W.A.モーツァルト ホルン協奏曲 第1番 ニ長調

指揮ヘルベルト・ブロムシュテット
独奏ホルン:ペーター・ダム
演奏ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
録音1974年
カップリングモーツァルト ホルン協奏曲第4番 他
モーツァルト ホルン協奏曲全集の一部
発売BMG
CD番号74321 40508 2


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、何といってもソリストのペーター・ダムの素晴らしい音色につきます。

 ペーター・ダムは、バックのオーケストラのドレスデン国立歌劇場管の首席奏者でもあるのですが、その音色の深さは、ちょっと他では聞けない程の奥行きを感じさせます。
 その心地よさは、まるで暖かい布団に包まれているようで、ゆったりと落ち着いた気分を誘います。
 さらに、歌わせるときにかけるビブラートがまた絶妙です。
 決して強すぎず弱すぎず、それでいて、このビブラートがかかっている事で、音色がビブラートがかかっていない場合よりも遥かに豊かになっているのが、はっきりと感じられるのです。
「なるほど、これが最も効果的なビブラートのかけかたとは、こういものか」と非常に納得しました。
 以前、書いた第3番のソリストのタックウェルとは、音色の方向性が全く異なるのですが、わたしはどちらの音色も、同じくらい好みです。

 さて、次にちょっとホルン協奏曲第1番という曲自体の話になります。
 モーツァルトのホルン協奏曲は、全部で4曲あり、その番号は、基本的に作曲順につけられた筈だったのですが、近年になって、従来とは異なる順番で作曲されたという説が有力になっています。
 現代では、作曲順は第2番、第4番、第3番、第1番の順番ではないかと言われています。
 そうすると、この第1番はモーツァルトが書いた最後のホルン協奏曲という事になるのですが、この曲にはさらに複雑な事情があります。
 それは、この曲の第2楽章(Rondo。第1番には緩徐楽章がないので、第2楽章ですが、他の曲では第3楽章にあたります)は、実は完成前にモーツァルトが亡くなってしまい、実際に完成したのはモーツァルトの死後、また、それを補筆完成させたのは同じく未完に終わったレクイエムの補筆で名高い(悪名高い?(笑))弟子のジュスマイヤーです。
 しかも、もっとややこしい事に、ジュスマイヤーが行なったこの第2楽章の補筆は、レクイエムのようにモーツァルトが書いた後をそのまま書き足したわけではなく、モーツァルト本人がある程度完成させておいた楽譜を大幅に修正し、モーツァルトが書いていないメロディーを新たに加え、展開も大幅に変え、ほとんど別の曲といって良いぐらい変更しているのです。
 最近入手した、タックウェルの新盤では、通常の第2楽章に加え、モーツァルトが元々書いていたと思われるオリジナルの第2楽章を復元した演奏が入っています。
 この二つを聴き比べてみると違いがよく分かります。共通しているのは冒頭のメロディーのモチーフぐらいで、後は展開やオーケストレーション等にかなりの違いがあります。
 さて、現在ではほとんどジュスマイヤー版と呼んでもいいような従来の第2楽章ですが、専門家の間ではジュスマイヤーが勝手に楽譜を作り変えたとして、近年とみに評判が急落しています。
 特に、中間部に出てくるジュスマイヤーが新たに付け加えた『ソーファーミーファミファミー』(※訂正部)というメロディー(賛美歌か何かからの引用らしいのですが)は、モーツァルトと何の関係も無いメロディーを無理矢理組み入れたとして最も評判が悪い部分です。
 ところが、このホルン協奏曲第1番で、わたしが一番好きなのが、正しくこのメロディーが出てくる部分なのです。
 元が賛美歌か何かだからというのもありますが、このメロディーが出て来た途端に、それまでの人間臭い世界から、スッと解き放たれ、一瞬天上界に舞い上がったかのように、非常に崇高な雰囲気が感じられます。
 そのメロディーを、実際、ジュスマイヤーが新たに加えたのか、それともモーツァルトが最初から書いていたのかは、わたしにはわかりません。しかし、どちらが書いたのであろうとも、それまでのメロディーの中に、この異質な雰囲気のメロディーを持ち込むというセンスは素晴らしいと思います。
 もし、『天才』という概念があるのなら、わたしはこういうセンスを『天才』と呼びます。(2002/10/4)

 この部分のメロディーは、記譜上は『ソーファーミーファミファミー』ですが、調を考えると『ミーレードーレドレド』が正しいと思われます。ご指摘を頂き訂正致しました。(2004/3/20修正)


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