W.A.モーツァルト オーボエ協奏曲 ヘ長調(KV.313)

編曲:ハインツ・ホリガー

指揮ケネス・シリトー
独唱オーボエ:ハインツ・ホリガー
演奏アカデミー室内管弦楽団
録音1986年6月5〜6日
カップリングフェルレンディス オーボエ協奏曲第1番 他
発売日本フォノグラム(PHILIPS)
CD番号32CD-679


このCDを聴いた感想です。


 今回取り上げた、このオーボエ協奏曲は、一般的に知られているモーツァルトのオーボエ協奏曲ではありません。
 いわゆる「モーツァルトのオーボエ協奏曲」と言われる曲は、ハ長調でケッヘル番号はKV.314です。しかしこの曲はへ長調でKV.313にあたります。
 このKV.313という曲は、本来はフルート協奏曲第1番ト長調にあたります。そしてKV.314はオーボエ協奏曲ハ長調なのですが、フルートで演奏されることもあり、その場合はフルート協奏曲第2番ニ長調と称されます。
 そう、以前書いたフルート協奏曲第2番は、このKV.314の方なのです。
 このKV.314という曲は、本来はオーボエ協奏曲として作曲されたのですが、モーツァルトがフルート協奏曲の依頼を受けた時に、時間が無かったのか面倒がったのかはわかりませんが、以前に書いたオーボエ協奏曲ハ長調を一音上げてフルート協奏曲ニ長調として依頼主に渡してしまいました。そのため、フルート協奏曲第2番としても流布することになったのです。(このフルート協奏曲は、正確にはオーボエ協奏曲を単純に一音上げただけは無く、細かい部分に若干違いがあります。)
 さて、一方KV.313のフルート協奏曲第1番の方ですが、こちらはもちろん最初からフルート協奏曲として作曲され、モーツァルト本人はこれをオーボエ協奏曲に改作したことはありません。
 しかし、KV.314の方がオーボエ協奏曲からフルート協奏曲に変えられたのだから、このKV.313も逆にフルート協奏曲からオーボエ協奏曲に変えられるんじゃないだろうかと考えた人物がいました。
 それが、この演奏のソリストでもあるハインツ・ホリガーです。
 ホリガーは、モーツァルトがKV.314を一音上げてオーボエ協奏曲からフルート協奏曲へ変えた手順の丁度逆を辿り、原曲のト長調から一音下げてヘ長調にしてオーボエ協奏曲にしたのです。
 このヘ長調という調性は、モーツァルトのオーボエ四重奏でも使われている調性で、オーボエにとっては都合の良い調性でもあります。
 また、このKV.313では第3楽章のロンドが、KV.314のアレグレットとは異なり、メヌエットであることも新たな魅力です。

 さて演奏の方ですが……いきなりこういう事を書いて申し訳ないのですが、実は、わたしはホリガーの音色はあまり好きではありません。
 音色としてはベルリン・フィルの奏者だったローター・コッホやバイエルン放送響のマフレート・クレメントや、ウィーン・フィルのゲルハルト・トレチェクの方が好きですし、ホリガーと同じ系統の音色でもホリガーの弟子のトーマス・インダミューレの音の方が好みです。
 ついでにちょっと余談ですが、わたしが使っている楽器は、実はホリガーやインダミューレの使っている楽器と同じ会社なのです。(といってもオーボエのメーカーはほぼ3社に集中しているため、プロと同じメーカーを楽器を使っていることは珍しくもなんともないのです)
 オーボエはメーカーによる音色の差がかなり激しい方なので、ホリガーと同じ会社の楽器を使っているということは、本当はホリガーの音色を目指すのが一番間違いないのですが……(汗)
 話を戻しまして、ではなぜ今回、音色が好きではないホリガーについて書くのか?
 それは、音色の好みの違いを吹き飛ばすくらい、表現力とテクニックの凄さに驚いたからです。
 この表現力とテクニックは密接に結びついており、テクニックは表現力の土台となり、このテクニック抜きには表現力は生まれなかったでしょう。
 ホリガーのテクニックについては、昔から世界一と呼ばれるほどの定評があり、「音が揃っている」とか「テンポがしっかりしている」とかその辺りは当然すぎて、わたしが改めて書くほどではありません。それよりも、聴きなおした時にダイナミクスの広さとそのコントロールに驚きました。
 どんな高い音でもどんな低い音でも、望むだけの音量をいとも軽々と出しているのです。
 そして、この完璧なコントロールが表現力に繋がるのです。
 ちょっとした小さなフレーズでもダイナミクスに差をつけることで実に生き生きとしてきます。
 さらにそのダイナミクスの幅が広いとなれば、差を大きくつけたり小さくつけたりといったバリエーションが拡がり、一層表情が豊かになってくるのです。

 一方、指揮のシリトーはホリガーを良くサポートしています。
 伴奏ということもあり、あまり個性を出さずに手堅くまとめているのですが、それだけではなく、音は締まっていて、なによりもバランス感覚に優れています。
 ソロが出てくるときには決してソロを邪魔しないようにしながらも、聴かせたいパートはちゃんと強調しています。
 さらにオーケストラだけの部分も、控えめながらソロの雰囲気が壊れないように注意が払われています。
 そのため、ソロが目立っていながらもオーケストラから浮いてしまわず心地よく調和しています。

 ところで、このCDは、実はわたしが初めて買ったモーツァルトのオーボエ協奏曲なのです。
 当時わたしはモーツァルトのオーボエ協奏曲を全く聴いたことがなく、「オーボエをやるんだったらモーツァルトの協奏曲ぐらい聴いておくか」と思い、CD店のモーツァルトのオーボエ協奏曲の棚からたまたま手に取ったのがこのCDだったのです。
 ということは……はい、当然、このKV.313の方が一般的なオーボエ協奏曲の方だと思っていました(汗)
 その後、KV.314のスコアを手に入れまして、早速曲を聴きながら開いてみたのですが……
「おかしい… 曲とスコアが合わない…」と首を捻る羽目に。
 さらに後に、二枚目のオーボエ協奏曲のCDを買い、聴いてみると……
「おおっ!? 最初に買ったCDと曲が全く違うぞ!」
 この時点で、初めて最初に買ったCDの曲が一般的なオーボエ協奏曲の方では無いことに気がつきました。(……というか、スコアを見た時点で気がつけよ、という話もありますが(汗))
 いや〜、人間、こうやって間違いを繰り返してやっと正しい知識を身に付けていくものですね(笑)(2002/1/25)


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