W.A.モーツァルト ホルン協奏曲 第3番 変ホ長調

指揮ニコラウス・アーノンクール
独奏ホルン:ヘルマン・バウマン
演奏ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
録音1973年11〜12月
カップリングモーツァルト ホルン協奏曲第2番 他
モーツァルト ホルン協奏曲全集の一部
発売ワーナー(TELDEC)
CD番号27P2-2239(8.41272 ZK)


このCDを聴いた感想です。


 ヘルマン・バウマンはモーツァルトのホルン協奏曲を何回か録音していますが、これはその中で最初の、そしてバウマンではたぶん唯一のナチュラルホルンによる演奏です。
 ナチュラルホルンとは現在のホルンの原形で、単に細長い一本の管をぐるぐる巻きにしただけのもので、基本的に「ド、ミ、ソ、シ、ド」に代表されるような自然倍音しか出すことができません(正確にはド、ミ、ソ、シではなくもうちょっと複雑ですが)。もちろんそんな少ない音では音階を吹くこともできないので、ロータリーという弁を設け、それを切り替えることによって管の長さを調節して間の音も出せるようにしたのが、現在一般的に使われているヴァルブホルン(フレンチホルン)というタイプです。この改良によって現在のホルンはどの音でも簡単に出せるようになったのです。
 今、ナチュラルホルンは音階の間が抜けた自然倍音しか吹けないと書きましたが、この協奏曲には音階もあったりと、その間の音も多数登場します。
 では、その間の音をどうやって出すのかといえば、実は現代でもたまに使われるホルンだけの特殊奏法でゲシュトップ(ストップ奏法)というものがあり、楽器のベル(朝顔)の中で支えている右手をベルの中に押し込んで穴を塞いだりする事で、音色がミュートされた「ミー」という押し潰した音に変わると共に音も半音上がります。
 現在のゲシュトップは、ほとんどが音色の変化を目的としていますが、ナチュラルホルンの場合は音色の変化より音が半音上がるところに意味があり、その音の上がり方をいろいろ調整することで、自然倍音と組み合わせて音階を吹いたりすることが可能になるのです。
 ただ、右手をゴチャゴチャ微妙に変化させて音を変えるわけですから、左手の指をちょっと上げ下げすれば済むようなロータリーとは違い、速い切り替えはできませんし、安定した音程をとるのも一苦労です。
 モーツァルトのホルン協奏曲は、数あるホルン協奏曲の中では比較的技術面での難易度の低い曲ですが、それはあくまでも現代のヴァルブホルンでの話で、それなりに速い動きもありますし、ナチュラルホルンでは非常に大変な曲のはずです。
 しかし、バウマンはいとも簡単に吹いています。
 音色は自然倍音とゲシュトップしている音とで全く音色が違うので、「ここは何もせずに吹いているな」とか「この音はゲシュトップしているな」というのはわかりますが、移り変わりは非常に素早く滑らかで、しかも音程も安定しています。
 音色の変化さえなければ、普通のヴァルブホルンの演奏と言われても信じてしまいそうになるぐらいで、そのテクニックの高さには驚かされます。
 さらに、この第3番には演奏者のアドリブの(つまり作曲者が特に楽譜を書いていない)カデンツァがあり、バウマンはこのカデンツァで重音奏法まで披露しています。
 重音奏法とはなにかというと、一度に二つの音を同時に出す奏法です。ただ、弦が複数ある弦楽器や鍵盤楽器ならいざ知らず、ほとんど管楽器は一度に一つの音しか出せません。
 ならどうやって二つの音を一度に出すかというと、方法はいろいろあるみたいですが、一般的でおそらくこの演奏でもやっているのは楽器を吹きながら声でもう一つの音を出すという方法だそうです。
 ここまでくるとほとんどサーカス並みの曲芸で、感心するを通り越して、よくやるもんだと半ば呆れてしまうほどです(笑)
 しかし、改めて考えてみると、この曲はもともとナチュラルホルンのために作曲されたもので(たしか当時はまだヴァルブホルンは無かったはず)、重音奏法はともかくとして音階や速い動きなどは、少なくとも曲を提供されたライトゲープ本人はまともに吹けたという事ですから、ライトゲープが超絶名人でなければ(少なくともある程度以上名手だったのは確かのようです)意外とその当時の人にとっては普通のテクニックだったのかもしれません。
 さて、わざわざナチュラルホルンを使った目的である音色の方ですが、CDの解説には「ヴァルブホルンと違って明るく抜けの良い音」といった旨が書かれているのですが、わたしが聴いた限りでは、むしろ逆のように聞こえました。
 ゲシュトップの音は別としても自然倍音の音は、ヴァルブホルンの輪郭のハッキリした音に較べて篭ったような奥行きのある音で、暗いというほどではないにしても重く下の方に響いているような印象を受けました。
 そういう音自体は嫌いではないのですが、解説文とあまりにも正反対に聞こえたのはちょっと不思議です。

 伴奏しているのは、過激な表現で知られるアーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスですが、この演奏ではそれほど変わった表現はしていません。
 ただ、音色はオリジナル楽器らしく薄く、響きが軽いところがなかなか好印象です。(2004/7/10)


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