R.ワーグナー 歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1927年6月10日
発売及び
CD番号
HISTORY(205254-303)
Pearl(GEMM CDS 9018)
東芝EMI(TOCE-8191〜99)
SYMPOSIUM(1078)
ANDANTE(2966)
NAXOS(8.110855)


このCDを聴いた感想です。


 よく『神秘的な美しさ』と称される第1幕への前奏曲ですが、メンゲルベルクの演奏はそれほど神秘的には聞こえません。
 これはもちろん、メンゲルベルクの演奏が美しくないという意味ではありません。
 ハーモニーはよく揃っていますし、特に最初の方と最後でのヴァイオリンだけの高音のアンサンブルは緊密で、研ぎ澄まされたような美しさがあります。
 ただ、この美しさが、例えば天井界の音楽のような、ある種人間離れした禁欲的で透明な美しさかというと、そうは思えませんでした。
 悪く言えば俗っぽい、つまりは、足が地に付いた、人間的な感情……特に喜びに溢れた演奏のように感じました。
 それは、宗教的な、神の恵みを受ける喜びではなく、もっと享楽的な、欲望とストレートに結びついた喜びで、ローエングリンというよりも、むしろタンホイザーに近いんじゃないかという印象を受けました。(いや、あそこまで性的というつもりはありませんが(汗))
 なぜそういう印象を受けたかといえば、その大きな要因は、音とポルタメントにあります。
 音には、他の曲より抑えられているとはいえ、ビブラートが大きくかかり、音色が艶やかで、伸ばしているだけの音ですら豊かな表情を持っています。
 ただでさえ音が人間らしいのに、さらに、音が移り変わる際には、ポルタメントが多く使われています。
 このポルタメントがまた、テンポがゆっくりとしているだけあって、焦らすように粘ってゆったりと掛けられていて、天使よりもむしろ悪魔の囁きじゃないかと思えてくるほどです。
 中間から後半にかけて、だんだん楽器が増えていって盛り上がっていき、最後にシンバルが入ってクライマックスを築くところなどは、堂々として迫力があり、権力者である地上の王のような権威が感じられます。

 これだけ人間味溢れた(?)演奏ですが、感情が豊かな割には、意外とシャキっと整ってもいます。
 その理由は、テンポにあります。
 まず、ベースとなるテンポ自体がけっこう速いですし、途中でたしかに曲調に合わせてテンポを落す事も多いのですが、落としたテンポに引っ張られることなく、すぐに元のテンポに戻っています。
 このため、音楽がだらしなく弛緩したりせず、全曲に渡ってピンと一本、糸が張られていて、最後まで緊張感が保たれているのです。
 だから欲望にストレートに結びついて享楽的でも、そのまま自堕落に陥ってしまうのではなく、紀律をさらに正して、より大きな喜びを目指しているのかのようです。

 ……えーと、なんだかだんだん犯罪組織のトップについて書いているみたいになって来ましが、別にそういう人を想定しているわけではありませんので(汗)(2003/6/7)


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