P.I.チャイコフスキー 交響曲第6番ロ短調<悲愴>

指揮フェレンツ・フリッチャイ
演奏バイエルン放送交響楽団
録音1960年11月24日
販売ORFEO
CD番号C 200 891 B


このCDを聴いた感想です。


 フリッチャイの「悲愴」というと、何年か前に晩年のベルリン放送響とのスタジオ録音が日の目を見て大きな話題になりましたが、この演奏は、そのベルリン放送響との録音よりもさらに1年後の演奏です。
 ベルリン放送響とのスタジオ録音と異なり、ライブということもあって、音楽がどんどん極端な方向に進んでいます。
 というか、初めて聴いた時には『な、なんて変な演奏なんだ!』と思いました(笑)
 テンポの伸び縮みはメンゲルベルク以上ですし、アタックはほとんど暴力的といっていいほど強烈で、メロディーの歌わせ方も、真ん中を膨らませたりするところはいやらしいぐらいです。
 さらに、ライブなのである程度は仕方が無い事ですが、アンサンブルも粗くなってしまっている部分がそこここに見られます。
 しかし、いろいろやっているだけあって、演奏自体は非常にインパクトがあります。
 しかも、それ以上に、この演奏には欠点を超越するだけの勢いがあります。
 わたしはベルリン放送響との演奏よりも、こっちの演奏の方が好きです。

 さきほど、メンゲルベルク以上のテンポ変化と書きましたが、実際、テンポ変化の最も激しいところ……というか、最もテンポを急激に遅くするところは、あまりの極端さにビックリさせられます。
 その中の一箇所は、第1楽章の245小節近辺で、ここは、金管が8分音符で「ミファソーファ」とフォルティッシシモとメロディーを吹いてその直後に弦楽器が32分音符で「タラタタタラタ」と合いの手を入れる部分なのですが、金管のメロディーだけテンポを急に半分ぐらいに落としています。そのくせ、弦楽器の合いの手は元のテンポのままなので、急なテンポになったかと思うと、次の瞬間ベッタリとした遅いテンポになり、そのまた次の瞬間にはまた元の速いテンポに戻っているという、そのあまりのテンポの格差には、まるでそこだけ異次元に入り込んでしまったかのような錯覚を受けるほどです。
 さらにもう一箇所は、第3楽章の282小節目からで、第4拍にシンバルが入り、その次の小節から全合奏のフォルティッシシモでテーマが高らかに演奏されるところなんですが、この部分、テンポを思いっきり溜めるのは、フリッチャイだけではなく、他にも同じ事をしている指揮者も多くいる、言わば定番のポイントです。
 そのため、そこでテンポを遅くする事自体は、それほど珍しいわけではないのですが、フリッチャイのとんでもないのは、その後です。
 テンポの遅くなり方は、メンゲルベルクともそう大差ありませんが、メンゲルベルクが次の小節でテーマを演奏する部分に来ると、キチッとテンポを元の速いテンポに戻すのに対して、フリッチャイは全合奏でのテーマに入ってからもテンポが遅いままなのです。
 元々マーチのようなイメージがあるメロディーなのに、それをフォルティッシシモでとんでもなく遅いテンポで演奏されると、奇妙にねじれた雰囲気があります。さらに、ティンパニーが異常にアタックを効かせていることもあり、一種異様な迫力が感じられます。

 いやもう、ここまで「やりたい事をやりつくした」演奏というのもなかなか無いのではないでしょうか。おそらくこれに対抗できるのはゴロヴァーノフぐらいではないかと思います(笑)

 ちなみに、わたしがフリッチャイの演奏を初めて聴いたのがこの「悲愴」で、しかも何年か前までこれしか聞いたことがありませんでした。
 そのため、わたしは、「フリッチャイ=変な指揮者(笑)」とばかり思っていました。

 録音は、ライブ演奏というハンデを差し引いても、今一つだと思います。
 60年代の西側の演奏なのにステレオでもありませんし、個々のパートもあまりクリアに聞こえてきません。
 それに、いきなり冒頭の6小節間が欠落していて、二回目のファゴットのメロディーから始まるのはどうかと思います。
 いや、無いなら無いで仕方ないのですが、せめてジャケットにはその旨を記載しておいて欲しかったものです。(2002/6/28)