P.I.チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調

指揮ゲオルグ・ショルティ
演奏パリ音楽院管弦楽団
録音1956年5月
販売ポリグラム(DECCA)
CD番号POCL-4583(460 903-2)


このCDを聴いた感想です。


 これほど攻撃的な演奏というのも珍しいのではないでしょうか。
 とにかくアッタクがハンマーで叩いたかのようにガツンとキツク入っていることに驚かされました。
 ショルティというと、後年のシカゴ響との演奏から、完璧なアンサンブルを誇り、それにも増して分厚いサウンドで圧倒するイメージが強いのですが、この演奏は、ショルティの若い頃という事もあり、圧倒的な分厚いサウンドで迫ってくるという印象はあまり受けません。むしろ、テンポや音楽の持っていき方には、若々しさや勢いをより強く感じられます。
 柔軟性よりも、むしろ直線的。テンポ一つとっても、後年の滑らかなテンポ変化はまだ無く、真っ白な紙に折り目をつけたみたいに、不自然なほど明確にテンポが変わったり、時には『えっ!? どこからこんなテンポが?』と思わず口に出してしまうほど、急にテンポが遅くなってしまうような部分もあり、ショルティの『他の人とは違う演奏をやってやるぞ!』という意気込みが感じられるようで、嬉しくなってきます。

 さらに、演奏するオーケストラも、シカゴ響ではなくパリ音楽院管です。
 とりあえず、アンサンブルは……特に縦の線が合わないことには目を瞑りましょう。
 パリ音楽院管の魅力はそんなところにある訳ではないのですから(笑)
 やはり、なんといってもまずは音色です。
 全体がトゥッティで鳴らしている時の、低音に重みがおかれていない中高音中心の華やかなサウンドも良いですし、金管がフォルテでハーモニーを吹いている時の、個々の楽器がそれぞれ自己主張しているかのような生々しい音色も独特なものです。
 しかし、それ以上に魅力を感じさせるのは、やはりソロの場面でしょう。
 どうしても管楽器中心になってしまうのですが、第2楽章の長いホルンソロや、それに絡んでくるクラリネットやオーボエのソロの音色と歌い方は、フランス系以外のオーケストラでは聴く事ができないものです。
 このビブラートをたっぷり効かせた薄い音での揺れるような歌い方には、ほとんど麻薬のような陶酔感があり、そのうち『このままずっと聴いていたら、マズイ事になるんじゃないだろうか』と思えてくるほどです(笑)
 さらに、中高音に中心がある華やかなサウンドは、最初に書いた『攻撃的』というイメージに関わってきます。
 このサウンドは、華やかではあるのですが重みがありません。
 つまり、フォルテで鳴っていても軽さがあり、ドイツ系のように圧倒するような力強さはないのです。
 そのため、フォルティッシモのまま音楽を進めていく場面でも、頭のアタックはついていても、その直後にはサウンドはスッと軽く抜けて行きます。
 しかし、サウンドが抜けて行くことで、アタックの方は逆にその音の頭の硬さがより強調されて聴こえます。
 そうすると、ただでさえ叩きつけるようなアタックだったのが、さらに攻撃的に聴こえるというわけなのです。

 この演奏は、後年のショルティの演奏とはかなり毛並みが違っていますが、こういう面白い演奏、わたしは好きですね(笑)


 ショルティとパリ音楽院管(パリ管)という組み合わせは、かなり珍しいと思ったのですが、実は、ショルティは一時期、このオーケストラの音楽監督に就任していたのですね。
 ……といっても、1972〜75年なので、この録音があった時期よりだいぶ後年の話ですが。
 ちなみに、音楽監督時代に残した録音も少数ですがあるそうです。(2002/7/26)