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※このSSは「AIR」のパロディーです。特に美凪エンドをプレイされていないと、意味不明だと思います。


ふたりのみちる


 
 
 
 
 
 
 ………さようなら、美凪
 
 
 
 
 
 
 
 ………さようなら、国崎往人
 
 
 
 
 
 
 
 …………元気……でね
 
 
 
 
 
 
 
 みちるは、もう空に帰らなくちゃ……
 
 
 
 
 
 
 
 ………でも
 
 
 
 
 
 
 
 ………ごめんね
 
 
 
 
 
 
 
 ………もうちょっとだけ、みちるのわがまま
 
 
 
 
 
 
 
 …………きいてもらっていいかな?
 
 
 
 
 
 
 
 帰る前に……ひとめあいたい……
 
 
 
 
 
 
 
 もう一人の自分………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……………みちるに…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ミーン、ミーン、ミーン……
 
 セミが鳴いている。
 
 大きな樹が植えてある公園。
 その大きな樹の木陰のベンチにあの子はいた。
 
「うにゅ〜……」
 あの子はつぶやくと、ダルそうにうつむく。
 
 夏の日差しがギラギラと照りつけてくる。
 じっとしていてもジワっと汗がふきだしてくる。
 この暑さの中、わざわざ公園に来る人なんていない。
 ………あの子以外には……
 
 
 もしかしたら、みちるが居られたかもしれないところ……
 
 
 そこに、あの子はいる……
 
 
 みちるは幻だから、ほんとはあの子の前では消えなくちゃいけない……
 
 
 
 ……でも……
 
 
 …………話してみたい……
 
 
 
「こんにちは」
 
 みちるの声に、あの子は顔を上げた。
「ん?」
「ねえ、何してるの?」
 みちるは、あの子の隣に腰を下ろす。
「……ん…なにもしてない……ただ…待ってるの…」
「待ってる?」
「うん……いっしょに……遊んでくれる人……」
 あの子は淋しそうにうつむいた。
 
 
 ……そっか
 
 
 この子も、美凪といっしょなんだ……
 
 
 だったら……みちるがもう一度……遊んであげられるか…な…
 
 
「んと……じゃ、じゃあ、一緒に遊ばない?」
「え?」
 あの子は驚いて顔を上げた。
「ほんとに? ほんとにみちると遊んでくれるの?」
「うん!」
 ニッコリ笑って答える。
「やったー!」
 あの子は嬉しそうにあたりをピョンピョン跳ね回っている。
 が、急にみちるの前でブレーキをかけて、向き直る。
「…ととっ、そうだ。ねえねえお姉ちゃん、お名前なんていうの?」
 
 あっ、名前!
 
 ……すぐには答えることができなかった。
 
 そして、返答に詰ったみちるに気付かず、あの子は続けた。
 
 
「えっとね。みちるはみちるって言うんだよ」
 
 
 そう、みちるはこの子。
 
 
 みちるはみちるであって、みちるじゃない……
 
 
 ただの影だから……
 
「ねえ、お姉ちゃん。どうしたの?」
 あの子が不思議そうに訊ねる。
 
 
 みちるは……
 
 
 みちるは………
 
 
 ……みちるは…………
 
 
「……えっとね。お姉ちゃんも『みちる』って言うんだ……」
「おっ、みちるとおんなじ名前だ。いっしょ、いっしょ」
 手をたたいてあの子ははしゃいでいる。
 
 
 そう………みちるは…やっぱり、みちる
 
 
 他の誰でもない……
 
 
 美凪と一緒に、ずっと『みちる』として過ごしてきたんだ……
 
 
 他の名前なんて考えられないよ……
 
 
 あの子は手をたたくのをやめて、首をかしげた。
「あ… でもおんなじ名前だと変だね。んーと……お姉ちゃんって呼んでいいかなぁ?」 
「……うん………いいよ」
「じゃあじゃあ、お姉ちゃん、なにして遊ぼ?」
 
