P.I.チャイコフスキー 弦楽セレナード

第2楽章のみ

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1928年5月12日
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CDS 9070)
Music&Arts(CD-809)
東芝EMI(TOCE-8191〜99)
オーパス蔵(OPK 2012)


このCDを聴いた感想です。


 今回取り上げる1928年5月12日の弦楽セレナードの録音は、ディスコグラフィーの方を見て頂くとわかるのですが、実は2種類あります。
 片方が、マトリクス番号「WAX3646-I」で、もう一つが「WAX3646-III」。最後が「I」なのか「III」なのかという差なのですが、これは何テイク(録り直し)目かを表しています。
 ようするに「I」が1テイク目で、「III」が3テイク目にあたるという訳です。
 基本的にテイク数が増えるというのは、メンゲルベルクが前のテイクの出来に満足しなかったためでしょうから、おそらく最終にあたる3テイク目にメンゲルベルクがOKを出したという事でしょう。実際、現在出回っている「1928年5月12日の弦楽セレナード」といえば、ほとんど場合「WAX3646-III」の方の演奏です。

 さて、今回取り上げるのは「WAX3646-III」、つまり、その3テイク目の方です。
 メンゲルベルクが最終的に納得した演奏の筈です。

 とはいえ、1928年5月12日の二つの演奏は、同じ日に録音しただけあって良く似ています。
 メンゲルベルクのこの曲の演奏は、他に3種類あり、基本的な解釈にそう変わりは無いのですが、さすがに同じ日の二つの演奏ほどには似ていません。
 1928年の演奏より前の1923年にニューヨーク・フィルと録音した演奏は、より直線的ですし、なによりも録音が古くて聴くのにかなり忍耐が必要で、その上、編成もだいぶ手が加えられています。
 逆に、1938年のスタジオとライブの両演奏になると、よりテンポの振幅の幅が大きくなり、ロマンティックではあるのですが、流れは少し悪くなります。
 一方、1928年のこの演奏は、1923年と1938年の中間といった感じで、テンポはかなり動かしているのですが、流れが良く、伴奏の音も短くキレが良い事もあって、後年に較べ健康的な雰囲気があります。
 それでも、うねるようなテンポ変化に加えて、要所要所でポルタメントを入れている点といい、メロディーはずっと色っぽくなり、チャイコフスキーのメロディーの麻薬のような魅力がよく表れています。

 1テイク目と3テイク目は、こういった特徴の共通する、よく似た二つの演奏ですが、較べて聴いてみると、さすがに少し違いがあります。
 1テイク目に較べ、3テイク目の方が、慣れてきた為なのかもしれませんが、アンサンブルが揃っていて、テンポ変化も柔軟性があり、自然に移り変わっていきます。
 逆に、1テイク目の方は、テンポ変化が急激な分だけ緊張感が高まり、3テイク目よりもドラマティックなのですが、完成度は3テイク目よりも劣るように思われます。
 3テイク目の方が、音楽がより自然で完成度が高いという点を考えると、メンゲルベルクが3テイク目を決定稿としたのも頷ける話です。

 録音は、もう一つといったところです。
 といっても、雑音とか多いわけではなく、1928年のスタジオ録音という点を考えれば、むしろかなり少ない方でしょう。音自体も十分鮮明だと思うのですが、最大の難点は音のバランスが変だということです。
 もちろん、この時代にバランスを追求するのは酷な話なのですが、メンゲルベルクの同時代の他の録音がそれほど酷くなかっただけに余計気になります。
 具体的にどう変かといいますと、早い話、2ndヴァイオリンはマイクから遠すぎて、その反対にビオラの音はマイクのすぐ傍で演奏しているように聞こえるのです。
 CDによっては、リマスタリングで必死に調整しているものもありますが、やはり音量はまだしも、音の鮮明さの差は隠し切れず、妙にアンバランスに聞こえます。
 やっぱり、録音する時の問題なんでしょうね。(2002/7/5)