R.ヴォーン・ウィリアムズ バス・チューバと管弦楽の協奏曲 ヘ短調

指揮ダニエル・バレンボイム
独奏Tuba:アーノルド・ジェイコブス
演奏シカゴ交響楽団
録音1977年3月
カップリングモーツァルト オーボエ協奏曲 他
「THE CHICAGO PRINCIPAL
FIRST CHAIR SOLOISTS PLAY FAMOUS CONCERTOS」の一部
発売Grammophon
CD番号B0000025-02


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、シカゴ交響楽団の1970年代から1980年代の管楽器の首席奏者がソリストとなった協奏曲を集めた企画物のCDの中の一曲です。
 他の曲は、オーボエやホルンとファゴットがモーツァルト、トランペットがJ.ハイドンと古典派の有名な協奏曲が選ばれているのに、チューバだけヴォーン・ウィリアムズとなぜかここだけ20世紀の曲が選ばれています。
 なぜだろうと不思議に思ったのですが、実はこのヴォーン・ウィリアムズの曲はチューバの協奏曲では非常に有名かつ代表的な曲なのですね。わたしは恥ずかしながらこの演奏で初めて知りました。
 ちなみにこの曲、形式としてはAllegro−Romanza−Rondoの全3楽章と古典派の協奏曲とほとんど同じですが、意外と短い曲で、全3楽章演奏しても演奏時間は12分弱しかありません。古典派の協奏曲もそれほど長い曲でもないのにそれよりさらに短く、CDに収録されている7つの協奏曲の中でも最短です。
 ただ、演奏時間は短くても中身はぎっしりと詰まっています。
 現代の曲らしく金管は大活躍しますし、サスペンディッド・シンバル(吊り下げてバチで叩くシンバル)やスネア・ドラムも入り、かなり華やかです。
 なによりチューバがこれでもかこれでもかと動きまくります。
 高低の跳躍はそれほどありませんが、クルクルとコマネズミのように細かく動き回ります。楽譜を見たことはありませんが、おそらく16分音符や32分音符で真っ黒なんじゃないでしょうか。
 およそチューバとは思えないような動きの連続ですが、これがまた演奏しているジェイコブスが完璧なのです。
 金管ではなく実は木管で吹いているんじゃないだろうか思わせるほどの軽々と動いていきます。特にすごいのが、低音は通常、輪郭がぼやけ気味で、速く動いていてもモゴモゴとなってなにがなんやらわからなくなりがちなのですが、ジェイコブスは輪郭が非常にハッキリしていて、どの音が出ていてどう動いているのかが明確に聞き取れます。
 ソロも伴奏も激しく華やかな曲で、現代曲にありがちな難解なところはほとんどありません。
 なによりメロディーがなじみやすいものです。
 ヴォーン・ウィリアムズらしく民謡調のもので、それを伴奏が華やかに彩るといったあたりは、オーケストラの曲というよりも、むしろ吹奏楽曲に近いかもしれません。実際、ヴォーン・ウィリアムズは吹奏楽曲も何曲も作っていますし。
 どの楽章のメロディーも聞きやすいのですが、なかでも印象に残るのは第2楽章です。
 Romanza(ロマンス)の名前の通り情緒があり、夕暮れのように少し寂しくしみじみと郷愁を感じます。
 こういう雰囲気は、ヴォーン・ウィリアムズに限らず、イギリスの作曲家お得意のもので、エルガーやホルストなどにもよく登場します。ドイツのような大上段に振りかぶったものでもなく、フランスのように軽くしゃれたものでもない、田舎風にちょっと泥臭く、でも身近で心にスムーズに入ってくる親しみやすさがあります。
 CDの解説の英語を下手な読解力で解読したところでは、どうやらこの第2楽章は、他の楽章よりも前に作曲され、もともとはハーモニカのソリストのために作曲されたものとのことです。作品辞典を調べるとチューバ協奏曲が作曲される3年前の1951年にハーモニカとピアノとオーケストラための「ロマンス」という曲が作曲されていますから、これが第2楽章の前身のようです。このロマンスをチューバ向けに改作し、第1楽章と第3楽章を新たに付け加えてチューバ協奏曲となりました。
 この曲がロンドン交響楽団創立50周年記念として完成及び初演されたのは1954年で、1958年に亡くなるヴォーン・ウィリアムズにとってはかなり晩年の作品というわけです。ただこれが最後の曲ではなく、その後も交響曲を2曲も書いたりとほとんど死ぬ間際まで作曲を続けています。(2006/8/19)


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