W.A.モーツァルト 交響曲第36番 ハ長調 <リンツ>

指揮ブルーノ・ワルター
演奏コロンビア交響楽団
録音1960年2月28・29日
カップリングモーツァルト 交響曲第38番 <プラハ>
発売CBS/Sony
CD番号35DC 74


このCDを聴いた感想です。


 ワルターが、コロンビア響と残した晩年のステレオ録音の中の一枚です。コロンビア響とは1955年にも録音しているようですが(これはモノラル)、それは未聴です。(他には1956年にフランス国立放送管とのライブ録音もあるようです)
 もともと定評があるワルターのモーツァルトですから全曲が聴き所と言っても良いぐらいですが、わたしにとっては、それ以上に、部分的なある2箇所によって記憶に残る演奏なのです。両方ともごく一瞬の部分なのですが強く印象付けられました。
 それは両方とも第1楽章にあります。
 まず一つ目は、テンポの遅い序奏部が終わりアレグロの呈示部に入ったところです。
 ここは1stヴァイオリンが音を長く伸ばしたメロディーを弾く一方で、低弦が四分音符でテンポを刻んでいきます。その低弦にハッとしました。
 動きとしては単純なもので、四分音符を四つ同じ音で弾いいるだけなのですが、なによりバランス的に少し大きめで存在感があります。
 音にも十分に重量感がありながら後ろに引っ張るような鈍さは無く、むしろテンポとしては軽快といえるぐらいテンポに上手く乗っています。それも音の出だしを「カッカッカッカッ」と刻むように硬くすることでテンポに乗せるのではなく、「ボッボッボッボッ」と丸く柔らかい音で、流れるようにつないでいきます。柔らかいため、音が強く存在感がありながら回りを邪魔したりせず、高音のメロディーを引き立てて下から支えています。
 リズムの良さ、スピード、安定感を、序奏からアレグロに変わってすぐに聴かせることでお膳立てを整え、伸び伸びと歌うメロディーと一体となって一瞬でアレグロの明るく生き生きとした雰囲気を引き出しています。
 そして、二つ目の印象に残った部分が、さらに先の呈示部の中ほどになります。
 第75小節目で、ここが第2主題にあたるのかどうかはちょっとわかりませんが、その少し前から繰り返される「ミミミー↑シー↓ソミ↑シシソミ……(文字一つが四分音符です)」のメロディーを最初は管+弦でフォルテで演奏し、それに引き続いて「ドドドー↓ソー↓ミ」と管楽器(Ob,Fg,Tp,Hr各2)だけで演奏される、この後半の部分です。この管楽器の響きが非常にバランスよく、一体に溶け合っています。厚みがありながら澄んでおり、思わずつつしんでしまうような神聖な雰囲気があり、まるでパイプオルガンか何かで演奏しているようです。この演奏を初めて聴いた時は、とにかくここだけが鮮明に記憶に焼きつき、他の部分をほとんど忘れてしまったぐらいです。
 この雰囲気は、同じメロディーでも、一つ前の管+弦のフォルテの部分や、その後のオーボエとファゴットが一本ずつの単音で演奏される部分にも無く、なぜかこの2回目の管楽器のピアノで演奏されるところでのみ感じられます。
 他の指揮者による演奏でも近い雰囲気を感じることはありますが、ワルターほど心まで澄んでくるような響きではないのです。単純にハーモニーが揃っている点で言えば、おそらくワルター以上に綺麗に整っている演奏はいくらでもあるのでしょうが、バランスのちょっとした違いなのか、ワルターが最も神聖に聞こえるというのはなかなか興味深いところです。

 上記の二つの部分もそうですが、全体的に見ても柔らかさを感じます。
 強いアタックといった硬さは少なく、伴奏は重く広がりのある響きで、その上でメロディーがよく歌っています。フワッと丸く軽く、曲の最後の方でテンポを上げて追い込んで行ってもなお優しい雰囲気の演奏です。
 第3楽章辺りは、ゆっくりすぎて少し重くなっていますが、曲が明るい分、暗く沈んだりせず、むしろのんびりとくつろいだ雰囲気があり、これはこれでなかなか微笑ましくて良いものです。(2005/7/9)


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