指揮 | エードリアン・ボールト |
演奏 | BBC交響楽団 |
録音 | 1937年6月25日 |
カップリング | P.I.チャイコフスキー イタリア奇想曲 他 |
発売 | BEULAH(HMV) |
CD番号 | 1PD12 |
この演奏は、フルオーケストラによる大編成の演奏にもかかわらず、こじんまりとまとまっている印象を受けます。 チャイコフスキーは、みなさんもよくご存知のようにロシアの作曲家です。 ロシアというと、わたしなんかはどうしても『広大な大地』というイメージがあり、目の前には、ひたすら真っ平らな平地が延々と広がり、遥か地平線近くには、高さが想像もつかないような山脈が、壁の様に立ちはだかっている…… そういう雄大な風景が思い浮かぶのですが、この演奏からは、そういうスケールの大きさは感じられません。 逆に、まるで日本の車窓から見た風景のように、今、山があったと思ったら、すぐに浜になり、トンネルを抜けたら、ぱっと広野原が拡がったといった感じに、雄大なスケール感の代わりに、あっという間に切り替わっていく変化があり、遠くの景色ではなく近くの景色を見ているかのように、演奏の端々に注意が行き届いています。 考えてみれば、ボールトもBBC響もイギリスで、大陸と違って日本と同じ島国ですから、こういう、ちいさくまとまったどこか箱庭的な感覚は、日本に近いのかもしれません。 例えば、メロディーを歌わせるにしても、長いスパンで大きく歌わせたりせず、短くぶつ切りにしています。 その代わり、短く区切った中では繊細に歌わせていて、そのニュアンスのちょっとした変化は、大きな歌わせ方には無い、可愛らしい魅力があります。 また、テンポの変化にしても、これは録音上の制約もあるのかもしれませんが、テンポを遅くする場面でも、劇的な効果を出すために思いっきり引っ張ったりはせず、テンポを少し遅くしたかと思うとすぐもとに戻して、放埓な雰囲気にならないようにしています。 ただ、ちいさくまとまっているからといって、大人しくて面白みの無い演奏ではありません。 音は短く鋭く、動きも生き生きとしているため迫力もあり、さきほど書いた通り、表情の細かい変化もあります。 スケールが小さい分、身近に感じられて、親しみやすいとも言えるでしょう。 演奏しているBBC交響楽団は、ボールトがよく鍛えたのか、アンサンブルはなかなか揃っています。 たしかに、部分的には危ないところもあるのですが、ほとんどの部分では、速いパッセージでも乱れることなく、一つ一つの音符がちゃんとクリアに聞こえてきます。(2003/7/12) |