P.I.チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調

指揮エフゲニー・ムラヴィンスキー
演奏レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
録音1960年9月14・15日
カップリングP.I.チャイコフスキー 交響曲第5・6番
発売Grammophon
CD番号419 745-2


このCDを聴いた感想です。


 ムラヴィンスキーのチャイコフスキーの第4番の演奏がいくつあるか正確には知りません。第5番ほどではないにしても、おそらくそれなりにはあるのではないでしょうか。
 しかし、もっとも有名な演奏は、このドイツ・グラモフォンによって録音された演奏でしょう。第4番の名盤では必ずといっていいほど挙がってくる一枚です。
 まあ、たしかに演奏を聴けば納得できます。それぐらいあらゆる点で圧倒的な演奏です。
 いろいろ深く考察しようと思えばいくらでもできるのでしょうが、わたしにはあまりも強烈過ぎました。その中でも2箇所、とにかくトランペットと第4楽章の冒頭につきます。たしかにそれは演奏の一部分に過ぎず、しかも表面的な部分ということもわかっています。しかし、それでもなお聴いた瞬間の衝撃は、他のどの点よりも圧倒的だったのです。
 まずはトランペット。これは冒頭に最も特徴が良く表れています。
 みなさんもご存知とおり、冒頭は、短調のファンファーレのような動きが、最初はホルン、続いてトランペットで演奏されます。
 そもそも先に出てくるホルンからして十分強烈です。地鳴りがしてきそうな太い音色で吼えています。まずそこで一発ガツンと衝撃を受けたところで次はトランペットです。
 これぞまさに脳天に突き刺さる音でしょう。少なくとも二日酔いの人は間違っても聞いてはいけない音です。聴いた瞬間に気絶しても全く不思議ではありません。
 ロシア特有のベタッとした平たい音色が、周りの響きに溶け込ませようとかそういったオブラートは一切無しに、むき出しのまま一直線に飛んできます。
 さらに、強くかかったビブラートがまた凶悪です。まっすぐ突き刺してくるだけでなく、突き刺さったところをさらにえぐられているみたいで、もう他とは全く違う圧倒的な存在感を見せ付けてきます。
 まさに『力は正義なり』という言葉をそのまま具現化したような音です。
 キリスト教やイスラムでは、最後の審判の時に、天使の吹くラッパが世界中に響き渡るそうですが、ほとんどそれに近いものがあります。もっともその暴力的なまでの力は、天使というよりも悪魔の方に近い気もしますが。
 もう一箇所の、第4楽章の冒頭については、これこそ悪魔に魂を売っているのではないでしょうか。いやもう通常の人間がこれだけ揃った演奏をするなんてほとんど不可能です。
 たしかに、この冒頭がいくら難しいとはいえ、同じように速いテンポでピタッと揃った演奏が他に無いわけではありません。しかし、ムラヴィンスキーの演奏は、ただ揃っているだけではなく、一つ一つの音が立っているのです。
 他の演奏は、全体が長い麺で、それをテンポにあわせて包丁で細かく切ったような感じです。それに対してムラヴィンスキーは、細かく切った上に、その一つ一つをさらに丸めたりと加工を施しています。それによって個々の音一つ一つに力が感じられるのです。
 こういうところは、これまたムラヴィンスキーの名演として有名な「ルスランとリュドミラ」序曲と全く同じです。
 人間、人智を尽くし技術の粋を極めたものには驚嘆しますが、それを超えて人智の及ぶところではない世界に行ってしまうと、もう笑うしかないのですね。いやもう、これは現実の演奏ではなく、四次元の演奏を持ってきたのだと思いたくなってきます。(2005/11/26)


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