W.シューマン 交響曲第10番 <アメリカのミューズ>

指揮レナード・スラトキン
演奏セントルイス交響楽団
録音1991年1月、1992年11月
カップリングW.シューマン アメリカ祝典序曲 他
発売BMG
CD番号09026-61282-2


このCDを聴いた感想です。


 W.シューマンは全部で10曲の交響曲を書きました。つまりこの曲は最後の交響曲というわけです。
 もっとも、本人は、自分が書いた交響曲は全部で8曲だと言っていたそうです。その8曲とは第3番から第10番。つまり若い頃に書いた第1・2番については無かったことにしたかった(もしくは無かったことにした)みたいですが。
 最後の交響曲といっても、作曲自体は1975年。亡くなる17年も前であり晩年の作品というほどでもありませんが、内容は、年齢を重ねるにつれてどんどん難解になって行ったと言われる評判そのままに、かなり耳に馴染みにくい音楽です。
 ちなみに、副題に「アメリカのミューズ」とつけたのは、アメリカの過去・現在・未来にわたる芸術家と、音楽に限らず様々な分野の芸術作品に捧げた曲であるためだそうで、曲が抽象的なのも、やはり特定の芸術家や作品を対象にしていないという点が表れているようにも思えます。
 とはいえ例外もあり、曲の冒頭はウォルト・ホイットマンの詩がモチーフとハッキリと特定されています。正確にはシューマン自身が1937年にウォルト・ホイットマンの詩に作曲した合唱曲をもとにしており、若い頃の作品が下敷きになっているだけあってメロディーも比較的明快で、和音こそ不協和音の連発ですが、雰囲気自体はそれほど突き放したものではなく、メロディーを和音が支えるという形でのまとまりが残っていて、まだしも親しみやすさを感じます。
 第1楽章全体で見ても、荒々しいリズムと激しい不協和音の中に、わたしがイメージするアメリカの象徴である竹を割ったような明快さが残っており、演奏時間が6分半程度と短いこともあり、派手な響きに耳を奪われている間に風のように過ぎ去り、意外なほど後に爽快感が残ります。
 まあ、一つには全3楽章の残りの二つである第2・3楽章が非常に難解でとらえどころが無いので、第1楽章は少しくらい難解でも十分明快に聞こえるというのもありますが。
 その残りの二つの楽章は、どちらも12分前後と割りと長めで、基本的に第2楽章が静かでゆっくり、第3楽章が速く激しいという分担になっています。
 両楽章とも、メロディーが出てこないわけではないのですが、短く細切れでしかもまるで関連が無いかのようにバラバラと登場したり、長いメロディーもなんだかウネウネとのたくっていてほとんど起伏が無く、完全に抽象の世界で、どこを手掛かりにすれば良いのか困ってしまいます。
 第3楽章の方が激しく派手な分だけまだ取っ付きやすそうですが、まるで何かに追い立てられているような狂騒的で焦った雰囲気があり、音楽にそのまま素直には浸れず、やはりどこか拒絶されているような居心地の悪さを覚えます。
 この二つの楽章、いや第1楽章も含めて曲全体にも言えますが、あまりメロディーを追って歌を楽しむような曲ではなく、その時点での響きとその変化、さらには安全な響きに留まらずに飛び出した感覚に良さがある曲だと思います。

 スラトキンの演奏は、音にキレはあるのですが、全体的に柔らかく調和させる傾向があるようです。おそらく他の演奏(もしあればの話ですが)よりもはるかに耳に馴染みやすい演奏でしょう。これはこれで良いのですが、もっと音のぶつかり合いをストレートに出した辛口の演奏も聴いてみたくなりました。

 ついでにもう一つ。
 この曲は、上の方で書いたとおり1975年の作曲で、初演も翌年ワシントンで行なわれたのですが(76年4月6日、指揮:ドラティ/ナショナル響)、レコード録音は、意外とこの1991,92年の録音が初めてのものだそうです。
 正確には1991年1月と1992年11月で、これはCDに収録されている全ての曲をひっくるめての表記なので、おそらく約2年に渡ってとか、一つの曲を2回に分けて録音したわけではなく、曲によって、1991年1月に録音したものと、1992年11月に録音したものがあったということなのでしょう。
 実は、この1991,92年というが微妙な年なのです。
 この2回の録音のほぼ中間、1992年2月15日に、作曲者であるシューマンが亡くなっています。
 つまり1992年11月の録音の曲であれば、シューマンは録音に全くノータッチということですが、1991年1月の録音なら、もしかしたらシューマン本人が監修しているかもしれません。もちろん亡くなる1年前ですから、既に録音に立ち会える状態でなかったということも十分にあり得ますが、少なくとも可能性はあるわけです。
 監修の受けている受けていないが直接演奏のできに反映されるわけではありませんが、やっぱり気になります。(2005/2/12)


サイトのTopへ戻る