W.A.モーツァルト シェーナとアリア「いとしい人よ、さようなら―留まれ、わが心よ」K.528
(Bella mia fiamma...Resta,o cara)

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独唱ソプラノ:リア・ギンスター
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1942年3月5日
発売及び
CD番号
AUDIOPHILE(APL 101.546)
Q DISC(97016)
TAHRA(TAH 401-402)
ARCHIVE DOCUMENTS(ADCD.109)


このCDを聴いた感想です。


 モーツァルトの演奏会用アリアは、独唱曲に関心がある方々にとっては普通にメジャーで、このK528のシェーナとアリアも独唱系の演奏会(コンサートというよりもリサイタル?)ではそこそこ取り上げられているらしいのですが、わたしのような交響曲などの管弦楽曲をメインに聴いている者にとっては、今一つ馴染みの薄いジャンルです。
 わたしもこの演奏を聴くにあたって、わからないことだらけだったので、自分なりに少しは調べてみました。おそらくわたしと同じようにほとんど知識がない方もいらっしゃるのではないかと思い、まずは曲の背景などを少し書いておきます。
 そもそも『シェーナとアリア』とは何なのか、まずはここからです。
 アリアは、これは皆さんもご存知の通り、歌劇などでは見せ場であり、独唱がここぞとばかりに力を入れて歌う『歌』です。日本語では『詠唱』と訳されることもあります。
 では『シェーナ』とは何か。こちらは、アリアの前につく対話風の独唱曲なのだそうです。レチタティーヴォ(よく『叙唱』と訳される)に近いものですが、レチタティーヴォがより『語り』に近いのに較べ、どちらかというと『歌』の性格が強く、レチタティーヴォとアリアの中間ぐらいのようです。日本語では『劇唱』と訳されるらしいのですが、正直言ってあまり聞いた事が無い言葉です。
 この曲は、モーツァルトが18歳の頃に亡くなったヨンメッリという作曲家の歌劇「なだめられたチェレーレ(Cerere placata)」に拠っており、その挿入歌という形を取っています。
 歌詞の内容は、主人公(ソプラノが歌ってますが男)が、恋人のいる国(恋人はその国の公女)から追放されるため、恋人やその他の人に別れを告げるシーンで、別れの言葉とせめて心なりとも恋人のもとに留めておきたいという気持ちを歌い上げているのではないかと思います。なにしろ、元の歌劇の内容が今一つわからないため、歌詞から判断しておそらくそういう内容ではなかろうか程度ですが。そもそもこの歌劇が喜劇なのか悲劇なのかすら分からないもので……
 ちなみに、タイトルに登場するチェレーレは主人公ではなく、主人公の恋人の父親であり主人公を追放した本人で、主人公の名前はティターノです。
 モーツァルトはこの曲を、友人のソプラノ歌手ヨゼファ・ドゥシェック夫人が歌うために書いたのだそうです。形は劇中の一場面を表していますが、おそらくヨンメッリの歌劇の中に挿入したのではなく、現在と同様コンサート形式で単独に演奏したのではないかと思います。

 さて、演奏の方ですが、歌っているギンスターは、なかなか表情豊かで一言一言に気持ちを強く込めています。
 美しいというよりもドラマチックな歌いっぷりで、聴いている方も思わず手に力が入ってきます。別れの曲といいつつ、後半のアリアに入ってからは曲調は意外と明るいので悲痛という雰囲気ではありませんが、盛り上げ方は劇的で、最高潮に達した部分では、ほとんど長調ど真ん中なのにもかかわらず、その圧倒的な力強さには、明るい暗いを越えて聴く者に強く訴えかけてくる感情の爆発があります。
 大昔(1930年代)の名著「名曲決定盤」(著:あらえびす 中央公論新社)では、『少し女学生めく』とか『モーツァルトの歌劇も可愛らしい』などと書かれているギンスターですが、この演奏の録音の時はもう43歳。さすがに女学生めいた幼さは無くなり、かなり深みが出てきたようです。
 劇的なのは伴奏のメンゲルベルクも同じです。
 こちらもいつも通りといえばいつも通りですが、軽さとは無縁の力のこもった濃い音です。
 ポルタメントはかけるわ、ビブラートも盛大にかけるわで、表情の変化をさらに激しくしています。
 当然テンポの変化も激しく、重くゆったりと引っ張ったかと思うとクライマックスでは歌手を後ろからけしかけるように切れ味鋭く突っ込んでいきます。
 穏やかさとか中庸の優しさとは無縁の演奏で、よく言われるモーツァルトのイメージからはずいぶんかけ離れており、違和感を感じる人も多いのではないかと思いますが、ここまで自分のスタイルを貫かれるとそれはそれで妙に説得力が出てきます。まあ、わたし自身、こういう演奏が好きだというのもあるのでしょうが。

 一つ付け加えておきますが、この演奏には一部カットがあります。
 楽譜が無いのであくまで推測ですが、シェーナの部分の後ろ半分がおそらくカットされているのではないかと思います。
 演奏時間も、他の演奏が10分程度かかっているところが、7分半ほどとだいぶ短くなっています。(2005/8/27)


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