R.シュトラウス 交響詩「ドン・ファン」

指揮アルバート・コーツ
演奏ロンドン交響楽団
録音1926年10月15日
カップリングリスト ハンガリア狂詩曲第1番 他
「Albert Coates conducts, volume II」の一部
発売KOCH
CD番号3-7704-2 Y6x2


このCDを聴いた感想です。


 タイトルの「ドン・ファン」は、モーツァルトの歌劇で有名な「ドン・ジョヴァンニ」と同じ意味ですが、性格はかなり異なっています。「ドン・ジョヴァンニ」は女性にすぐ手を出すような好色家で、本来の意味に近いものです。それに対して、リヒャルト・シュトラウスが作曲する際にイメージした、ドイツの詩人レーナウが詩に詠んだ「ドン・ファン」は、地上には存在しない理想の女性を捜し求める求道者のような人物で、かなりストイックになっています。
「ドン・ファン」には、探しても決して得られないものを探し続けるところに、どこか悲劇的な雰囲気が漂い、華やかさ分だけよけい悲壮感が増しています。
 しかし、このコーツの演奏は、「ドン・ファン」というよりも「ドン・ジョヴァンニ」のイメージですね。
 それも20世紀らしくスピード重視の。
 目当ての女性を見つけた瞬間、脇目も振らず近づき「あなたが好きです! あなたも私の事が好きですよね。そうですよね。さあ、今すぐ結婚式を挙げましょう!」と、相手に口をさしはさむ余裕を与えず、一気にまくし立てて、今にも腕を取って式場へと向かいそうな雰囲気です。
 基本となるテンポ自体が速い上に、音楽をかなり強引に前に引っ張っていきます。
 音楽の進め方が非常に積極的で、もっと速くもっと速くと煽り立てます。途中で一部のパートがボロボロと脱落しているような気もしますが、そんなことはお構い無しです。
 そもそも演奏時間が、他の指揮者の演奏ではだいたい16分前後、人によっては18分以上もかけている演奏もある中で、たった14分ジャストしかかかっていないという時点で、いかに速いか想像していただけると思います。
 ただ、それだけ急かしたてて、アンサンブルも乱れかけているのにもかかわらず、メロディーなどは意外と伸び伸びとよく歌っています。
 楽譜上でtranquilloなどの遅めのテンポが指定してある部分などは、ここはさすがに急がせずにじっくりと歌わせていますし、速いテンポの部分は、スパッと弾き切っているため、テンポの速さがそのまま勢いの良さへとつながっています。

 録音は1926年ですので、いくらスタジオ録音とはいえかなり厳しいものです。音自体はわりと生々しいのですが、雑音はあちこちで盛大に入り、細かい動きなどはほとんど聞き取ることができません。
 壮大で細かい動きが多いリヒャルト・シュトラウスの音楽で細かい部分が聞き取れないのはほとんど致命的ですが、まあ、細かい動きがきちんと弾けているかどうか怪しくてもごまかせるという利点はあります。
 演奏しているロンドン響は、この録音当時から技術には定評がありましたが、リヒャルトともなると、怪しげな部分があっても不思議ではありません。しかし、聞こえてくる部分はほぼ真っ当ですし、とにかく雰囲気は充分に伝わってきます。
 あんまり落ち着きはありませんが、飛ばしに飛ばした面白い演奏です。(2006/1/21)


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