R.シューマン 交響曲第4番 ニ短調

指揮ウィルヘルム・フルトヴェングラー
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1953年5月14日
カップリングL.v.ベートーヴェン 交響曲第5番
販売ポリグラム(Grammophon)
CD番号POCG-9821(453 542-2)


このCDを聴いた感想です。


 ボクシングで言えば、まさしくヘビー級チャンピオンといったところでしょう。

 音の一発一発が、腹にズシリと来るような重量感があり、その迫力に圧倒されます。
 しかも、重いからといって恐竜のように動きが鈍重というわけではなく、アタックは硬く決まっていて、それこそモハメド・アリの『蜂のように刺す』が如く、動きにキレがあります。
 例えば、第1楽章で速いテンポの主題部に入ってからは、テンポをかなり遅めにしているのにもかかわらず、もたれたりすることが全くなく、逆にジワジワと隙なく迫ってくるようで、聴いていると、その音楽の巨大さに、だんだん自分が追い詰められていくような気にすらなってきます。

 このテンポが遅いという傾向は、第1楽章だけでなく全楽章に共通していて、第2楽章ではただ遅いだけではなく、大きく揺り動かしています。
 このテンポの揺り動かしによって、音楽の情緒性が強調されているのは良いのですが、さすがにベルリン・フィルもついて来れず、アンサンブルが乱れているところもあるのは、まあご愛嬌といったところでしょうか。

 遅さと重さがもっとも特徴的に表れているのは第3楽章でしょう。
 頭の音からしてその重さには驚かされます。
 まるでサンドバッグをわたしのような素人が殴ったみたいに、とてつもなく重い衝撃を受けます。
 これでテンポが遅いものですから、さらに巨大な存在感があります。
 ほとんど、スケルツォという表示が何かの間違いのように見えてなりません。楽しいというよりも恐ろしい感じがします。

 ところで、この第3楽章というのは、みなさんもご存知の通り、ゆったりとした経過部を介して、切れ目なく華やかな第4楽章に繋がります。
 わたしは、このフルトヴェングラーの演奏を聴いて、これがどういう音楽なのか初めて理解できました。
「なるほど、ベートーヴェンの交響曲第5番と同じだったんだ(笑)」
 いやもう、フルトヴェングラーの演奏は、カップリングされているベートーヴェンの第5番の第3楽章から第4楽章への盛り上げ方と全く一緒です。
 闇の中から光が微かに見えてきて、ジワジワと溜めておいて最後に一気に盛り上げる、『闘争→勝利』という構図です。
 なるほど、考えてみれば、第3楽章はたしかに『闘争』と言っていいほどの激しさがありました。
 ということは、当然、第4楽章は『勝利』です(笑)
 ベートーヴェン第5番の第4楽章の派手さとはまたちょっと異なる明るさですが、遅く始まって、だんだん少しずつテンポアップしていくところといい、ガッガッと切り込んでいくところといい、最後は手に汗握るような興奮を感じるところといい、こちらも紛れもなく『勝利の雄叫び』といった感があります。
 もうほとんど、『シューマンの皮を被ったベートーヴェン』ですね。この演奏は(笑)

 録音は、フルトヴェングラーが死ぬ一年半前という時期でもあり、モノラルとしてはかなり良い方だと思います。
 話によると、フルトヴェングラーが自分の録音で満足できたのは、これとシューベルトの第9番だけだったらしいのですが、この演奏を聴くと、たしかにフルトヴェングラーの凄さがマイクに比較的良く収まっているという事が納得できます。(2002/5/31)