R.ワーグナー 歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲

指揮カール・ムック
演奏ボストン交響楽団
録音1917年10月3日
カップリングP.I.チャイコフスキー 交響曲第4番より第4楽章 他
「The first recording of The Bosnton Symphony Orchestra」の一部
発売BSO CLASSICS
CD番号171002


このCDを聴いた感想です。


 予めお断りしておきますが、この演奏……いや録音は、とても万人にお薦めできるものではありません。
 演奏云々以前に、録音が昔過ぎて、よほどこの手の録音を聴き慣れていない限り、あまりにも音が貧弱でとても聴いていられないと思います。
 それこそ研究者かよほどの物好き向けのCDと考えてよいでしょう。
 なにしろ、戦前(1939年)に出版された、まだSPがバリバリに現役だった頃の解説書「名曲決定盤」(著者:あらえびす 中央公論新社)の中ですら、『一般の観賞用レコードには不適当なものである』と書かれているぐらいですから。
 もちろん、ムックの音楽に興味があるのであれば、ムックは当時のボストン響の首席指揮者で他のオーケストラよりも遥かに結びつきは強かった筈ですし、そういう意味ではボストン響との録音は、ムックの音楽が最も忠実に再現されていると言えるのかもしれません。
 しかし、そのムックがボストン響を追われた理由が『独探(ドイツのスパイ)』(『○探』という言葉自体がまるで日露戦争の頃のようで時代を感じさせますが)という疑いを持たれた為ですし、それも第『一』次世界大戦の時の話ですから、ムックがボストン響を指揮していたのがどれだけ昔の事か想像して頂けた事かと思います。
 しかも、ムックの録音はボストン響とのこの古い録音だけではなく、後に電気録音の時代に入ってから、ベルリン歌劇場管辺りと録音を残しています。わたしは残念ながらその録音を聴いたことが無いのですが、少なくともこの録音よりは格段に聴き易くなっていることでしょう。
 まあ、そういうわたしも、わかっていながら買っている訳ですから、物好き以外の何者でもありませんね。
 いや、やはり、いくら昔の指揮者とはいえ、一時代を築いた指揮者がどんな演奏をしていたか興味があるじゃないですか(笑)

 さて、肝心の演奏の方ですが、スッキリとしたストレートな演奏です。
 同じ頃に、メンゲルベルクやフルトヴェングラーといったロマンティックな解釈が流行っていたとはとても思えないほど、楽譜に忠実で、しっかりと安定した形の整った音楽を作り上げています。
 もちろん、録音が録音なので、力強い低音とか豊かな響きなどは求めようもありません。
 さらに、主旋律の裏で動いている細かい動きも、わかるのはごく一部ですから、それでワーグナーを聴こうというのは、両手を縛ってボクシングをしろと言っているようなもので、ほとんど無謀な話です。
 しかし、これが不思議なもので、これだけ悪条件にもかかわらず、ちゃんとワーグナーらしく聞こえます。
 脳内でかなりの部分を補完しているのかもしれませんが、貧弱な音の中にも、堂々とした雄大な雰囲気や、祝祭的な華やかさが感じられます。
 ムックはバイロイトの常連で、ワーグナーは最も得意としていたそうですが、それもわかるような気がします。自信に満ちた音で、迷いや躊躇がありません。
 また、録音は確かに貧弱ですが、音は割れていませんし、雑音があまり入っていない分、少しは聞きやすく、1910年代としては、録音はかなり良い方ではないでしょうか。
 もっとも、その『1910年代』という点が、最大のネックなのですが(笑)(2004/2/7)