 いっしょに遊べるもの……
 
 やっぱり……あれだよね。
 
「じゃ〜ん」
 
 みちるがあの子に見せたのは……
 
「…ストロー?」
 
「ストローだけじゃないよ。ほら、この容器にストローの先を突っ込んでー」
 ガシャガシャガシャ…
 
 そう……これはシャボン玉セット……美凪とのたいせつな思い出の……
 
「いい? 見てて……ふー……」
 
 ばちんっ!
「わぷっ!?」
 
 ……大失敗だった。
 
 みちるの吹いたシャボン玉は丸くなる前に破裂しちゃった……
 
「……お姉ちゃん…だいじょうぶ?」
 あの子が心配そうに見てる
 
 むー! ぜったいに作ってやる!
 
「ふー……わぷっ!?」
 ぱちんっ
「ふー……わぷっ!?」
 ばちんっ
「ふー………わぷっ!?」
 ばちんっ
 …………
 ………
 ……いくらやっても割れちゃう……
 
 一所懸命やればやるほど、すぐ割れちゃう。
 
「ねえ、お姉ちゃん。みちるつまんないよ」
「もうちょっと、もうちょっとだから……」
「だって……さっきからぜんぜん変わんないし…」
 
 初めは心配そうに見守ってたあの子もだんだん退屈してきてる。
 
 うにゅ……これじゃ、あの子にシャボン玉の楽しさを教えてあげられないよ……
 
 
 ……美凪……みちるじゃやっぱりダメなのかな?
 
 
 せっかく会いに来たのにこのまま終わっちゃうなんてイヤだよ……
 
 
 ねえ、美凪……美凪なら上手くできたのにね……
 
 
 
 
 
『やさしく吹いてあげてね。』
 
 
 
 
 
 聞こえるはずの無い美凪の声がハッキリ聞こえてきた。
 
 
 そうか……そうだよね。
 
 
 みちるが美凪と過ごした最後の日、美凪はそうやって教えてくれたよね……
 
「今度こそ、大丈夫。よっく見ててね」
「うー……これで最後だよ」
 あの子は不満そうに口を尖らせる。
 
 これが最後のチャンス………でも大丈夫
 
 ふぅー……
 
 ゆっくり…ゆっくり……息を吹き込む
 
 決してあせっちゃダメなんだ
 
 
 ユラユラユラ……
 
 
 ストローの先の七色の玉が少しづつ大きくなっていく……
 
 
 フワリ
 
 
 ストローの先から放れたシャボン玉は、ゆっくりと浮かんでいった。
 
「わぁ、シャボン玉だぁ」
 
 あの子は手をシャボン玉の方に伸ばしながらはしゃいでいる。
 
 シャボン玉は、虹色に輝きながらゆっくりゆっくり空の彼方に消えていった。
 
「どう? きれいでしょ?」
「うん! とってもきれいだよ!」
 
 あの子は目を輝かせて激しく首を上下に振る。
 
「みちるもやってみる?」
「えっ!? いいの!?」
 ちょっと驚いてたけど、すぐに笑顔になってみちるの真似をして容器にストローをガシャガシャと突っ込み、勢い込んで吹いた。
 
 ばちんっ!
 
「わぷっ!?」
 
 あの子もみちると同じように顔が石鹸だらけになる。
 
 でも、やめなかった。
 
 さっきのようなシャボン玉を作りたいという気持ちでいっぱいだった。
 あの子は、割れても割れても挑戦していた。
 
 二人で一所懸命シャボン玉を膨らませた。
 
 
 まともに飛ぶシャボン玉は数えるほどしかできなくて……
 
 
 二人とも顔が石鹸だらけでテカテカになっちゃったけど……
 
 
 でも、楽しかった……
 
 
 
 ……時間を忘れるほど…
 
 
 
 気が付いたら、もう空は真っ赤だった。
「おおっ! 真っ赤な夕焼けだよ」
「おー! そうだねぇ! きれいな夕焼けだね」
 
 夕方……それはみちるの帰る時刻。
 
 今度こそ……今度こそほんとうに帰らなくちゃ……
 
 あの子もベンチから立ち上がって、手をパンパンとはたく。
「そろそろみちる帰らないといけないんだ。ねえ、お姉ちゃん。明日も会えるよね?」
 そう言って無邪気に笑う。
 
