指揮 | ウィレム・メンゲルベルク |
演奏 | ニューヨーク・フィルハーモニック |
録音 | 1926年1月4日 |
販売及び CD番号 | Pearl(GEMM CDS 9922) |
この演奏は、演奏の内容以前に、録音でかなり損をしています。 いくらスタジオ録音とはいえ、1926年という、電気録音ですらまだ出たばかりの頃の録音のため、音響的な厚みがマイクに入りきれていないのです。 実は、個々の楽器の音自体は、この年代にしては意外と鮮明なのですが、いかんせん個々の楽器がそれぞれ単独で聞こえ、混ざり合った響きになっていません。 これが、ベートーヴェン等の曲であれば、そういう録音であってもそれほど致命的な問題ではないのですが、分厚い音響が特色の一つであるワーグナーではさすがに欠点が目立ちすぎます。 例えば、この曲には、低音楽器で何度も繰り返される有名なメロディーがありますが、メンゲルベルクの演奏では、メロディーならメロディーの部分だけ聴いている分には、非常にしっかりとしていて、聴き映えのする堂々とした演奏で、録音もちゃんと鮮明です。 しかし、問題はそのバックにあります。 いや、そのバックの演奏が悪いとか下手とかいうのではありません。よくよく背後の動きに注目してみると、細かい音符まできちんと弾けていますし、細かいパッセージを楽器が順繰りに繋いで行く部分なんかも、上手く受け渡されています。 では、どこが問題なのかといいますと、上記に書いた「よくよく背後の動きに注目してみると」という部分、つまりバランス的に弱すぎるのです。 しかも、それだけではありません。 細かい動き自体は、まだ目立って聞こえてくるのですが、一番肝心の和音等の響きがほとんどマイクに入っておらず、そのためメロディーや細かい動きが曲から浮いてしまい、全体として音楽が妙に薄っぺらく聞こえてしまうのです。 逆に、有名なメロディーが出てこない部分の方が、全体の音が均等にマイクに入っていて、かえって響きがよく聴き取れます。 中でも、フォルティッシモで全体が高音から低音に向かって流れるように降りてくる部分は、音響的にもかなりの分厚さがあり、太陽のような輝きが感じられます。 内容としては、メンゲルベルクにしては珍しくテンポをほとんど動かさず、音も硬めに演奏させて、堂々たる雰囲気を強調しています。 特に、メロディーは、テンポに加えてダイナミクスもあまり変えず、威厳が損なわれないように注意が払われています。 一方、メロディーが出てこない部分については、逆に大げさと思えるほどダイナミクスの幅を広く取ることで、生き生きとした動きをつけ、堅苦しいばっかりの表情が乏しい演奏にならないよう、上手く対比させています。 ……と、内容の方は、かなりのものと思えるだけに、録音が良くない点が本当に惜しいところです。まあ、時代を考えるとしょうがないのですが…… どこかで、画期的なリマスタリングの方法が見つからないものですかね?(笑)(2002/10/11) |