタック!」
「あうっ」
 バキッ、バキッ、グシャ〜〜〜ンッ!
 
 う〜ん。
 う〜ん。
 きっとふたりの愛のちからがあれば…。
 
「もしもし、コウくん」
 
 いきなり抱きしめて、直接心に訴え掛けるとか?
 虹野さん!
 放せ,馬鹿野郎!
 俺の声が聞こえるか!
 放しやがれ、先公(いつの間にか教師)!
 沙希!
 ビクッ!
 俺の声を聞け!この俺の熱いハートで…。
 
「もしもし、もしもし…」
「ちょっと、待ってよ。今いいところなんだから!」
「ねぇ〜、もう終わったんだけど…」
「そう、終わった…って、ええ〜っ!なんで〜?」
「私がちょっと、ハリセンアタックでね。」
「……(虹野さん商品棚にめり込んでるよ…)」
「さっ、早く帰りましょう」
 詩織はさらりと言った。
「…詩織…。ちょっと強すぎるんじゃ…」
「…なによ。コウくんもわたしのハリセンくらいたい?」
「…な、なんでもないです…」
 
 帰り道、ようやく虹野さんは意識を取り戻した。
「うう〜ん。なんだか、悪い夢を見ていたような気がするな…。それに体中がなんだか痛いし…」
「まさに悪い夢だった…」
「それだけ、普段の虹野さんが純粋ってことよ」
 詩織がクスッと笑うと、
「?」
 虹野さんは不可解そうな顔をした。
 
 俺たちは夕暮れの道を歩いて帰った。
 道の途中で、俺は、ふと、あることに気付いた。
「あれ!?そういえば、詩織も性格反転キノコ食ったはずじゃなかったっけ!?」
「えっ!?」
 そうだよ。
 確かに食った。
 それも一番最初に…。
「…だったら、詩織も、性格が反転しているはずなんだよな。…でもその割に、ちっとも変わってないような…」
「えっ?えっ?」
 詩織はとぼけた顔で微笑んだ。
「…反転して、その性格だってことは、やっぱり、いつもの詩織は…」
「…コウくん…」
 俺は詩織の顔をちらっと見た。ヤ、ヤバイかなりきている。
「え〜いっ!天下無敵のハリセンアタ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ック!!」
 バコーン!!
「もう!コウくんなんてしらないっっっ!!」
 といってスタスタ去っていく詩織と、オロオロしながらそれを追いかける虹野さんの姿をチラッと見ながら、
 俺はお空の星になっていった。
 
   〜おわり〜
 
 
〜〜あとがき〜〜
 
えーと……これをSSといっていいんでしょうか。
良く言えば、原文を忠実に再現した。悪く言えば、そのまんま(笑)
 
実はこの作品は1998年頃に作ったんですが、
完成した直後に、「きらめき書房」というサイトで、
これと全く同じテーマの作品を見つけてしまいまして、
お蔵入りさせてしまいました。
ちなみにその作品の方が、オリジナリティは格段に高くなっています。
さらに言いますと、実はシチュエーションが若干異なっており、
千鶴役・楓役・初音役は同じなのですが、わたしが朝日奈さんを振り当てた梓役が、
その作品では紐緒さんになっています。
 

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