R.シューマン ピアノ協奏曲 イ短調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏ピアノ:エミール・フォン・ザウアー
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1940年10月10日
販売及び
CD番号
キング(KICC 2061)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、メンゲルベルクの演奏という点よりも、むしろリスト最後の弟子エミール・フォン・ザウアーの貴重な演奏という点のほうが、重要かもしれません。
 ザウアーが死去する2年前で、実に78歳の時の演奏です。
 ザウアーも若い頃は、『無類のテクニシャン』で、しかも『ザウアー・タッチ』という美しいタッチを誇っていたそうですが、ザウアー・タッチの方は、録音が悪すぎてよく分かりません。
 それでも、音の輝きはさすがに大家らしく煌きがあり、そして何よりメロディーの歌わせ方に老練さを感じさせます。
 基本的に、ロマンティックな傾向の強い、テンポの伸び縮みの激しい歌わせ方なのですが、『押す』『引く』の呼吸が見事で、緊張と弛緩を交互に繰り返すことで、ちょっとしたメロディーでも聴き手に強く印象付けています。
 そして、もう一つの売りである『無類のテクニシャン』の方はどうかというと……
 えーと………一言で言うと、『ミスタッチの嵐』です……
 一発物のライブという悪条件を差し引いても、おそらく他のどの演奏よりもミスが多いのではないかと思います。
 これにタメを張れるのは、同じメンゲルベルクの指揮の下で、ワルター・ギーゼキングの弾いたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の第3楽章ぐらいなものではないでしょうか。
 ただ、これに関しては単純にザウアーを責めるのも酷な話です。
 なにしろ、ザウアーは1936年には既に引退しており、この演奏は引退して4年も経ってからという久し振りの演奏で、しかも亡くなる2年前という点を考えると、むしろよく頑張っている方ではないでしょうか。

 さて、一方伴奏のメンゲルベルクの方ですが、こちらはザウアーよりもさらに輪をかけてロマンティックな方向へ突っ走っています。
 例えば、曲の冒頭のオーボエソロの後の、ピアノの分散和音の下で伴奏している弦楽器のメロディーからして、まるで豚骨スープのようにコッテリ濃厚で、おまけにポルタメントまで入れています。
 ただし、これが単純にベッタリやられたらクドイだけなのですが、メンゲルベルクはダイナミクスに差をつけることで、緊張と弛緩を作り出し、単調に陥る事を防ぎ、風通しを良くしています。
 そのため、コッテリ濃厚にしてはしつこくないのですが、それが通用しなくなるほど濃厚さが最高潮に達するのが、第2楽章です。
 冒頭の方はそれ程でもないのですが、チェロのゆったりとしたメロディーからはもうネットリ感全開で、テンポも、小節毎どころか小節内でルバートしており、4拍目なんて本来の1.5倍の長さがあるんじゃないかと思えるほど大きくテンポを動かしています。
 この部分は、完全にオーケストラの方が主導権を握っていて、ピアノの方は『ああ、そういえばピアノが入ってたな』ぐらいの印象しか残らないほど喰われています。ほとんどピアノの伴奏付きの管絃楽曲と言っても良いくらいです。
 また、テンポも遅くするだけでなく、意表をついて速くなることもあります。
 第1楽章の終りの方のピアノのカデンツァの直後から行進曲風のメロディーが出てきますが、このメロディーは少し後で、もう一度繰り返されます(正確には、ちょっとだけ違うメロディーですが)。
 メンゲルベルクは、1回目の方はまあまあ普通のテンポなのですが、2回目に入った途端急にテンポアップしています。
 これに加えて、さらにピアノの方もバンバン煽って来るため、そこから先は、聴いていても手に汗握る展開となり、すごい緊張感が生み出されています。

 メンゲルベルクが絡むと大抵そうなるのですが、この演奏も、既に『シューマン』のピアノ協奏曲というよりも、『ザウアー』と『メンゲルベルク』のシューマンのピアノ協奏曲とでも言うべき演奏になっています。
 まあ、わたしはそういうところが好きなんですが(笑)(2002/4/12)