R.シュトラウス 交響詩「ドン・ファン」

指揮クルト・マズア
演奏ニューヨーク・フィル
録音1998年12月8日
カップリングR.シュトラウス 「死と変容」 他
発売TELDEC
CD番号3984-25990-2


このCDを聴いた感想です。


 ゆったりとした印象を受ける演奏です。
 テンポ自体は、それほど遅いわけではなく、演奏時間も16分半ぐらいですが、時間のわりに悠然と幅広く聞かせています。
 そういう印象を受ける一番の理由は、一音一音に至るまでよく歌わせていることにあります。
 そもそも、音がテヌート気味といわないまでも結構長めで、フレーズの最後によく登場する全合奏のジャンというキメの和音なども、ライナーなどのようにスパッと潔く断ち切るのではなく、少し後ろまで引っ張って十分に音が響いてから切っています。
 そのため、キレの良さはそれほどではないものの、表情の濃さは他の演奏にはちょっとないほどです。
 さらに、途中に出てくるトランペットやオーボエのソロのような長いメロディーはもちろんの事、冒頭から10秒ほどのティンパニーの連打の後から出てくる弦楽器のメロディーのようなちょっとしたものまで、およそメロディーらしき動きのほとんどに、ビブラートをたっぷりとかけて大きく伸び伸びと歌わせています。
 もちろん、歌わせるといっても昔の大指揮者の時代のようなテンポを動かすような極端なことをしているわけではなく、あくまでもテンポを守った範囲内です。それでも、そのテンポの中ではかなり重心が後ろに寄っていて、小節を次の小節に移るそのギリギリまで使い尽くしたたっぷりとした歌わせているため、聴いていてテンポ以上に悠然とした印象を受けるのです。
 しかも、それだけ濃くたっぷりと歌いこませているのだから、重くて胃もたれしそうな演奏かというと実は意外とそうではありません。
 テンポがそう遅くないというのも理由の一つだと思いますが、もっと大きな理由は音がよく整理されているためでしょう。
 これは、ニューヨーク・フィルの技術が優れていることにもつながりますが、和音がきちんと合っていて響きにほとんど濁りがありません。
 それだけでなく、細かな伴奏の動きの一つ一つに至るまで動きが揃っていて、しかも、その動きがそれぞれ存在感があり、立体的に浮かび上がって聞こえるのです。まるで澄んだ川の中を見ているようで、水面ならぬ響きで一体感がありながら、中は透けて見えるのです。まあ、それだけ透けて見えるから、どの動きもよく歌っているのがわかるというのもありますが。
 上記の良さはオーケストラ全体についてなのですが、途中でいろいろ登場する楽器のソロやパートのソロを聴いて、個々の奏者のレベルの高さにも改めて感心しました。
 ヨーロッパのオーケストラのように音色がどうとかとか全体の中での役割とかそういった伝統的なものから解き放たれて、純粋に技術と歌を突き詰めた、これぞ最高というものをドンと出してきます。いかにもアメリカンというかなんというか、人間味が薄れ機械的に近づいても、 純粋な分だけその到達点は高く、まさに一芸を究めたという感じで圧倒されました。
 以前に、NBC響の演奏を聴いて、そのパワーに驚かされたものですが、パワーと技術で方向性は少し違うものの、工業的な部分に誇りを持って最高を追求している点では一緒で、やはり、同じアメリカのオーケストラ、さらに言うと同じニューヨークのオーケストラなんだな、と妙に納得してしまいました。(2008/2/23)


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