W.A.モーツァルト セレナード第13番 ト長調 <アイネ・クライネ・ナハトムジーク>

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1942年11月5日
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CD 9154)
ARCHIVE DOCUMENTS(ADCD.112)
Refrain(PMCD-2)
HISTORY(205254-303)


このCDを聴いた感想です。


 なんと言うか『凄み』のある演奏です。
 言い換えれば、迫力がある演奏なんですが、モーツァルトの、しかも『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』という曲としては、あまり抱かない印象ではないかと思います。
 仮に、これが『明るく祝祭的な演奏』とか『慈しみのあるやわらかな演奏』とか『小編成ながらキレのよい演奏』とかであれば、みなさんにもすぐに想像して頂けると思うのですが、この曲で『迫力がある演奏』とはどういう演奏か?
 まあ、古い時代のベートーヴェンの演奏を思い浮かべて頂くのが一番手っ取り早いかもしれません。
 フルオーケストラの弦楽部をおそらくそのままそっくり引っ張ってきたかのような大編成の合奏である上に、奏者全員が力いっぱい弾き切っています。
 例えば第1楽章は、テンポ設定が結構速く、音も短めに切っていてスピード感があるのですが、音が分厚いため、軽快さというより、重量物が猛スピードで突進して行くかのような威圧感をより感じます。
 特に20小節目辺りのような、ピアノからクレッシェンドしてフォルテにするようなところは、ほとんどベートーヴェンの曲を演奏しているかのような強烈なクレッシェンドで、これはもう演奏者は弓の毛の二、三本は切っているんじゃないだろうか思われるぐらい、渾身の力を込めて、フォルテどころかフォルティッシモぐらいまで一気に盛り上げています。
 ピアノの部分も、当然『柔らかい』とか『リラックスした』という言葉とは無縁の世界で、音は小さくなっても、どこまでも硬く、あくまでフォルテにつながるピアノとして、息が詰まるような緊張感が張りつめています。
 この傾向は、第2楽章に入っても変らず、楽章に指定してある『ロマンス』などどこを吹く風、多少はゆったりとはしているものの、「そんな軟弱なものは認めんっ!」とばかりに、カチッカチッという折り目が聞こえてきそうなぐらい緊張感を高く保ったまま硬く演奏しています。
 この楽章の途中に挟まれた、長調と短調の二つの中間部に至っては、ますますその傾向が著しくなっています。
 テンポ自体が、急に速くなり、ほとんどアレグロ並の速さになってしまい、一つ一つの音はさらに短くなって、およさ緩徐楽章とは思えないようなスピード感溢れるキレの良さまで感じられます。
 第3楽章の力の入りようもただ事ではありません。
 もっとも、リピートする部分を、一回目はフォルテで二回目をピアノにしているので、対比させる意味合いもあるのでしょうが、一回目のフォルテの部分は猛烈に力が入っています。
 こういうメヌエットのような3拍子系の曲であれば、リズムの取り方は大抵『強−弱−弱、強−弱−弱、……』とメリハリをつけるのですが、この演奏はそんなメリハリなんて思いっきり切り捨てています。
 弱拍など無く、全て強拍の『強−強−強、強−強−強』。2拍目だろうが3拍目だろうが、叩きつけるように力いっぱいフォルテで演奏しています。
 さらに、それが全く逆になるのが中間部のトリオの部分です。
 このトリオは、この演奏の中で唯一メロディーを大きく歌わせていて柔らかさが感じられます。
 テンポもメロディーに合わせて大きく動かし、メロディーの歌わせ方も流れるように滑らかです。
 ところが、これがまた極端なのです。
 フレーズの変わり目でテンポを緩める時には、ほとんど止まりそうになるぐらいグッとテンポを落としますし、メロディーも流れるように歌わせるために、半ばポルタメント気味に音を移らせ、ピアノからフォルテまでのダイナミクスの差を大胆に付けていますので、ゆったりというよりも、むしろ何だかオドロオドロしい妖しげな雰囲気になっています。
 いや、聴いている分には非常に面白いし、わたしは大好きですが(笑)
 第4楽章は、第1楽章に雰囲気がかなり似ています。
 テンポこそそう速いというわけではありませんが、音を短く切って硬めで緊張感のある音楽です。
 音が分厚くて迫力があるという点も同じですが、この楽章には第1楽章には面白い点があります。
 それは、一つのメロディーが終って次のメロディーに移る時、次のメロディーが出るのを一瞬遅らせて、非常に短い『間』を取る事がある点です(常にではなく、一部です)。
 この『間』が絶妙であり、また大変印象的でもあります。
 通常、この曲の第4楽章のようにテンポに大して変化の無い曲を聴いている時には、自分の頭の中で、テンポに合わせて、無意識のうちに「このタイミングでこの音が聞こえてくるはず」という予想が出来ています。
 ところが、この演奏のようにメロディーの出を一瞬遅らされると、頭の中のイメージと、実際に聞こえてくる音にズレが生じ、予想したタイミングで音が聞こえてこないため、反射的に「えっ!?」と思います。
 そして、次の瞬間聞こえてくるメロディー。
 この「えっ!?」と思う空白の一瞬が、聴いている者にとって凄い緊張感を与えるのです。
 さすがに、あまりに作為的過ぎるのか、メンゲルベルク以外の指揮者ではあまり見かけませんが、メンゲルベルクは、そう度々ではありませんが、他の曲でも同じ事をやる事があります。
 こういう演奏をするところも、わたしがメンゲルベルクを好きな理由の一つです。(2003/1/17)


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