P.I.チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

指揮フリッツ・ライナー
独奏Vn:ヤッシャ・ハイフェッツ
演奏シカゴ交響楽団
録音1957年4月19日
カップリングブラームス ヴァイオリン協奏曲
販売BMG(Living Stereo)
CD番号09026-61495-2


このCDを聴いた感想です。


 ソリスト、オーケストラ共々、驚愕を通り越して笑ってしまうぐらい完璧なテクニックの演奏です。

 ソリストのハイフェッツは、ただ完璧であるだけでなく、メロディーの歌わせ方がとても楽しそうで、余裕が感じられます。
 しかも、この曲はそもそもテクニック的に結構難しい筈なのですが、楽譜通りの難易度では飽き足らず、単音を重音にしてみたりと、更に難易度をアップさせているのですが、それでも正に軽々といった感じで弾きこなしているのには、もうただただ感心するばかりです。
 音の方も、どんな細かい音符まで粒が揃っていて、まるで、一枚が二枚、二枚が四枚のガマの油売りではありませんが、何でもスパスパ切れる鋭い刃物を見ているような、非常にキレの良い音です。

 一方、バックのオーケストラの方も、こっちはこっちでこれまた冗談みたいにピタリと揃っています。
 いや、オーケストラの方が人数が多い分、一人で完璧なソリストよりも、ある意味凄いかもしれません。
 例えば、音を短く切ってスタッカートで演奏する部分であれば、どんなに細かく音符が分かれていても、一音一音がはっきり聞こえ、しかもその音と音の間にちゃんと空白があることが明らかにわかるのですから、驚きです。
 こういうふうに音が揃っているだけでも凄いのですが、さらに響きがとても締まっています。
 あたかも響きを外へ漏らさずギュッと固めたように、エネルギーが凝縮された密度の濃い響きなのです。
 チャイコフスキーというと、メロディックなこともあり、内側に向くというより、外側に向かった開放的なイメージがあり、緊張感よりもリラックスしてくるような雰囲気が感じられるのですが、この演奏は響きの密度があまりに濃いため、息苦しいほどの緊張感があり、リラックスどころか、直立不動の姿勢で立っているかのような印象を受けます。
 しかし、だからといって、オーケストラが硬直していて柔軟性が無いという訳ではなく、ソリストのハイフェッツは、それほどテンポの揺れが激しい方では無いとはいえ、少しの変化にでもピタッとつけて来るこのオーケストラのフットワークの軽さは大したものでしょう。
 ただ、あまりにもピッタリつけてくるため、細かい音符までソリストの揺れを鏡のように反映していく様は、ここまで来ると人間離れした雰囲気があり、なんだか怖いような奇妙な気分になってきます(笑)

 この演奏の聴き所は、速いテンポという事で、第1・3楽章だと思うのですが、この両楽章には残念ながらカットがあります。
 その中で、第3楽章の方のカットは、それほど珍しくなく、現在でもしばしば行なわれますし、ましてやこの演奏の録音当時であれば、カットしない方が珍しいと思います。
 しかし、第1楽章のカットというのは、第3楽章ほど一般的ではなく、しかもカデンツァにもカットがあるというのは、ハイフェッツの技量を考えると非常にもったいない事です。
 戦後の録音なんですから、SP時代みたいに録音時間に厳しい制限があったとも思えませんし、不思議でなりません。(2002/11/29)