S.ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番 ニ短調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏P:ワルター・ギーゼキング
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年3月28日
発売及び
CD番号
Music&Arts(CD-250)
Classics Da Capo(171.921-2)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルク、ギーゼキング共に曲に対して情熱を傾けていろいろと工夫を凝らしているのは伝わってくるのですが、どうもそれが空回りしているような気がします。
 曲に真正面からぶつかっていこうとしたはずが、実際には斜めにぶつかって表面を滑ってしまったみたいなのです。曲とやろうとしていることがうまくかみ合わず、ありていに言えば、かなり無茶苦茶な演奏になってしまっているのですが、その分面白いのは確かです。まあ、とても人に薦められる演奏では無いと思いますが。
 ラフマニノフの曲というのは、チャイコフスキーをさらに甘くしたものというイメージがあり、その点からすると、チャイコフスキーの感情的な面を表に出した演奏が得意なメンゲルベルクなんて最も相性が良さそうなものですが、なぜかそうではありません。
 もしかすると、ラフマニノフを演奏するにはメンゲルベルクはあまりにも健康的過ぎたのかもしれません。感傷的な甘さや暗さを感じさせるような病的なところが無く、逆に力強く堂々としているのです。
 メンゲルベルクも、その辺りは自覚しているようで、ベートーヴェンなどの演奏と異なりチャイコフスキーの時のようにポルタメントを入れたり頻繁にテンポを動かしてはいるのですが、これがまた図ったように裏目に出ています。
 ゆっくりとしたテンポにすると重くなりすぎて後ろに引っ張られますし、逆に速くすると先へ先へと行き過ぎて妙に浮き足立っているように聞こえたりと、手を加えれば加えるほどどんどん泥沼にはまっていくのです。
 さらにソリストのギーゼキングがその傾向に拍車をかけています。
 ギーゼキングは、もともとモーツァルトやドビュッシーなどを得意としていて即物的でわりと感情を抑えた演奏で知られていますが、この演奏では、ラフマニノフの曲調に合わせてか、感情を強く表に出し、気合いの入った弾きっぷりです。
 当然、テンポの方も大きく動かしているのですが、その動かし方が伴奏のメンゲルベルクともまた微妙にずれています。
 ソリストとオーケストラが、それぞれ「俺は俺の道を行く」とばかりに個性を主張し合いぶつかっているのならそれはそれでスリリングで納得もできるのですが、そうではないのです。お互いに合わせよう合わせようという意志はあるのですが、平行でない2本の直線を伸ばしていき、交点でぶつかるかと思ったら実は3次元でネジレの関係になってました、という具合にスカッとすれ違ってしまっているのです。まあ、こちらもハラハラドキドキという点ではスリリングなのですが、それは違うスリリングです。
 ギーゼキングは、テクニックの方もだいぶ怪しげで、ある程度は一発録音のライブですから仕方がないとしても、半端でないぐらい多くのミスタッチ(間違えた音を弾くこと)があります。
 特に速いテンポの第3楽章は、普通のテンポでも大分怪しいのではないかと思われるのにテンポは標準よりもさらに速く、もうここまで来れば多少増えようが五十歩百歩だと開き直ったのか、ひどいところでは音符の半分以上を間違えたりすっ飛ばしたりしているのではないだろうかと思えて来るぐらい堂々と間違えています。いやもう、ここまで豪快にやられると、ハラハラを通り越して、これはもうこういうスタイルなんだと納得してしまうから不思議です。
 これらの歪が最も極端に現れたのが曲の最後です。
 曲の終盤で、いったんテンポが遅くなりゆったりさせておいて急に速くなってピアノが三連符の速い動きを弾いている背後でオーケストラが小節の一拍目と三拍目にジャンという全合奏で短く和音入れ、曲の終わりに向かって一気に盛り上げていく部分があります。
 盛り上がりに合わせてテンポも少しずつ速くなるのですが、そのテンポの速め方がやっぱりオーケストラとソロとで合ってないのです。どちらも勢いをつけて一気に持っていこうとしている姿勢は一緒なのに、ソリストの方が先に行きそうになってつんのめったり、オーケストラが追いつこうとしてさらに速めたら、今度は勢いがつきすぎて追い越したりと、どうもドタバタしています。
 それでも勢いだけはあるのですから、聴いている方としては、とにかくそれで最後まで押し切って何とか格好をつけるんだろうなあ、などと考えていたのですが、メンゲルベルクともあろう者がそんな安易な手に逃げるわけがありませんでした。
 ラフマニノフの曲の最後の最後は、たいてい判で押したように『ジャンジャカジャン』という終わり方をしているのですが、この演奏はいきなりその部分で急にテンポを落として堂々と曲を締めくくったのです。そう、ベートーヴェン交響曲第9番<合唱つき>の最後と一緒です。
 これはさすがに聴いていてひっくり返りそうになりました。その直前まで勢いで押していたのになぜそこで急に落ち着くかと。しかもこれまた当然のごとくあんまり合っていませんし。
 まあ最後の最後までいろいろやってくれた演奏でした。面白いという点ではここまで並ぶ演奏はそうは無いのではないかと思います。
 ちなみに、この終わり方は、ピアノ協奏曲第2番も同じですが、第2番の方は終盤そこまで一気に盛り上がったりはしないため、この演奏ほど不自然ではありません。たぶん全体を見ても、第2番の演奏の方が成功しているのでないでしょうか。
 あらゆる意味で無茶苦茶な演奏ですし、そもそも録音状態もそれほど良いわけではありませんから、いろいろ許せる人なら大丈夫かも、と言っておきましょう。個人的にはかなりお気に入りではあるのですが。(2005/10/8)


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