P.I.チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調 〜第4楽章〜

指揮カール・ムック
演奏ボストン交響楽団
録音1917年10月2日
カップリングベートーヴェン 交響曲第7番(第4楽章) 他
発売BSO Classics
CD番号171002


このCDを聴いた感想です。


 おそらくチャイコフスキー交響曲第4番の初めての録音ではないでしょうか。ムックがまだスパイ容疑でアメリカを追われる前の1917年の録音で、電気以前の機械録音で行なわれています。
 当然、音の方は間違っても期待できるものではありません。それでも、機械録音にしてはけっこう聞けるほうでしょう。
 メロディーがわりとはっきりとした曲ですから、最低でもメロディーさえちゃんと聞き取れればそれらしく聞こえますし、その点については、驚くほどしっかりと録音されています。
 なんでも、メロディー部分だけマイクに近づいて録音するなど工夫を凝らしたそうで、どの楽器も伴奏を演奏している時はあまり聞こえなくても、メロディーになると急に鮮明に聞こえてきます。聞いている方としては、楽器がマイクに近づいた録音方法とは逆に、マイクの方がメロディーを担当する楽器に、まるでインタビューするみたいに毎回近寄っているかのように聞こえます。
 伴奏も、全く聞こえないわけではなく、メロディーほど鮮明ではないにしても、意外と聞き取れます。といっても、せいぜいメロディーを含めて三つぐらいの動きの違いが分かる程度ですが、なにしろ機械録音だけにそれぐらいでも十分に驚きですし、曲自体、あまり同時に多くの動きが登場しない曲ということもあって、なんとなく曲らしくなっています。
 ただ、パーカッションと低音はだいぶ無理があります。
 低音は全体的にモワッとぼやけ気味でおそらくチューバを入れてなんとか補強しています。パーカッションは、特に冒頭などから多く活躍するシンバルが、パコンという鍋でも叩いたような間の抜けた音になってしまい、迫力というよりも脱力を誘う効果音になってしまっています。
 さらに、それ以上につらいのが響きです。余韻が無く乾いた響きで、広がりがほとんどありません。音を出した楽器のすぐ前で止まってしまったかのようです。
 たまたま、この演奏は携帯用プレーヤーで聴いていて、この演奏が終わった後に続けて聞こえてきた演奏が、対照的に非常に響きに広がりがあり、一瞬これはどこのデジタル録音かと思って演奏者名をチェックしたら、ストコフスキー/フィラデルフィア管のなんのことはない1928年の録音だったというオチまでついてしまったぐらいです。つまり、電気録音になってまだ3年程度の単なるモノラル録音と較べてすら格段に響きが狭かったのです。

 録音はさておき、演奏の方ですが、かなりテンポの良く進めています。
 テンポ自体けっこう速めで、もしかしたら録音時間の制限もあったのかもしれませんが、メロディーも粘った歌い方ではなく、直線的にまっすぐ進んでいきます。テキパキと安定感のある音楽が印象的でした。
 さらに驚かされたのが技術の高さです。
 テンポが速くてもアンサンブルやテンポの乱れはほとんど無く、音の粒もきれいに揃って聞こえます(もともとマイクに入っている音自体少ないという話もありますが)。当時の録音は、演奏をそのまま原盤に刻み込んでいくだけで録り直しや編集なんてもっての外のはずですから、一発で揃ったということになります。この時代からボストン響のレベルが高かったのがよくわかりました。

 当時は、一枚に原盤に録音できる時間が短く、交響曲のように長い曲だとどれかの一つの楽章だけだったり、その中でも途中をバッサリカットしてしまうことも少なくありませんでした。この録音も全曲ではなく第4楽章だけですが、楽章の中では珍しくほとんどカットしていません。
 ただ、唯一カットしているのが、最後の最後、終わりから7小節前から3小節間です。
 ここは、場所が場所だけに、聞いてもすぐにわかり、かなり違和感もあります。
 ただ、このカット、どうも意義がよくわかりません。
 もし、ムックが音楽上余計だからと考えてカットしたのなら、それは指揮者の意志ですから、納得できないまでも尊重はしますが、録音などの技術的な制約とするとどうも腑に落ちません。
 最後はほとんどプレスト並ですから、そこで3小節カットしたとしても、せいぜい数秒程度短縮できるに過ぎませんし、オーケストラの技術的にも、そこが特別に難しいわけでもなく、それ以前が演奏できているのですからほとんど問題ないはずです。
 それなのに、わざわざカットしたというのが、どうも不思議でなりません。なんだか演奏内容以上に気になってきます。(2006/10/21)


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