P.I.チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調

指揮ジョン・バルビローリ
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団
録音1939年11月
カップリングR.シューマン 交響曲第4番
発売DUTTON
CD番号CDSJB 1007


このCDを聴いた感想です。


 バルビローリは、38歳という若さで、アメリカでNo.1ともいえるニューヨーク・フィルの常任指揮者に就任するという栄誉に恵まれたのですが、前任者が前任者だった事が不幸の始まりでした。
 なにしろ、あのトスカニーニだったために、事ある毎に比較されては貶され、ついには5年間という短い間のみで、せっかくつかんだ常任指揮者の座から去らざるをえませんでした。
 後にはヨーロッパで立派に成功したバルビローリにとっても、若かりし頃の苦い思い出として、きっと、いつまでも残っていた……かな?
 さて、この演奏は、そんなバルビローリのニューヨーク時代の雰囲気を伝える貴重なライブなのですが、やはり、良くも悪くも『若さ』があります。
 テンポの速い部分での推進力は素晴らしく、正しく若若しさに溢れ、どんどん前に進んで行こうとする勢いがあります。しかも、ニューヨーク・フィルのテクニックの高さとも相まって、細かい音符までよく揃っていて乱れがありません。
 第3楽章の中間部の速い部分辺りは、その特長が最も生かされているところで、速めのテンポで音楽が突っ走っていくのに、少しも不安定にならないところは、まるで工場で製品が生産されているのを見ているようで、出てくる物(音)が、高い品質で一定している様は、思わず感嘆の念を抱きます。
 その一方で、遅い部分は、細部まで入念に歌い込まれています。
 一つ一つの音にまでダイナミクスを細かくつける事で、陰影を大きくして、濃厚といって良いほどネットリと歌いこまれています。
 実は、上記の速めの推進力のある歌い方よりも、こちらの濃厚な歌い方の方が中心で、テンポの変化こそそれほど激しくないものの、全体としてはロマンティックな傾向の強い演奏なのです。
 この濃厚な歌わせ方の中には、第2楽章の中間辺りに出てくるクラリネットのソロのように、後のバルビローリを先取りしたかのような味わい深さを感じる事もあるのですが、これが若さというものでしょうか、他の部分ではもう一つ上手く行っていません。
 細かくダイナミクスに差をつけて濃厚に歌わせようという意欲は高く買いますし、わたしもメンゲルベルクに代表されるように、そういう傾向の演奏は好きなのですが、この演奏では、その表情付がどうも不自然なのです。
 変化させるにしても、柔らかいものを曲げた時のような緩やかで自然な曲線を描いておらず、硬い物を無理に何段階かに曲げたように、曲線ではなく直線の組み合わせで変化しているため、直線と直線との境目で、どうしても唐突な印象を受けてしまいます。
 そのため、よく歌い込まれているのにかかわらず、意欲だけが先走っているように感じてしまい、逆に濃厚に歌い込んでいない、速いテンポで突っ走る部分の方が、演奏が曲にピタリとはまっていて、迫力もあります。

 この演奏は、面白い事に、意外とメンゲルベルクの演奏と共通点を持っています。
 中でも最も大きいのが、第4楽章のカットの位置です。
 メンゲルベルクの演奏にはカットが二箇所ありまして、そのうち一箇所は、曲の終りの方で、一旦曲が終ったような雰囲気になって、また新たにモデラートで音楽が始まったその部分で、弦楽器でメロディが演奏される18小節分を丸々カットしているのですが、さすがにこのカットをやっている指揮者は他にはいません。
 一方、もう一箇所の中間部でのカットは、メンゲルベルク以外にも、フルトヴェングラーやケンペン等、他の指揮者でもやっている演奏があります。
 ところが、この中間部のカットする位置が、中間部という同じような部分をカットしながらも、2小節分くらい微妙に異なり、全く同じカットいうのは、今までありませんでした。
 しかし、このバルビローリの中間部のカットは、メンゲルベルクのカットと全く一緒なのです。
 また、カットではありませんが、最後の最後でMolto Meno Mossoとなりホルンとトランペットがメインテーマを高らかに吹き鳴らす部分で、大抵の演奏では一定に保たれているテンポを、どんどん巻いていって速くする点も共通しています。
 わたしが想像するに、メンゲルベルクは8年ほど前までは、ニューヨーク・フィルの常任指揮者だったわけですから、その時に使用された楽譜を、バルビローリが参考にした可能性もあるのではないかと思います。
 ところで、バルビローリで一箇所強烈だったのが、最後の方で、プレストに入る直前の一番盛り上がる部分です。メンゲルベルクがシンバルを入れるところといった方が人によってはわかりやすいかもしれません。
 この頂点に至るまでの数小節で、テンポに半端じゃなくブレーキがかかるのです。
 まるでシンバルが無い事の代わりといわんばかりに、極端にテンポを引っ張る事で、この小節を強調しています。
 いやもう、ここまで思いきってテンポを遅くした演奏は、初めて聴きました。

 そういえば、演奏とは直接関係ありませんが、この演奏はライブ録音なので、曲が終った後に拍手が聞こえてきます。
 と、そこまでは普通なんですが、このCDでは、拍手の途中から、アナウンサーのアナウンスのようなものが重なってきます。
 もしかして、この録音って、ラジオのエアチェックを録音したものだったんですかねぇ?(笑)
 まあ、ご愛嬌といったところです。(2003/3/8)


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