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※このSSは「シスタープリンセス」のパロディーです。「電撃G'sマガジン」か、「シスタープリンセス」のゲームをプレイされていないと意味不明だと思います。


千影の願い


「兄くん……ちょっといいかな…」
 
 それは、朝食を食べた後、居間で新聞を広げたときのことだった。
 顔を上げるといつの間にか千影が目の前に立っている。
 
「……なんだい? 千影」
「……ちょっと、わたしの部屋まで来てくれないか……手伝って欲しい事があるんだ…」
「手伝って欲しい事?」
「……これは、兄くんにしかできないことなんだ……頼む…」
 
 ……俺にしかできないことねぇ。
 まあ、他ならぬ千影の頼みだしつきあってやるか………どうせ、暇だし。
 
「わかったよ。なにをすればいいのかい?」
「……とりあえず、私の部屋まで来てくれ。……詳しくは、そこで話すよ」
 そう言うと、千影はサッサと居間を出て、自分の部屋の方に向かっていく。
 
 ……まったく、相変わらずだな。
 俺は苦笑して千影の後を追いかけた。
 
 
 千影の部屋に一歩入ると……
 
「相変わらず、怪しさ大爆発の部屋だな。ここは……」
 
 窓という窓が黒いカーテンで覆われ、朝だというのに薄暗い。
 照明も極限まで抑えられ、これでブラックライトをつけて派手なBGMを流せば、そのままディスコに早変わりできそうだ。
 しかし単に暗いだけじゃなく、部屋の真ん中には魔方陣が書いてあり、カーテンの周りは黒いゴテゴテした装飾で彩られている。
 さらには、正面には頭蓋骨が並べて……!?
 
「ちょっとまて千影。これはどこから手に入れた」
「……仕方がなかったんだよ兄くん……どうしても必要だったから…」
 そう言って決まりが悪そうに俯く千影。
 
 ま、まさか……その辺にいる人を…
 
「本物なんてとても手に入らないし……しょうがないから…………粘土でつくったんだ」
 
 ガクッ
 
 そ、そーですか…
 
「あ、でも、おかげでなかなか上手くなったんだよ……ほら、これなんかいい出来だろう?」
 
 千影さん……
 そう言って、嬉しそうに埴輪を見せられても、俺は一体どうリアクションすればいいんでしょう……
 
 ……ということは、この周りの黒い飾りも…
「やっぱり紙細工か……」
 触るとビラビラ音がする。
「……それは、手間がかかったよ……丸三日費やしたからね」
 
 うーん……千影が部屋に閉じこもって、三日間ひたすら紙をチョキチョキ切ってる姿を想像すると……ちょっと楽しいかも♪
 
「おおっ、そういえば、俺に何か手伝って欲しい事があるんじゃなかったっけ?」
 危うく忘れるところだった。
「……実は、悪魔召喚の儀式をしようと思ってるんだ」
「あ、悪魔召喚?」
「うん……それで、兄くんに手伝って欲しい事があるんだ……これは、兄くんにしかできない」
 まあ、悪魔召喚というのが千影らしいといえば千影らしいが………はっ!?
 
 待てよ!
 
 俺にしかできないという部分を何度も強調してるということは………
「ま、まさか………い、生け贄?」
「失礼な……私が生け贄を使って召喚しようなどとは……よく考えてはいるが」
 
 ……おいおいおい
 
「今回は……ちゃんと生け贄無しで呼び出せる儀式を考えてある」
 
 ほー……助かった…
 
「……どうだい、兄くん……手伝ってくれるかな?」
 
 まあ、生け贄にならずに済むんだったら安心だよな。
 
「いいよ。手伝おう」
「うれしいよ……兄くん」
 珍しくニッコリ笑ってくれる千影。
 つい、俺も嬉しくなってしまう。
 
「じゃあ、俺は何を手伝うんだ?」
「……生け贄無しで悪魔を召喚するためには……ある音楽に合わせて体を動かすことで…精神を陶酔状態にする必要がある……しかし陶酔状態なるには…かなり激しく体を動かさなければならない……そこで兄くんに…私の代わりに体を動かしてもらいたいんだ」
「なるほど、激しい運動だから俺というわけか」
「そうだ…兄くん」
 
 まあ、妹達にやらせるわけにいかないだろうしな。
 
「では…体の動かし方だが……まず立って両手をうえに真っ直ぐ上に上げて…ちょっと肘を曲げる」
「こうか?」
「そう…そんな感じだ……それから…膝を曲げて……ちょっと腰を落とす」
「こう…かな?」
「そうそう…兄くんなかなか上手いぞ……それで音楽に合わせて…体を左右に激しく振る」
 
 ふーん、変わってるなぁ。もっとも儀式なんてそんなものか。
 
「それから…音楽の方は私が用意している」
 
 ガサガサ……
 
 そう言って、千影はちっちゃなラジカセを取り出した。
「それじゃ兄くん……用意はいいかな?」
「……なんだかよくわからないが、とりあえずいいぞ」
「……それでは、スタート」
 
 ポチッ
 
『……踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らにゃソンソン!』
 
 バタッッッッ!!
 
