W.A.モーツァルト 交響曲第35番 ニ長調 <ハフナー>

指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏トリノRAI交響楽団
録音1942年10月
カップリングモーツァルト 交響曲第40番 他
「カラヤン初期録音集」より
発売Universal(Grammophon)
CD番号471 703-2


このCDを聴いた感想です。


 冒頭からロケットみたいに勢いよく突き進んでいく演奏です。
 この演奏当時、カラヤンもまだ34歳に過ぎませんし、まさに若さ爆発といった雰囲気で、パワーが溢れんばかりにみなぎっています。
 そのパワーは、音がピアノの部分でも変らず、決して音が大きいままだったりするわけではないのですが、柔らかさという言葉をバッサリと切り捨てたように、いくら小さな音になろうとも隠しきれないほどの力強さがあります。
 しかし、突き進むといっても、暴れ馬のようにコントロール不能でただ勢いのみで突っ走っているわけではありません。
 同じ馬でも、よく調教されたサラブレッドのように、キチンと手綱は引き締められています。
 例えば、力強く突き進んでいく傾向は、当然、速い楽章の第1・4楽章に顕著に表れているのですが、第1楽章で一番印象に残ったのは、単にフォルテを力強く鳴らしている部分ではありません。
 わたしが第1楽章で最も「これは!」と思ったのは、よく登場する、ヴァイオリンが2オクターブに及ぶ音階を16分音符で一気に駆け上るフレーズです。
 この16分音符の一つ一つの音が精密機械のようにクリアに聴こえる上に、それが勢いよくクレッシェンドしていく様子はまるでコークスクリューパンチで、ググッとえぐるように突き進んでいきます。
 一方、第4楽章の方でも、コントロールの良さが際立っています。
 特に、フォルテとピアノの切り替わりの素早さは印象的です。
 この第4楽章は、ピアノとフォルテが交互に表れたり、フォルテピアノや、ピアノのメロディーの一部にスフォルツァンドが出て来たりと、強弱の入れ替わりが激しいのですが、あたかもスイッチでもあるかのように、パチッパチッときれいに入れ替わっているのです。
 しかも、頻繁に切り替わっているのにいささかの乱れもありません。
 急にフォルテになっても、音がグシャっと潰れずに、パシッと硬い物を叩いたようにクリアにまとまっていますし、ピアノになった時にも、音程が乱れる事も無く、勢いだけはちゃんと保ったままに、針のように細く凝縮されています。
 これほどまでに勢いがありながらコントロールの利いた演奏を聴くのは気持ちが良いものです。

 実は、この傾向は、緩徐楽章の第2楽章でも続いています。
 テンポが速めという事もあるのですが、メロディーを歌わせているというよりも、スピード感の方が印象に残ります。
 ロマンティックな雰囲気を廃した、スッキリした演奏と言っても良いでしょう。

 ところが、この演奏の中で異質なのが第3楽章です。
 他の三つの楽章と、傾向が全く異なります。
 冒頭のフォルテの部分こそ、まだ力強さが残っているのですが、テンポは遅めで、前に突き進むよりも後ろに引っ張り気味で、ピアノの部分は柔らかくよく歌われています。
 さらに輪を掛けて異質なのが中間部のトリオの部分です。
 テンポがさらに遅くなるだけでなく、一定ですらなく、まるでメンゲルベルクのように、小節毎に、また、一つの小節の中でも常にテンポが変化しています。
 メロディーに至っては、他の楽章での歌わせ方が嘘のように、壊れ易い物でも扱っているみたいに、ごくごく柔らかく繊細に歌わせています。
 他の楽章を鋼鉄の固さとすれば、このトリオは、さしづめ絹といったところでしょう。
 この楽章だけ雰囲気を変えているのは、一本調子になるのを避けて変化をつける意図があったのかもしれませんが、どうも第3楽章だけ浮いてしまっているように感じるため、個人的には、全楽章の雰囲気が似通っても、全て同じ調子で演奏して欲しかったと思います。(2003/3/22)


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