R.ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲

指揮カール・ムック
演奏ベルリン国立歌劇場管弦楽団
録音1927年12月8日
カップリングワーグナー 歌劇「リエンツィ」序曲 他
「WAGNER CONDUCTORS ON RECORD」の一部
発売Pearl(Electrola)
CD番号GEMS 0024


このCDを聴いた感想です。


 ムックのワーグナーの演奏については、以前、ボストン響とのローエングリンの第3幕への前奏曲の感想を書きましたが、今回の演奏は、それよりもちょうど10年後の演奏になります。
 その10年間にムックの環境は大きく変わってしまいました。
 ボストン響の指揮者の座を、独探(ドイツのスパイ)との疑いによって追われ、ついには合衆国に居ることすらできなくなり、ヨーロッパに戻って活動せざる得なくなります。
 ただ、もともとドイツ出身の人ですし、オーケストラとも気心が通じやすかったのではないでしょうか。
 録音技術も、10年間で大きく進歩しています。
 なにより機械録音から電気録音へと変わったのは大きな違いです。
 この新しい方の録音も電気録音とはいっても1927年ですから、1930年代後半あたりの他の録音較べてさえ明らかに一ランク落ちるぐらいでしかないのですが、それでも機械録音と較べればその差は歴然としています。やはり、楽器の音が単独でバラバラに聞こえるのではなく、響きが響きとしてまとまって聞こえるというのは、完全に別次元です。
 演奏の方は、速めのテンポで真っ直ぐに進んでいくスッキリとしたものです。
 テンポはかなり他の演奏と較べてもかなり速めの方で、録音時間の制限が厳しかったのかもしれませんが、まるで後ろから追い立てられているみたいに、無理に速いテンポにしているかのような印象も受けます。常に前を目指そうと積極的なので音楽に躍動感が生まれていますが、さすがに少し余裕が無さ過ぎるように感じました。
 メロディーは歌い込むというよりもスピード感重視で、キレの良さで勝負しています。ただ、面白いのが、低音、つまりコントラバスやチューバがメロディーをとる部分で、例えば後半の第166小節目以降辺りの低音が曲の冒頭に出てくる主旋律で、高弦(+チェロ)が対旋律、木管が短く切った八分音符でリズムのようなメロディーを毎小節繰り返す部分では、低音はなぜか妙に味のある歌を聞かせています。録音は古いので低音が特に強く出ているというわけでもなく、バランス的には高弦の方がよっぽど強いのに、低音はピタリと揃っていて輪郭がハッキリとしているということもあってか、他のパートよりも低音についつい耳が向いてしまいます。和音の低音として土台となりながらも、メロディーパートとしても充分な存在感があります。
 基本的に、速い一定のテンポでキレ良く進んでいるのですが、それでもメロディーの最後などでは、この時代の指揮者には義務になっているかと思えてくるぐらい、大きくテンポを遅くしています。
 強調したいのはわかりますし、そういうわざとらしい演出は個人的には結構好きなのですが、モダンの中に急にレトロが入ってくるようなもので、急に古臭くなってしまい流れもどうも損なわれ気味です。
 極めつけは最後です。全合奏で和音を鳴らし曲を締めくくる部分で、最後から2小節目を、一回しか演奏しないパターン(この場合は和音は三つ)と、最後から2小節目を一度繰り返す(つまり全二回)パターン(この場合は和音は五つ)の二種類があり、これは現在でもどちらのパターンも使われています。
 ところが、この演奏は二つのパターンのどちらでもありません。
 和音が四つというもので、強いてあげれば最後から2小節目を繰り返すパターンに近いものです。
 ただ四分音符→四分休符→四分音符→四分休符の形をそのままそっくり繰り返すのではなく、一回目は冒頭の四分音符のみで3拍目は無く、2回目では楽譜通り一拍目と三拍目に和音が入ります。
 つまり、それまでのゴチャゴチャした音楽が四分音符のジャンで締めくくられたものの、次の和音がイメージ通り入ってこず、あれ、どうしたのかな? まさかこれで終わりなのかな? と思っていると、改めてまたジャンから入って和音が三つ並びます。
 まるで、いったん曲が終わった後に三つの和音をおまけで足したみたいで、なんだかとってつけたような印象を受けます。
 さすがにこういったことをしている演奏は、他には聞いたことがありません。(2006/5/13)


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