 思わず床にぶっ倒れる俺。
 
「……おや、兄くんどうしたんだい?」
 
 ガバッ!
 
「千影っっ!! これは阿○踊りじゃないかぁっっ!!」
「何を言うんだ、兄くん……ほんのちょっと似てるだけじゃないか…」
「『似てる』じゃなくてそのものだっっ!!」
「……そうかな?」
「と・に・か・く、こんな踊り、俺は踊らないぞっ!」
「……そうか……それは困ったな」
 
 千影はちょっと考え込んでいたが、すぐに俺の方を向いてニヤッと笑う。
 
「……じゃあ……やっぱり生け贄だね」
 
「………」
「………」
「……すみません。踊らさせていただきます」
 
 俺の負けだった。
 
「……では兄くん……できるだけ激しく踊ってくれたまえ」
「もう、なんだってやってやるわいっ!」
「……気を取り直して、ミュージック再スタート」
 
 ポチッ
 
『……踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らにゃソンソン!』
『エライヤッチャ! エライヤッチャ! ヨイヨイヨイヨイ!……』
 
 俺は狂ったように踊り始めた。
 これを一言でいうと『ヤケ』と言う。
 
 ちくしょーっっ!! これで何も起こらなかったら俺は暴れるぞっ!!
 
 俺が踊りつかれてだんだん手足が動かなくなった頃……
 
 モクモクモクモク……
 
 魔方陣の真ん中から、突如黒い煙が立ち昇ってきた。
 あっという間に部屋の中が煙で充満する。
 
 バタン! バタン! バタン!
 
 大急ぎで窓を開けて回る俺と千影。
 
「ゴホゴホ……何なんだ、この凄い煙は…」
「コホン、コホン……すまない……こういうことになるとは…予想して無かったよ…」
 
 煙が窓から出て行って、だんだん部屋の中が見渡せるようになってくる。
 
 そして、魔方陣の中心には……
 
「まいど! いつもご贔屓にしてもらってます!」
 
 ……スーツ姿の小太りの中年男性が立っていた……
 
 俺は、あわてて隣の千影を問い詰める。
「お、おい千影。お前一体何を呼び出したんだ?」
「わ、私は……悪魔を召喚した……つもりだったんだが…」
 千影も呆然とした表情で目の前の男を見つめている。
 
「ん? 今のセリフ聞き捨てなりませんな。あたしゃほんまもんの悪魔ですよ。ま、とりあえずこちらをどうぞ」
 そういって、男は内ポケットから名刺入れを出すと、俺と千影に一枚づつ渡してくれる。
 
『有限会社 地獄
   灼熱地獄部外渉四課
    アシスタントマネージャー  悪魔27号』
 
 ゆ、有限会社?
 
「いやー、呼び出してもらうなんて久しぶりですなー。もう最近はこっちからアプローチして行かなきゃならないから大変ですよ」
 男は妙にニコニコしながら話し続ける。
「……本当に悪魔なのかい?」
 千影が疑わしそうに聞く。
「いやですねー、呼び出したのはお客さんじゃないですかー だいたい悪魔じゃなかったら、どうやって入り込めると言うんです。」
「……たしかに、それもそうか…」
 鍵のかかった室内に入り込むなんて、まあ、普通の人間では無理だよな。
「しかし、あんまり悪魔って雰囲気じゃないな。なんか、もっとおどろおどろしいのを予想してたんだが」
「まあ、確かに昔はそんな格好をして威張ってりゃ良かったんですが、最近は競争も激しくてサービスを良くしないと、なかなかお客さんを確保できないんですよ」
「競争?」
「そうなんですよ。もう天国との競争が厳しくて。向こうの方がイメージが良い分有利ですからねー。しょうがないんでウチは地道に足で稼いでいるという訳です。あたしらも上司から厳しいノルマを言い渡されてるんですよー」
「た、大変そうだな」
「本当にもう大変で……って、あたしの愚痴を聞いてもらってる場合じゃなかったですね。で、あたしを呼び出したってことは、何か願い事があるってことですよね。ささっ、どうぞどうぞ遠慮なく」
 話を振られた千影は首を捻って考え込む。
 
「……しまった……召喚した後の事までは考えてなかった」
 
 おいおいおいおいっ!
 