 
 
「うにゅ……ごめん……」
 
 
 
「えっ!?」
 
 あの子の表情が笑顔から一瞬にして驚きの表情になる。
 
「みちるが帰るところはね…………とても遠い所なんだ」
 
 みちるには別れをあの子に告げるのはとてもつらかった……
 
「で、でも、またいつか遊びに来てくれるよね! きっと来てくれるよね!!」
 あの子はみちるの腕を取ってすがるような目で訴えた。
 
「…………」
 
 みちるは返事ができなかった……
   今日が最後………もう下の世界に下りてくるのは叶わぬ夢だってわかってたから……
 
「そんなのいやだよっ! せっかく友達になったのにっ!! ………グス…グス」
 
 みちるが黙っていることで、あの子も気がついてしまった……
 
「どこにも行かないでよ! また、明日遊ぶんだよね! そうだよね!」
 
 あの子は狂ったように泣き叫ぶ。
 
「……みちる」
 
 みちるはあの子の肩をつかんで、まっすぐ目を見る。
 
「えっ!? なに!?」
 あの子は驚いて泣き止む。
 
「……これはね、二人の友情の証。しっかり持ってなきゃダメだよ」
 そう言って、あの子の手にシャボン玉セットを握らせる。
 
「……ゆうじょうのあかし?」
「うん。これを持ってれば、たとえみちるが遠くに行っちゃっても、二人はずっと友達でいられるんだ」
「……う、うん」
「だからね、会えなくてもぜんぜん淋しいことじゃないんだよ」
「……う、うん………わかった…」
 あの子はちっちゃな手でシャボン玉の容器をギュッと握り締めた。
「…お姉ちゃんに会えなくても、シャボン玉を膨らますたびにお姉ちゃんのこと思い出す……」
「うん……いい子だね」
 みちるはあの子の頭を撫でてあげる。
「それからね。もう一つ大事なことを教えてあげるよ」
「?」
 あの子は首を傾げる。
 
「シャボン玉を練習してればね、いつか…みちるの大切な友達が会いに来るから」
「お姉ちゃんの……たいせつな友達?」
「うん……とってもとっても大好きな友達……みちるもきっと好きになるよ」
「そ、そうかな?」
「それに、今度は、みちるみたいにすぐいなくなったりしないよ」
「……ほんと?」
「うん……だから…シャボン玉……吹いてね」
「うん! わかった」
 
 
 最後は笑顔を別れることができた。
 
 
 ……こんどこそ本当に笑顔で……
 
 
 
 
 
 
 
 美凪……
 
 
 
 
 
 
 
 あの子は待ってるんだよ……
 
 
 
 
 
 
 
 懸命にシャボン玉を練習しながら……
 
 
 
 
 
 
 
 今度は、会った時に悩まないよね……
 
 
 
 
 
 
 
 そう……
 
 
 
 
 
 
 
 もう夢じゃない……
 
 
 
 
 
 
 
 ずっとずっと仲良しでいられるよ……
 
 
 
 
 
 
 
 だから……
 
 
 
 
 
 
 
 きっと会いに来てね……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ………もう一人のみちるに……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 〜おわり〜
 
 
 
 
 
 
あとがき
わたしはAirをプレイしたのが今年(2001年)の1月と遅かったのですが、すぐに夢中になりました。
そして、ヒロイン3人の話の中で、もっとも好きなのが美凪シナリオなのです。
わたしは、美凪シナリオの最後で、美凪が義理の妹のみちるに会うシーンを見て、このみちるを、本編のみちるはどういう思いで見ていただろうか……
と考えたのが、このSSを書いた直接のきっかけです。
本編のみちるは、最初に生まれるはずだったみちるですので、義理の妹のみちるより、少しは年上ではないかと考え、そう設定しました。(2001/6)
 

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