W.A.モーツァルト 交響曲第40番 ト短調

指揮ジョージ・セル
演奏NDR交響楽団(北ドイツ放送交響楽団)
録音1959年5月25日
カップリングブラームス 交響曲第4番
発売EMI(NDR kultur)
CD番号CD 4 76735 2(NDR 10162)


このCDを聴いた感想です。


 セルのモーツァルトの第40番は、もちろんクリーブランドとの正規録音もありますし、死の年の日本公演の伝説的な演奏も有名です(これはまだ未聴ですが……)。しかし、今回取り上げるのは、それらよりも大分前の1959年の演奏。珍しくも北ドイツ放送響を指揮したライブで、CDには同日に演奏したブラームスの交響曲第4番とのセットで収録されています。
 実は、セルのモーツァルトの第40番を聴くのはこの演奏が初めてだったのですが、冒頭を聞いた瞬間、「えっ?」と驚きました。
 この曲は、皆さんもご存知のとおり1小節にも満たないヴィオラの序奏(というほどのものでもなく、ほとんど伴奏の一部ですが)に続いて、ヴァイオリンによる有名なメロディーが入ってきます。この歌い方が、およそ今まで聴いたことが無い妙な節回し(アーティキュレーション)だったのです。
 最初の、下がって下がって上に上がるという一フレーズは音の最後を伸ばし気味にしているのに、次のちょっと音が高くなってからの下がって下がってさらに下がるというフレーズでは、最後の音を短く切っています。だいたい『タララータララータララーラン、タラタンタラタンタラタンタン』という感じですね。
 そんなところをわざわざ変えている演奏なんて、初めて聴きました。いや、もしかしたら多少は変えている演奏もあったのかもしれませんが、少なくとも意識して聴いていなくてもはっきりわかった演奏はこれが初めてです。ちなみに、このメロディーは、曲中あちこちに登場しますが、終始一貫このスタイルで押し通しています。
 この歌い方は、聴き慣れないせいもあってか、横の流れやスピード感という点ではちょっとギクシャクしているような印象を受けますが、逆に起伏があり、表情は豊かになっています。
 日本公演での演奏は未確認ですが、8年近く後のクリーブランド管とのスタジオ録音でもほぼ同じスタイルでしたから、これはセルの解釈なのでしょう。他の指揮者では、後に、トスカニーニが割と近い歌い方をしているのを知りました。もっとも時代的にはトスカニーニの方がセルよりも前になるわけですが。

 この冒頭の部分だけでも、十分にインパクトがありましたが、この演奏には、もう一箇所、度肝を抜かれた部分があります。
 冒頭の歌い方が、どちらかというと知性に訴えかける違いなのに対して、こちらは、解釈としては別に変わっているわけではありませんが、「おおっ!」と感情に訴えかけてきました。
 それは中低音であるヴィオラとチェロ・コントラバス、特にチェロとコントラバスの迫力です。
 この中低音も第1楽章の前半で伴奏にまわっている時は「まあ、しっかりとまとまっているな」程度で、そう印象に残るほどではありません。
 しかし、前半の繰り返しが終わり、展開部に入ってすぐの、メロディーとして登場したところから豹変します。
 突然、太く力強く、鋼のように黒光りした音で叩きつけるように入ってきます。伴奏の時の音と明らかに違い、猫かと思って甘く見ていたら急に鋭い牙をむき出し実は虎だったというぐらい衝撃的でした。
 これが、ただ音が強いだけでならそこまでではなかったのかもしれませんが、低音の強い音でなりがちな、いくら重くてもアタックのぼやけたボワンとした音ではなく、輪郭がハッキリとついた硬い音だったのでよけいそう感じたのです。オーケストラの技術の高さの表れですし、セルの統率力も大きくものをいっているのでしょう。
 ちなみに、後のクリーブランド管との録音でも、同じように低音に力を入れていますが、こちらの演奏の方が、より音が重いように思えました。

 上記にもあるように、この演奏とクリーブランド管との演奏の傾向は、かなり似通っています。ただ、全く違うのが第2楽章です。
 この北ドイツ放送響との演奏時間が7分28秒で、クリーブランド管との演奏が8分44秒という辺りで、だいたい想像して頂けるかと思いますが(両方とも繰り返しはしていません)、そもそもテンポからして大きく違います。(ちなみに東京公演は8分21秒だそうです)
 さらに歌い方も、クリーブランド管の方は一つ一つの音を長めに伸ばしたゆったりとしたもので、昔の大指揮者風の大きく歌って雰囲気を出した全般的に柔らかいものです。
 しかし、北ドイツ放送響との演奏は、音を短く切り、速いテンポでトントントンとテンポ良く進んでいきます。楽譜のテンポ指定はアンダンテですが、ほとんどアレグレットといってよいぐらいです。ゆったりとは正反対で、むしろ元気良く生き生きと動いています。
 タイプがまるで違うので、それぞれ良さが異なり、好みが分かれるところでしょうが、個人的には北ドイツ放送響との、キビキビとした方が好きですね。

 録音状態は、特に問題ないレベルだと思います。
 1950年代後半といえばスタジオ録音ではそろそろステレオが出始めた頃ですが、ライブ録音なので当然のようにモノラルです。
 それでも雑音や音の割れはほとんどなく、細部まで鮮明に聴こえるので、モノラルである点さえ気にしなければ十分な音質でしょう。(2005/8/20)


サイトのTopへ戻る