「あれれ、そうなんですか? ……うーん困ったなぁ、せっかくノルマを一つこなせると思ってたのに…… そうだ! そちらのお兄さんどうですか?」
「えっ!? 俺」
「そうそう、どうです。この世の楽しみと引き換えに、死ねば必ず地獄行きってことで」
「ちょ、ちょっとそれは遠慮したいな」
「まあまあ、そうおっしゃらず。お得なプランも多数用意させて頂いてますよ。『聞いて極楽、見て地獄』プランなんかいかがです。」
 へぇ、なんか面白そうな名前のプランだな。
「ちなみにそれはどんな内容なのかな?」
「よくぞ聞いてくださいました! このプランはですねぇ、地獄に行った時に、天国の音声を聞くことのできる特製イヤホンのサービスです。地獄にいながら天国の楽しそうな様子を聞くことで、通常より2倍苦しめるという、とってもお得なプランなんですよ」
「……いらんわ。そんなの」
「まあまあ、お気に召さないようでしたら、他のプランはいかがですか? 『地獄の沙汰も金次第』プランなんか、みなさまに喜んで頂いてますよ」
「……ちなみに内容は」
「これはもう、素晴らしいですよ。追加料金をお支払い頂く事で、灼熱地獄の温度がアップ! しかも、通常なら30%アップ(当社比)のところが、サービス期間中の今なら、なんと50%アップ(当社比)! どうです、魅力的でしょう?」
「……帰れ」
「ええっ!? そんな、ほら、他にもいろいろありますよ。こちらのスタンプカードなんか、全部たまると願い事が一つ余分にかなえられるんですよ。さらに現在、新規会員募集のキャンペーン中ですからスタンプが通常の2倍ですよ。ねっ、お得でしょう?」
 
 ……だんだん、頭痛がしてきた。
 
「まあまあ…兄くん……せっかく召喚したんだから…願いを言うだけ言ってみたいのだが……」
「千影! 地獄に行きたいのか!?」
 
「いや……私じゃなくて兄くんの魂でどうかなと思ってね」
 
 ちょっと待て、俺の魂かい。
 
「あたしゃ、別に誰の魂でもかまいませんよ。とにかく地獄に連れて行ければいいんですから」
「よし……商談成立だな」
「ちょ、ちょっと待てーーーっっ!! 当事者の俺の意見はどうしたっっ!!」
「……大丈夫だよ。兄くん」
「何がだ」
「生きている間は……地獄に連れて行かれることは…ないから」
「そうそうお兄さん、今から死んでからのこと考えてもしょうがないですよ。どうせ死んじゃったら、地獄に行こうがどうしようがかまわないじゃないですか。あははは」
 
 ……あんたが言うな、あんたが。
 
「話し合いがついたところで……早速第一の願いだが…」
 ……俺の意見はキッチリ無視されてしまった……
「まずは…私を…この世界の王にしてくれる……といったところでどうだろうか?」
 
 ……いきなりそんな願いかい。
 
「…え、えーと」
 悪魔は妙にあせっている。
「……どうしたんだい?」
「あ、あのー……誠に申し上げにくいのですが、あたしゃ悪魔の中でも下っ端の方でして、そんな、世界の王にすることなんて、とてもじゃないですがそんな力はないんです…」
 あ、あら?
「……では、日本のトップではどうかな?」
「え、えーと……それも、ちょっと力不足で…」
「じゃあ……いったいどれくらいまでならできるのかい?」
「そ、そうですね……思いっきりがんばって、この町内の長ぐらいですかねぇ……あは、ははは……」
「(じー)………」
「(じー)………」
 俺と千影は黙って悪魔を凝視する。
「まあ、いわゆる町内会長ってやつですか……はは、はは……」
 
「……やっぱり、帰ってくれたまえ」
 冷たく突き放す千影だった。
 
「ちょ、ちょっと待って下さいっ! あたしでは確かに力が足りませんが、あたしの上司ならなんとかなるかもしれませんっ! だからねっ! もう一回! もう一回チャンスをくださいっ! ねっ! ねっ!」
 必死で俺達の袖をつかむ悪魔。
「……どうする、兄くん?」
「まあ、このまま放っておくのも何だか気の毒だから、もう一度チャンスをあげようか」
「ふー…助かります」
 悪魔は安堵の息をついて、落ち着く。
「では、気を取り直して、あたしの上司の『大魔王』様を呼びましょう」
「……大魔王か……名前からして期待できそうだな」
「ただ、これも召喚の儀式が必要でして。お兄さん、ちょっと協力してもらえますか?」
「俺? まあ、ここまで乗りかかった船だ。協力ぐらいはしてやろう」
「ありがとうございます。では、まずは……」
 
 ボンッ!
 
