P.I.チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調

指揮コンスタンティン・シルヴェストリ
演奏フィルハーモニア管弦楽団
録音1957年2月15・16・18日
カップリングP.I.チャイコフスキー 交響曲第5番 他
「チャイコフスキー 後期3大交響曲集」より
発売東芝EMI
CD番号TOCE-9055/56


このCDを聴いた感想です。


 冒頭のファンファーレのリズム。演奏の他の部分は忘れても、このリズムだけは忘れることが無いでしょう。初めて聴いた時は驚きました。
 この演奏でしかチャイコフスキーの交響曲第4番を聴いたことがないという人でなければ、きっとほとんどの人が聴いた瞬間に「あれっ? どこかおかしいぞ」と思うはずです。本来のリズムとは明らかに一部異なっているのですから。
 楽譜上では、冒頭のファンファーレのリズムは、最初の音が長く伸び、次に8分音符を3等分した3連符が来るのですが、この演奏ではその3連符が、32分音符3つ(+32分休符一つ)の形に変わっています。
 変わっているのはその一か所だけですから、ほんのちょっとの違いなのですが、ファンファーレのリズムの中でも最も目立つ部分だけに、印象は大きく変わってきます。3つの音のリズムが聴き慣れた形よりもずいぶん前に詰まり、その分、次の8分音符に入る前に、一瞬空白が空いています。他の演奏では、ファンファーレはまさに「運命のテーマ」を象徴するように硬く一定の調子を保っていますが、この演奏では、その空白で一瞬音楽が止まり、次の8分音符からまた音楽が流れ出すといった感じに、急緩急といった変化がつき、妙に緊張と緩和を伴ったある意味人間くさいファンファーレになっています。
 このファンファーレのリズムは、冒頭だけでなく第1楽章と第4楽章でなんどか登場しますが、どの部分でも冒頭と同じ変更したリズムで演奏しています。冒頭で登場した時には妙なリズム以外何者でもなかったのですが、ここまで徹底されると、「このリズムはこうしたいんだ」という指揮者の意志の強さが伝わってきます。そこまで断固たる意志で貫くのならそれはそれで尊重しましょうという気になってくるほどで、さすがに説得力を感じました。
 冒頭のファンファーレのインパクトが強すぎて、それ以外の部分はどうしても印象がかすみがちになりますが、実はもう一つ大きな特徴があります。
 それは、テンポの伸び縮みで、その極端さは他ではちょっと見られないほどです。
 メロディーに合わせて、どんどんテンポは遅くなり、メロディーが終わる時には音楽をいったん止めて一瞬空白を空けてから改めて次のメロディーに入るなどの演出も珍しくありません。楽章を通しての一定の音楽の流れというものはほとんど無視されて、その場その場でのメロディーをいかに効果的に聞かせるかに重点が置かれています。その代わり、メロディーはもう歌いまくりです。チャイコフスキーの演歌的哀愁を2倍にも3倍にも高めるような歌い方で、水あめのように粘りに粘っています。ほとんど表情過多ぎりぎりのところでしょう。あまりにも粘りすぎて第1楽章では演奏時間は20分を超えているほどです。わたしの持っている他の演奏で20分を超える物は他になく、ものによっては16分台もあるぐらいですから、いかに時間がかかっているかご想像いただけるかと思います。
 ファンファーレといい、表情の濃さといい、他の演奏とは通り3つ分くらい隔たった、良くも悪くも個性的な演奏と言えるでしょう。(2007/8/18)


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