P.I.チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調

指揮エーリッヒ・クライバー
演奏NBC交響楽団
録音1948年1月3日
カップリングシューベルト 交響曲第3番 他
発売TAHRA
CD番号TAH 450


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクはもちろん、「あの」ストコフスキーと勝負しても勝てそうな演奏です。
 というよりも、とてもクライバーが指揮したとは思えないような演奏です。
 クライバーというと、今までベートーヴェンやJ.シュトラウスなどで聞いていた限りでは、力強く勢いがありながらテンポをキープしてスッキリとまとめているという印象で、いわばトスカニーニに近いイメージがありました。
 ところが、この演奏ではたしかに力強く勢いもありますが、スッキリとはまるで正反対で、細かくゴチャゴチャといじり、他の指揮者では聞いた事がないようなこだわりまで見せています。
 その最たるものが第2楽章です。
 例えば、冒頭のメロディーをチェロが演奏した後に登場する、同じ音の四分音符を三つ続けるパターンの弾き方です。この三つの四分音符をクライバーは一つ一つ押すようにクレッシェンドしているのです。これが、四分音符を三つ演奏する間にピアノからフォルテまでしだいにクレッシェンドしていくというのであれば、まだわからなくもないのですが、一つずつ「p<f、p<f、p<f」と膨らませています。これはもう「変」としか言いようがありません。最初に聞いた時には、まさかクライバーがそんなことをするなんて信じられず、当然機械の故障だと思ったほどでした。
 さらにそれだけでなく、テンポもひんぱんに伸び縮みしています。
 メロディーの最後では思いっきりテンポを落とし、まるでヨロヨロと倒れこむかのようですし、かと思うと音を膨らます四分音符三つの部分では急に速くなります。中盤の速いテンポ(piu mosso)のところぐらいは一定のテンポかと思いきや、この部分ですら、じらすかのように遅くなったり速くなったりを繰り返し、むしろテンポの伸び縮みはさらに激しくなっています。
 しかしまあ、クライバーもよくここまでと言いたくなるぐらい細かくテンポを動かしていますが、オーケストラもオーケストラでよく付いていっているものです。クライバーが常任指揮者とかを務めているのならともかく、客演でそれほどリハーサルの回数がとれたとも思えないのに、これだけ好き放題にテンポを動かしてもちゃんと合わせているNBC響にも驚かされました。
 とてもクライバーとは思えなかった第2楽章とは対照的に、第3楽章はわたしのイメージするクライバーどおりに力強さと勢いがありました。
 いや、これも想像以上と言って良いでしょう。
 よく知られているように、この楽章の弦楽器はずっとピチカートで演奏しています。ピチカートの場合、弓で弾くアルコに較べてどうしても弱く、小さくまとまりがちなのですが、この演奏は全然小さくまとまっていません。
 いったいどれほど怪力で弾いているのか、打楽器の一撃並、聞いていて思わず体がビクッと痙攣してしまうほどの力強い音です。いやもう、この強さで弾いてよく音程が狂わないものです(弦楽器のピチカートであまりにも強く弾きすぎると弦が伸びて音程が低くなってしまいます)。
 わたしもそれほど他の指揮者の演奏を聴いたことがあるわけではありませんが、ムラヴィンスキーの有名な録音と較べても遜色ないか、むしろ単純に迫力だけなら上回っていると思います。
 面白いことに、弦楽器が大迫力の一方で、金管は逆に小さく控えめにまとまっています。それも覇気が無いというのではなく、力を集中させるように丸く固めていて、その上を柔らかい響きで包んでいます。「剛」の弦楽器に「柔」の金管として、いい対照になっています。
 その一方で木管はというと、まあ、速い動きのソロが多いというのもありますが、躍動感はあるものの、ちょっと縦の線がもう一つかなと思いました。
 この演奏の印象を大きく左右した第2・3楽章に較べると、第1・4楽章はそこまで特異ではありません。
 といっても、第4楽章では、冒頭の迫力は大したものですし、最後もテンポ上げて十分に盛り上げています。
 第1楽章も力強いものですが、終盤にMolto piu mossoのテンポ指定でリピートが登場する部分(第381小節)では、繰り返した時に急にテンポが一段階アップしたりと、そろそろ第2楽章につながる独自な解釈が入り始めています。

 演奏には直接関係無いのですが、このCDを聞いていて非常に気になった部分がありました。
 録音に問題があるのです。
 いや、演奏の音自体は1948年のライブとは思えないほど鮮明で、むしろ良いほうです。
 問題は、第1楽章の後半あたりから演奏の背後に人がしゃべっている声がかすかに聞こえてくるという点です。
 どうやら、ラジオの他の局の音が混じっているようなのです。つまり、この録音はもしかしたらラジオ放送のエア・チェックではないかと。ただ、それにしては演奏の音は鮮明なのが不思議です。たしかにフルトヴェングラーのベートーヴェンの交響曲第7番のようにスタジオ録音に声が入ってしまった例もありますが、口調や声の入り方がどうもラジオっぽく、しかも長さはフルトヴェングラーの録音の比ではありません。第1楽章の後半以降、ほぼ最後までずっと入っているのですから。
 しかも、しゃべっている声だけでも気になるのに、途中からはなんだかビッグバンド風の曲まで始まってしまいます。知っている人が聞いたら曲名までわかるんじゃないでしょうか。
 いやもう、これにはまいりました。(2006/8/12)


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