 部屋の真ん中に、急に小さな小屋が現れる。
 
 おおっ! 初めて悪魔らしい力をみたぞ!
 
「それでは、お兄さん。この小屋の中に入って頂けますか?」
「ふむふむ。ちなみに入った後どうするの?」
「ええ、周りに柴を積んで、小屋ごと燃やします。これぞウィッカーマンのできあ……ウギュッ!」
「あほかーーーいっ! そりゃ、生け贄じゃないかっ!」
 グーパンチで、悪魔を思いっきりどつく。
「いたた……まったく、はたくこたぁないじゃないですか……しょうがないですねえ、生け贄無しの方向で儀式を進めますか」
「当たり前だ」
「えーと、それじゃあ…」
 
 ボンッ! ボンッ! ボンッ!
 
 空中から表れたのは…………びにーる傘?
 
「……これでどうしようというのかい?」
 千影も、傘を手にとって不思議そうに見ている。
「えーと、まず、皆さん傘をさしてもらえますか?」
「……室内なのに?」
「ええ、儀式に必要ですので」
 
 バサッ バサッ バサッ
 
 とりあえずさしてみる。
 室内で3人が傘をさしている姿は………とっても変だ。
「では、そのまま音楽に合わせて踊ってもらえますか?」
 ……また、音楽かい
「あ、そうそう、大魔王様はあたしみたいな普通の格好じゃありませんから」
 普通じゃないって言ってもなぁ、この中年男の姿を見てると、あんまり説得力が無いような……
「ケルベロスの格好ですので、驚かないでくださいね」
 そう言いながら、悪魔はどこからともなくラジカセを取り出した。
 
 おおっ、『地獄の番犬ケルベロス』かっ! さすがに大魔王ともなるとそれらしい格好だな。
 
「それでは、ミュージックスタ〜ト!」
 
 ポチッ
 
『……踊りお〜どるな〜〜ら、ちょいと東○お〜ん〜ど、ヨイヨイ!…』
 
 バタッッッ!!!
 
 結局これかいっっ!!
 
 ズッコケた俺と千影が起き上がった時、魔方陣の真ん中から真っ赤な煙が吹き上がってきた。
 部屋の中に充満した赤い煙が窓から出て行き、部屋の中が見渡せるようになったとき、魔方陣の中央には……
 
「ふわっははははっ! わしが大魔王じゃ! 皆の者、ひれ伏すがいい!」
 
 その姿を見て、正直、俺は驚いた。
 
 ケルベロスと聞いて、ある程度想像して驚かないようにしていたつもりだったが……
 
 ……俺は甘かった
 
 一方、千影は…
「……かわいい☆」
 目をウルウルさせながら、大魔王をみつめていた……
 
 そりゃそーだよなー。俺もまさか……ケルベロスの『着ぐるみ』を着た男が立ってるなんて、全然予想しなかったもんなー
 
「ぐわっははははっ! おまえらか? わしを呼び出した人間どもはっ!」
 
 ……うーむ。この格好で高笑いされてもな〜 コントにしか見えん!
 
「なにっ!? わしの姿がそんなに恐ろしいか! そうかそうか、どわっはははっ……ゲホンゲホンッ!」
 
 あ、むせた……
 
 俺は、隣にいる悪魔に耳打ちする。
「……これが、大魔王?」
「……言わないで下さい……あたしにもいろいろ苦労が…」
 悪魔は情けなさそうな顔をして肩をすくめた。
 ……ああ、サラリーマンってつらいんだなぁ
 
「……ところで、大魔王くん……君なら私の願いをかなえてくれそうだね」
 
 大魔王は、声をかけた千影に向かってビシッと指を突きつける………犬の足なので緊張感が全然無いが…
 
「なるほどお前か。わしを呼び出したのは。人間にしてはなかなかやるな。褒めてつかわそう。ぬわっははははっっ!」
 
 いちいち高笑いをせんと話が進められないのかコイツは……
 
「……あのー 大魔王様。呼び出したのはあたし……」
「無能な部下なんて知らん!」
「……シクシクシクシク」
 あ……部屋の隅で泣いてる。
 
「……それでは、大魔王くん……私の願いだが…」
 
「待てっ!」
 
 大魔王は千影に向かって手のひらを突き出し、発言を止める。
「わかっておるぞ! お前の願いなんぞわしには全てお見通しだ! お前の願いは……『世界の王』になりたい…だろう。どうだ! 当りだろ! 驚いたか! まあ、それをかなえてやる事など、わしにとっては朝飯前だがな! ぐわっははははっっ!」
 
