W.A.モーツァルト 交響曲第40番 ト短調

指揮トーマス・ビーチャム
演奏ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
録音1937年2月4日・9月2日
カップリングモーツァルト 交響曲第39番 他
発売DUTTON
CD番号CDEA 5012


このCDを聴いた感想です。


 ビーチャムというと、彼の人柄の印象からか、ウィットに富んだ軽妙な演奏という先入観がわたしにはあったのですが、このモーツァルトを聴いて、そのイメージは大きく変わりました。
 まるで正反対の、切味の鋭い激しい演奏だったのです。
 第40番の疾走する切味鋭い演奏というと、フルトヴェングラーのウィーン・フィルとの録音が思い浮かびますが、この演奏もスピードこそ及ばないもののキレという点では全く遜色無いと思っています。
 アタックは非常に硬く鋭く、しかもパーンと叩きつけた直後にサッと抜く事で、必要以上に重くなって疾走感が失われないようになっています。そのため、さらに音楽が鋭くなり、まるで日本刀のように、前方に立ち塞がるものは何であろうと切り裂いて突き進んで行くかと思えるほどの切味があります。
 この特長が最もよく感じられるのは当然第1・4楽章です。
 メロディーも確かに歌っているのですが、決して歌に酔う事無く、適度な範囲に留め、それ以上に音楽のキレの良さに重点がおかれています。
 これは、この曲でビーチャムが採用している版がクラリネットが無い方の版で、音色がモノクロームに近いという点も、この印象をさらに強めているのでしょう。
 また、この第40番という曲は、第41番ほどではないにしても、メロディーが楽器によって一小節ずつずれて出て来てそれを追いかけるという対位法的な手法が多く見られるのですが、アタックが硬くついているため、各声部が浮き立ち、曲の構造を立体的に感じる事ができます。
 その上に気合をたっぷり乗せたのが第4楽章の繰り返し記号を過ぎた後辺りの音楽です。
 この辺りからメロディーが入り乱れ、対位的手法が顕著に表れてくるのですが、ビーチャムはそれぞれのメロディーを鋭く演奏させる事で、メロディーの動きをクリアにし、さらにこれでもかとばかりに気合を入れて弾かせることで、音楽が非常に激しくなり、聴く者を圧倒する迫力を生み出しています。

 一方、第3楽章は、第1・4楽章ほどのキレは感じられませんでしたが、トリオの雰囲気がとても柔らかく、他の楽章には無い暖かさがあります。
 このトリオの柔らかさとメヌエットの硬さの対比は上手く表現されており、これに引き続いて更にキレの良い第4楽章に入って行くことを考えると、少し抑え気味なのも納得できます。

 それに較べて、第2楽章は、わたしにはどうも今一つでした。
 少し硬めに演奏していて、フォルテ部分はまだ良いとしても、ピアノ部分ではその硬さがあまり音楽とマッチして無いように思えるのです。
 個人的には、メロディーや音にもう少し潤いが欲しいところです。

 録音は嘘みたいに良いです。
 スタジオ録音ですし、復刻が上手いという事もあるのでしょうが、音は非常に鮮明で雑音もありません。
 後から付け加えたのかもしれませんが、響きに奥行きがあり、驚くほど聴きやすい音質です。(2002/6/28)


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