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AIR

メーカージャンル発売時期対象年齢
Key
ノベル
2000年9月
18歳以上

 このゲームの曲からは、舞台となった田舎の夏に相応しい、のんびりとした気だるさが伝わってきます。
 そこには、都会の何かに追い立てられているかのようなセカセカした時間の流れは無く、古きよき時代を彷彿させるかのような安らかなゆっくりとした時間の流れがあります。
 曲のテンポもそれに合せて、一部の曲を除くと全体的にゆったりとした曲が多く、日中の暑い日差しの下でのダラダラした雰囲気や、夕方のちょっと黄昏た寂しげな雰囲気がしみじみと感じられます。


 次に何曲かピックアップして印象を書いていきます。


 オープニングの「鳥の詩」は、オープニングに相応しく高揚感と不安感とが入り混じった緊張感のある曲です。
 ゲーム本編の登場人物の頭身が上がったせいかどうかはわかりませんが、華やかさを若干抑え気味にして、その代わりにぐっと大人っぽさが増しています。
 また、このオープニングの映像もかなり凝ったつくりになっていて、センスの良さが感じられます。
 最初のバス停の風景がモノクロからだんだんカラーになっていく演出も凝っているのですが、わたしが一番感心したのは、ちょっとしたことなんですが各ヒロインの名前の出し方です。
 ヒロインのシルエットが実体になると同時に、ヒロインの名前が斜め上からゆっくり降りてきて、ヒロインの横でピタッと止まり、影だけがスッと抜けて溶けるように消えていくという演出方法で、これは非常に格好良く、強く印象に残りました。
 順番は前後しますが、タイトルの出し方もセンスを感じます。
 最初に真っ白な画面の中央に小さく「AIR」とだけ表示し、後から音楽に合わせて、アクセントの部分でバンと叩きつけるようにロゴを表示させる方法は、まるで映画のようで迫力があります。
 これは、ロゴを表示させるときにいきなりパッと表示させるのではなく、霧の中から現れたように、ロゴが出る直前と直後にピントがボケたようにぼやけているところがミソです。しかも直前よりも直後の方がちょっとだけ長いため、音でいうところのドップラー効果のようになり、立体的な深みを感じさせるのだと思います。
 そういえば、この部分は画面の上下がわざと切ってあり、映画の画面のように「16:9」の画像になっていますから、それが狙いだったのかもしれません。
 ただし、この演出はこの「AIR」というゲームがいわゆる感動系だから似合っているとも言えます。他の系統のゲームではこの演出ではかえって浮いてしまうかもしれません。
 ただ、このオープニングも、後半はどうも今ひとつのような印象を受けます。
 特に金髪の揺れる髪の女の子が出てくるシーンは素朴さを狙っているのかもしれませんが、それまで出てきたCGが詳細だったため、妙に間延びしているように思います。
 また、『夏はどこまでも続いてゆく……』のロゴが出し方は、昔の電光掲示板のような安っぽさを感じてしまいました。個人的には、徐々に出すにしても、ヒロインの名前の出し方の逆のように、全体がジワッと滲み出るように出てきて欲しかったですね。

 挿入歌の「青空」は、Air編のクライマックスで観鈴がゴールする瞬間だけに使われている非常に印象深い曲です。
 伴奏無しの歌のみという静かな立ち上がりから、ピアノが加わり、さらにドラムが加わり……というふうに、だんだん伴奏が厚くなっていく編曲は、聴いている者の気持ちをじわじわと高めていきます。
 さらに、曲調はゆったりとして安らかなのですが、この曲が使われているシーンの印象からか、曲が後半に向けて盛り上がって行っているのにもかかわらず、逆に次第に哀愁が感じられます。

 ところで、この「青空」という曲は、曲だけ聴いていても自然と涙が溢れて来るような、感情を揺さぶる曲なのですが、実はわたしは観鈴がゴールするシーンにこの曲が使われていることに違和感を感じています。
 他の人のレビューを読むと、このシーンに「青空」を使うことが最高の演出であると書かれている人がほとんど(というか、おそらく全ての人)ですが、わたしは逆に盛り上がった雰囲気に水を差されたような気になってしまうのです。

 では、いったいわたしはなぜ違和感を感じたのでしょうか。

 「青空」が使われている観鈴がゴールするシーンというのは、それまでじわじわと盛り上がってきた雰囲気が最高潮に達した瞬間です。わたしはここで使われる曲にはクライマックスを象徴するような激しい緊張感が欲しいのです。
 ただし、これはわたしがあくまでも晴子さんの視点で見ているせいもあります。
 観鈴にとっては、『ゴールできた』という思いであり、行きたい場所についに辿り着けたわけですから、安らかな雰囲気の方が合っているでしょう。
 しかし晴子さんにとっては、『ゴールしてしまった』という思いであり、考えたくない結末がついに目の前に現れてしまったという絶望なのです。
 そのため、この部分には強い緊張感のある音楽が相応しいと考えたのです。
 しかし、「青空」は緊張感よりも安らいだ雰囲気が強い曲です。曲の始まり方も歌だけで、ピアノで静かに入ってきます。
 さらに、このシーンの直前で使われている「銀色」は、ピアノを使っている分、同じメロディーなのに緊張感の方が強くなっています。そのため、「銀色」の次に「青空」が出てくると、クライマックスなのにかえって緊張感が抜けて行くように感じられるのです。
 個人的には、『銀色』と『青空』を逆にして、ゴールする直前の部分までに『青空』を使い、ゴールした瞬間に『銀色』を使った方が、ゴールした瞬間の晴子さんの衝撃の強さをダイレクトに表せるのではないかと思います。