「……違う」
 
「どぅわはは……えっ!?」
 高笑いをやめ、改めて千影を凝視する。
「お、おいっ! 悪魔27号」
 慌てて、部屋の隅で泣いていた悪魔を呼び寄せる。
「ハ、ハイッ!」
「お前がさっきわしに教えた願いは間違ってるじゃないかっ!」
「え、えーーーっっ!! だってさっきはそう言ってたんですよっ!!」
「えーいっ! 聞く耳持たんわっ! よし、決定。お前、減給10/100二ヶ月だ!」
「そ、そんな〜〜〜 そりゃないですよ〜〜〜」
 
「(じー)………」
「(じー)………」
 
「「はっ!?」」
 
 二人(?)とも、俺と千影があきれて見ていることに気が付きあわてて言い争いをやめる。
「ゴホンゴホン! ……そ、それでは、改めてお前の願いを聞こう。何だ? 富か? 名声か?」
 千影がゆっくりと口を開く。
 
「……私の願いは……………大魔王くんが着ている、その『着ぐるみ』が欲しい」
 
「!?」  大魔王は反射的に抱きかかえるように自分の着ぐるみを押さえる。
「も、もしかして………こ、これか?」
 
 コクリ  千影はゆっくりと頷いた。
 
「こ、これだけは勘弁してくれっ! これはわしの一番のお気に入りの着ぐるみ。これだけは渡すわけにはいかんっ! 頼むから他のことにしてくれ! 権力でも富でもなんでもいいからっ!!」
「……その着ぐるみがいい」
「うぬぬぬぬっ! わしがこんなに頼んでいるに聞き入れてくれないのか!」
「……どうしても」
「こうなったら………おいっ! 悪魔27号こっちに来い!」
「ハ、ハイッ!」
 減給のショックで、またも部屋の隅で泣いていた悪魔を呼び寄せ、二人で小声でなにか相談している。
「×××××!」
「××××!」
 相談が終わったらしく、俺達の方をクルッと振り向いた。
「うむ。こうなっては仕方がない…………サラバだっ!」
 
 ボンッ! ボンッ!
 
「「あっ!!」」
 小さく煙が上がったかと思うと、二人の姿は消え失せていた。
 
 ……逃げたな
 
「……着ぐるみ」
 千影は残念そうにつぶやいた。
「そ、そんなに、あの着ぐるみが良かったのか?」
「……とっても可愛かった」
「そ、そうか…」
 俺にはとてもそのセンスはわからん…
「私は……諦めないぞ…」
 決意を新たにしているようだった…
 
 〜数日後〜
 
「兄くん……ちょっと、手伝ってもらえないかな?」
 俺が居間で新聞を読んでいると、千影が声をかけて来た。
「何だ? また召喚の儀式か?」
 俺を新聞をたたみながら顔を上げた。
「……そうだ」
「しかし、また悪魔を呼び出しても、この前と同じ事じゃないのか?」
 結局逃げられるだけじゃないのかなぁ。
「大丈夫……今度は、天使を召喚して裏から手を回してもらうから……」
 な、なかなか考えたな…
「まあいいや。で、また変な踊りを踊るのか?」
 俺も半分諦め気味に立ち上がった。
「いや、今回は踊らなくていい」
「おおっ、それは助かるな」
 
「……どうも、天使を召喚する場合は、生け贄しか方法が無いらしくてね」
 
「……ちょっと待て」
「ん? どうした兄くん」
「それはさすがにイヤだぞ」
「なにを言ってるんだ……あの着ぐるみが手に入るんだよ……兄くんの命と引き換えなら安いものじゃないか」
 
 ………俺の命は、着ぐるみ以下かい……
 
「もう準備はできている……さあ、早く行こう」
 
 ガシッ!
 
 逃げようとした俺を、千影は素早く捕まえた。
 
 ズルズルズル……
 
 首根っこを引っつかまれて連れて行かれる俺の心境は、まさしくドナドナそのものだった……ううっ……
 
 最後に、ギリギリのところで咲耶と春歌に助け出されたことだけは付け加えておこう……
 
 〜おわり〜
 
あとがき
この話は千影のBD記念SSということでシスプリパラダイスさんに投稿した話です。
ちなみに、東京音頭とビニール傘の関係がわからなかった方は、お近くのプロ野球に詳しい方にお訊きください。
2001年3月発表
2001年8月6日改訂

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