R.ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲

指揮アルバート・コーツ
演奏ロンドン交響楽団
録音1926年9月16日
カップリングワーグナー 歌劇「リエンツィ」序曲 他
発売Pearl(HMV)
CD番号GEMS 0024


このCDを聴いた感想です。


 良くも悪くも疾走感あふれる演奏です。
 そもそもテンポ自体速く、演奏時間も他の指揮者ではたいてい13分を越えるところですが、この演奏では12分を切って11分48秒に収まっています。
 前半の「巡礼の動機」の部分なんかは速すぎるぐらいで、しずしずと進むどころか、ほとんど駆け足状態です。それも整然と速いのではなく、なんだか浮き足立ったバタバタと落ち着かない足の運びで、いったい何をそんなにあせっているんだろうかと思えてくるほどです。
 しかも、録音が1926年と古いため、響きに広がりがほとんど無く、雄大でもどっしりとしてもなく、テンポの速さと相まって、悪く言えばセカセカとした、良く言えばフットワークの軽い、動きの激しい音楽になっています。
「巡礼の動機」の部分では今一つ合っていないと思えた激しい動きですが、テンポがアレグロになる「ヴェーヌス山の動機」からは、がぜん生き生きとしてきます。
 音楽がそれまでと大きく変わり激しくなるため、演奏の疾走感にピタリと合っているのです。
 さらにそれに引き続き登場する「乱舞の動機」や「陶酔の動機」に至っては、ほとんどデュオニソス神でも現れたかと思えるほどの熱狂振りです。ノリにノったスピードで突っ走り、聴いている方も一気にテンションが上がっていきます。これでアンサンブルもほとんど乱れが無いのですからこれも驚きです。
 後半に「巡礼の動機」が戻ってきますが、「乱舞の動機」の高いテンションを保ったままで、そのまま「巡礼の動機」突入します。他の指揮者の演奏では「巡礼の動機」の精神に合わせて音楽を落ち着かせて行く場合が多いのですが、コーツはそのまま突っ込んで行くのです。しかも、前半の「巡礼の動機」の時の浮き足立った雰囲気とは異なり、今度は前のテンションの高さがあるだけにテンポが速くてもしっかりとスピードに乗っているように聞こえます。この部分では、ヴァイオリンなどの高弦楽器に32分音符の細かい動きの伴奏が付いていますが、メンゲルベルクの1932年の演奏の時は、なんだか邪魔に思えたこの動きも、この演奏では、まるで風切り音のようで、むしろ疾走感をさらに高めています。
 たしかに後半でも「巡礼」らしい祈りや雄大さは、他の演奏ほどはありませんが、最後まで疾走感で突っ走っていく姿は非常に力強く、これはこれで「おおっ」と感嘆させられました。(2008/4/5)


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