 エンディングの「Farewell song」は、テンポの速い曲ですが、このゲームのエンディングに相応しい落ち着いた雰囲気があります。
 正直に言いますと、インパクトという点では「鳥の詩」や「青空」に比べて弱いと思いますが、全てが過去のものとなったエピローグという状況においては、こういう一歩引いた曲の方が合っているのではないでしょうか。

 観鈴のテーマ曲である「夏影」は、これほど感性に直接訴えかけてくる曲はありませんでした。
 冒頭のゆったりとした前奏といい、ピアノによって演奏されるメロディーといい、ノスタルジーを掻き立てられます。
 特に、メロディーが入ってきてから9小節目(おそらく)以降の静かな部分の和音進行が最高です。
 分散和音のようなメロディーに二分音符で和音がコラールのように移り変わっていくだけなのですが、思いっきりわたしのツボを直撃しています。
 ただ、この曲で一つだけ気になる点があります。
 それは、メロディーが繰り返される時に新たに加わる対旋律の音色で、どうもダブルリード系のようなのですが、この音色がそれまでの静かな雰囲気を壊しているように感じられて、どうも好きになれません。

 美凪のテーマ曲である「虹」は、フワッとした感じが、美凪のつかみどころのない不思議な雰囲気に良く似合っていると思います。

 佳乃のテーマ曲である「水たまり」は、佳乃の明るく元気のいい性格とは対照的に落ち着いた雰囲気が感じられます。
 イメージ的には、佳乃と夏の午後、特に目的も決めないで散歩したり、川で水遊びをしたりするような、のんびりとした一日が思い浮かんできます。

 みちるのテーマ曲である「てんとう虫」は、みちるの子供らしい性格を表したかのようにテンポのいい活発な曲です。
 キレのいいリズムとちょっとおどけたようなメロディがみちるのちょっと生意気な感じを上手く表していると思います。
 余談ですが、この曲を聴いていると、古い曲で恐縮ですがYMOの「ファイアークラッカー」という曲を思い出します。この二曲、何となく雰囲気が似ていませんか?

 日常の音楽である「跳ね水」「野道」「伝承」「夢語り」「夜想」には、気だるくのんびりした夏の一日の時間の移り変わりを感じることができます。
 「跳ね水」はまだ活発に活動できる午前中、「野道」は真夏のかんかん照りのうだるような夏の午後、「伝承」は夕暮れの、まだ昼間の暑さが大分残っている時間、「夢語り」は同じ夕暮れでも、もっと暗くなり、暑さも幾分落ち着いてきた頃、そして「夜想」は、空に満点の星が見えるような夜、というイメージがです。
 実際、ゲームでもほぼこれに準ずる時間に使われていたと思います。

 Summer編の曲では「空蝉」が、もっとも平安的な雰囲気を感じさせ印象に残りました。
 特に冒頭のメロディーの部分を聞いていると、官人の退紅姿(当時の衣装です)や、市の賑わいなどが目に浮かんでくるようです。

 挿入歌の「青空」のインストルメンタル版である「銀色」は、「青空」の歌がピアノに代わっただけで編曲自体はほとんど同一なのに、「青空」とは大きく異なった曲のように聞こえます。
 これは、完全に歌とピアノの違いです。
 歌には歌にしかない「柔らかさ」という魅力があるのですが、ピアノにはピアノにしか出せない「硬さ」があります。
 そのため、ゆったりとした落ち着いた曲調にもかかわらず、決然とした雰囲気があります。
 わたしは、「別れ」の場面には、この決然とした硬さが相応しいのではないかと思っています。

 この「AIR」というゲームの曲は、全て印象に残る魅力的な曲ばかりなのですが、その中でもわたしが最も印象に残ったのが、「回想録」です。
 実はこの曲、ゲームを始めて一番最初に聞く曲なのですが、そのシーンも含めて主に回想シーンによく使われています。
 曲の雰囲気もゆったりとして暖かく、郷愁を感じさせるものなのですが、わたしはこの曲が使われたあるシーンによって決定的に印象付けられました。
 そのシーンとは、美凪シナリオの終盤で、みちるが自分の名前を名のって、「いい名前ね」と言われるシーンです。
 この曲の静かな始まり方が、みちるの不安感が潮が引くように消えていく様子にピッタリ重なっているだけでなく、さらに曲の穏やかな雰囲気に、みちるの、望んでも得られない場所とそこにいることへの様々な感情が混ざり合った複雑な想いが感じられ、胸が締め付けられるような思いがします。
 現在ですら、曲を聴いただけでこのシーンが思い出され、気を抜くと涙が出てきそうになるほどです。(2001/8/30)

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