指揮 | アンドリュー・リットン |
演奏 | ボーンマス交響楽団 |
録音 | 1989年10月 |
カップリング | チャイコフスキー 交響曲第5番 |
販売 | Virgin |
CD番号 | VC 7 91140-2 |
チャイコフスキーは、シェークスピアを題材とした曲を、わたしの知っている限りでは三曲書いています。 そのうち二曲は、幻想序曲の「ロメオとジュリエット」と「ハムレット」で、特に「ロメオとジュリエット」の方は、頻繁に演奏されるようなメジャーな曲です。 反対に、今一つ取り上げられる機会が少ないのが、三つ目のこの「テンペスト」です。 そういえば、ロメオとジュリエットとハムレットは『幻想序曲(Fantasy Overture)』なのに、テンペストだけ『幻想曲(Symphonic Fantasy)』なんですよね。どこが違うというのでしょうか? 初めは単純に曲の長さの違いかと思っていましたが、それほど大きく異なるようにも思えませんし。どうでもいいといえばどうでいいのですが、何となく気になります(笑) まあ、それはともかく、この「テンペスト」という曲は、静かな部分と激しい部分とのダイナミクスに大きな差があったり、チャイコフスキーらしい歌謡性の高いメロディーがあったりと、なかなか聴きどころの多い曲です。 題材となった「テンペスト」という劇は、シェークスピア最後の作品だそうで、筋書きは、魔法使いと娘が住んでいる孤島に、ある嵐の夜、男性が流れ着き、いろいろドラマがあった末、娘と男性は結ばれ、魔法使いも島を去ることにした。という内容だったと思います。(……あんまり自信がないのですが(汗)) 曲の構成も、概ね筋書き通りのものです。 最初と最後に、静かな海の描写があるところといい、中間部が、嵐のような激しい音楽や、恋愛を表すようなロマンティックなメロディーがあったりするところといい、ほとんどまんまで、構成としては単純な方ではないかと思います(笑) ただし、構成は単純でも、そこはチャイコフスキー。海は静かながらも暗い不安感の漂う雰囲気を醸し出していますし、激しい部分もただ派手なだけではなく、ピアニッシモからフォルティッシモまでダイナミクスの差を上手く使い分けて、メリハリをつけています。さらに、ロマンティックなメロディーに至っては、もういかにもビブラートをたっぷりかけて弾いてくださいと言わんばかりの、感情にモロに訴えかけるような熱いメロディーです。 わたしはこういう音楽が大好きなんですが、もしかすると、あまりにも繰り返し聴き過ぎたら、その濃さが鼻についてくるのかもしれません(笑) 演奏しているリットンは、かなり上手くまとめています。 正直言って派手な演奏ではなく、逆に少し抑え気味にする事で風通しを良くして、スッキリとした飽きの来ない演奏にしています。 ただ、特筆しておきたいのはハーモニーのバランスの良さです。 この曲は、途中で、コラール風にハーモニーだけで展開していくフレーズがあるのですが(余談ですが、実はこの部分のメロディー、『はーるになればー』という童謡に似ているという話も(笑))、このハーモニーがオルガンのように綺麗に響いているのです。 また、ハーモニーとハーモニーの変わり目も、ピタッと決まっています。 わたしはテンペストの演奏をそれほど多く聴いた事があるわけではありませんが、ここまで揃っている演奏は他に聴いた事がありません。 テンペストに関しては、この揃っているハーモニーを聴くためだけでも、この演奏を買っても良いのではないかと思えるほどです。 これまた余談ですが、シェークスピアの「テンペスト」という題名は、日本では「嵐」と訳されることがあります。 とすると、このチャイコフスキーの「テンペスト」も、「嵐」と訳せなくもないのですが、そうすると少しややこしい事になってしまいます。 じつは、チャイコフスキーには、序曲「嵐」という全く別の曲があるのです。(英語では「The Storm」) それだけでも十分紛らわしいのですが、さらに紛らわしい点があります。 この序曲「嵐」の作品番号はOp.76で、幻想曲「テンペスト」の方はOp.18です。 この番号を見ると、「テンペスト」は初期の作品で、「嵐」は最晩年の作品のように思えるのですが(ほとんど最後の作品といえる「悲愴」でOp.74です)、実は作曲年は、「テンペスト」が1873年なのに対して、「嵐」はそれより前の1864年なのです。 それどころか、「嵐」はチャイコフスキーの最初の作品と言って良いくらいで、これが作曲された時、チャイコフスキーはまだ学生で、この曲、なんと夏休みの宿題だそうです(笑) この二つの作品は、わたしは今でも間違えそうになるくらいでして、みなさんも気をつけてくださいね(笑)(2002/5/17) |