P.I.チャイコフスキー 弦楽セレナード

第2楽章のみ

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1928年5月12日
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CDS 9070)
G.S.E Claremont(CD GSE 78-50-48/49)


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、以前感想を書いた3テイク目の録音と同年同日に録音された1テイク目にあたります。
 1テイク目と3テイク目の演奏の違いについては、今回改めて聴き直しましたが、前回と全く変わっていません。3テイク目の方がテンポの変化が自然で、アンサンブルも良くまとまっていますし、1テイク目のこの演奏の方は、逆にテンポの変化はかなり強引な点はありますが、その分、勢いがありますし、勢いがある分、アンサンブルが少し怪しくなっています。
 ……と、これだけでしたら、以前書いた3テイク目の演奏の感想を読んで貰えれば済むだけで、わざわざこの感想を書く意味がありません。
 そこで、この感想では、1テイク目の特長である『勢い』をどうのように感じたかの印象をもう少し細かく書いていきます。

 勢いを感じたのには、大きく分けて二つの要因があります。
 一つ目は、テンポの変化、特に加速(アッチェルランド)です。
 この曲では、メンゲルベルクは、一まとまりのメロディーを演奏する時、最初はゆっくりしたテンポで始め、メロディーが進むにつれてどんどんテンポを速くして行って、メロディーが頂点に来た瞬間にガクンと急にテンポをゆっくりにしてメロディーの最後を締めるというパターンを多く使っています。
 しかも、都合が良い事に、冒頭から登場するメインのメロディーは、低音から始まって、どんどん上の方に昇って行き、最後から三つ前の音で最高音に達して、そこから少し下がって落ち着くという、こういうパターンにおあつらえ向きのメロディーです。
 そのため、テンポが速くなるのと、音が高くなっていくのとの相乗効果で、ますます勢いがよくなります。
 ただ、このテンポ変化自体は、1テイク目に限らず、3テイク目でも行なっています。
 では、どこで、勢いに差が出るかといいますと、それは、『自然』か、それとも『強引』かの違いにあります。
 3テイク目の方は、テンポが加速させるのにも無理がなく、1テイク目と、開始点のテンポと最高点のテンポはそれほど変わらないにしても、その間は常に曲線で、滑らかにテンポアップしていきます。
 聴いていても、リムジンに乗ってる如く、気持ち良く自然に音楽が盛り上がって行くのが感じられます。
 一方、1テイク目の方は、テンポ変化がどちらかといえば直線的で角があり、その角で、アクセルをぐいっと踏み込んだように、急にテンポがアップします。
 そのため、その瞬間には、車に乗って急加速をした際のシートに押し付けられるような強引さがあるのですが、これが逆に、テンポが上がっていくのが実感でき、より一層勢いが感じられるのです。

 そして、もう一つが、メロディーの歌わせ方といった全体的な事ではなく、一つ一つの音です。
 これは、1テイク目と3テイク目の違いではなく、1928年5月12日録音の演奏と、他の演奏との違いになります。
 上記に書いた、一つの目の強引なテンポ変化については、たしかに、3テイク目より1テイク目の方が激しいのですが、後年の1938年の演奏(ライブ・スタジオ双方)も、負けず劣らず激しく行なっています。
 しかし、勢いという点では、1928年の1テイク目の方が感じられます。
 どこが違うのか?
 今度は、一つ一つの音の違いなのです。
 年代が異なると、録音状態も大幅に変わってしまうため、必ずしもメンゲルベルク自身にそういう意図があったかどうかわかりませんが、1928年と1938年とでは、音に対する扱いがかなり変わって来ています。
 後年の1938年の方が、一つ一つの音が濃く、粘りがあります。
 音に粘りがある方が、表情が豊かになり、甘美な独特の音楽を創り出せるのですが、その分、どうしても重くなってしまいます。
 1928年の方は、音に後年ほどの粘りがないため、ずっとアッサリしています。(といっても、あくまでもメンゲルベルクの演奏の中では、という話で、他の指揮者に較べれば、この1928年の方でも遥かに重く粘っています)
 その上、音が短い分、軽く、キレが良く、より勢いが強く感じられます。

 以上の二つの要因、特にテンポの変化によって、勢いが出ている……と、ここまで書いて今更ながら気がついたのですが、よく考えれば、この楽章って、楽譜上の速度指示は、『ワルツ』なんですよね。
 もちろん、踊る事を前提とした曲ではありませんが、それにしても、テンポ指示が舞曲の種類の一つとは思えないくらい、踊りには向かないテンポの変わりようです。
 あっ、でもJ.シュトラウスの「加速度円舞曲」なんか、意外と雰囲気は近いんじゃないでしょうかね(笑)(2002/3/29)