P.I.チャイコフスキー 交響曲第6番 ロ短調 <悲愴>

指揮ウィリアム・スタインバーグ
演奏ピッツバーグ交響楽団
録音1954年4月14日
発売EMI(Capitol)
CD番号CDM 7243 5 67568 2 3


このCDを聴いた感想です。


 数多い悲愴の演奏の中でも最も引き締まった演奏の一つだと思います。
 他の演奏でよくあるように感情に浸ってズルズルと流れたり、一部をデフォルメしたりすること無く、洗濯糊で固めたみたいに折り目正しく隅々まで芯が通っています。
 この特徴が生かされるのはなんといっても速いテンポの部分です。
 第1楽章のアレグロに入ってからなど、揺ぎ無いテンポで真っ直ぐに突き進んでいく辺りの締まった雰囲気は、この演奏の大きな見せ場でしょう。
 ただ面白いことに、こういうライナー系とも名付けたくなる引き締まった演奏に多い、音の頭を叩きつけるようにして硬さを強調することはあまりしておらず、パーンと跳ねるよりも、パシッとまとめるような感じで、完全に足を地に付けてガッチリと固まっています。
 まるで枠にギチギチにはめ込んだみたいに安定していますが、動きは、鈍いとは正反対で、その安定感を保ったまま鋭く動いており、これがまたいっそう迫力を強めています。
 その一方で、全体としては硬く締まっていながらも、メロディーなどは意外と抑揚をしっかりとつけた歌い方です。
 フルートやクラリネットなどが単独でメロディーを担当する部分などでは、ビブラートも大きくかけてじっくりと歌わせていて、なかなか情緒豊かなところも見せています。
 もっとも、歌わせているといっても、哀悼調の泣き叫ぶようなものではなく、逆にさっぱりとした秋風のようにさわやかな系統の歌い方で、「悲愴」という曲名からくる悲観的なイメージよりはだいぶ前向きな雰囲気です。
 ところで、第1楽章の中間辺り(第160小節)で、ファゴットに強弱記号がppppppという常識で考えればとても演奏不可能な指示がされている部分があります。
 楽譜上の楽器指定はファゴットですが、たいていの演奏では、ppppppを出すために、霧のように音を消していくことが得意なバスクラリネットに変えています。
 この演奏では珍しく楽譜通りファゴットに吹かせているものの、やはりあまりppppppにはなっていません。ただ、スタインバーグの、激しい情動からは一歩距離を置いた雰囲気を考えれば、バスクラリネットの完全に情感に浸りきった音色よりも、ファゴットの少し超然とした音色の方で正解だったのではないかと思います。 (2005/10/29)


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