P.I.チャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」

指揮ユーリ・テミルカーノフ
演奏キーロフ歌劇場管弦楽団
録音1983年4月6日
カップリングP.I.チャイコフスキー マンフレッド交響曲
発売REVELATION
CD番号RV 10024


このCDを聴いた感想です。


 この演奏、何が印象に残ったかというと、トランペットのソロにつきます。
 それもただ一箇所、全曲の真ん中から少し後半に入った辺りの全体が大きく盛り上がるところ(第335小節以降)で、シンバルが2回鳴るのに続いて、トランペット以外の全パートが小節の2・4拍で16分音符が3つ連続するリズムを刻み、その上をトランペットだけが、長い音符で冒頭と同じメロディーを長調を吹き鳴らす部分です。
 そのトランペットの強く伸びのある音に圧倒されました。
 まさに会場の隅々にまで響き渡っているようです。
 トランペット以外のパートは全員同じ動きで、しかもフォルティッシモの全力で演奏しているのですから相当強く大きいはずですが、トランペットはそのはるか上、ほとんど別次元を行っています。鳥が地上の地形に影響を受けないように、激しく叩きつけるような伴奏を涼しい顔をして軽々と飛び越えていきます。
 実は、この部分の録音状態は少し悪く、ホールの中ではなく扉一枚隔てたロビーで聞いているような遠い音なのですが、楽器の音が直接聞こえてくるのではなく十分に響いた後の音が聞こえてくるような感覚が逆に良かったのか、いかにもトランペットの音がホール全体に響き渡っているという感じがして、より強く伸びやかに聞こえました。
 個人的には、この部分のトランペットだけで十分聞いて良かったと思えた演奏ですが、全体的な印象もなかなか面白いものでした。
 短くまとめると「西欧の皮を被ったロシア」といったところでしょうか。一見西欧風なんですが、根本はやはりロシアです。
 西欧風というところは、まずスマートな点です。
 テンポもそう大きくは動かしませんし、メロディーの歌い方もあまり入れ込み過ぎることなく、かといって無表情でもなく、いくぶん上品にほどよい中庸を保っています。
 さらに音の処理に細かく注意が払われていて、特にピアノの部分での音の入りなどは、決して無造作に入ったりせず、柔らかく滑らかに入ってきますし、音色もどこかの楽器だけが突出したりせず、うまく響きを融け合わせています。
 音が揃っているところなどは、とてもライブ録音とは思えないほどです。途中で頻繁に聞こえてくる観客席からの咳払いや雑音が無かったら、スタジオ録音と言われても信じる……には、ちょっと鮮明さが劣りますが、それぐらいキッチリと整えられています。
 ここまでなら、まさに西欧のどこかのオーケストラが演奏したみたいで、逆に言えば、別にテミルカーノフでキーロフ歌劇場管でなくてもいいわけです。
 この演奏しかない特徴で、西欧のオーケストラではちょっと求められないもの、それがロシア的な部分です。
 それはフォルテでの爆発力です。
 フォルテでアクセントが出てくると、もう整ったバランスなんてどこかへ吹き飛んでしまいます。メゾ・フォルテ以下とフォルテ以上ではほとんど別の音楽です。
 フォルテはフォルティッシモで、フォルティッシモはフォルティッシシモで、というように、常に一段階強く、終いにはボクシングと間違えているんじゃないかと思えてくるぐらい全力で叩き込んできます。
 音色を気遣うより前に、まず強さ。音の一つ一つにアクセントをつけて演奏しているかのようです。
 その中でもさらに強烈なのがティンパニーで、最も強くなる部分では、完全に他をかき消すぐらいの破壊力があり、マイクの限界すら超えて音が割れているくらいです。
 いくら西欧風でもやっぱり印象に残ったのはパワー勝負のロシア的な部分でした。
 この演奏はオーケストラがロシア(当時はまだソヴィエトでしたが)のキーロフ歌劇場管(現マリインスキー劇場管)でしたが、テミルカーノフにはイギリスのロイヤル・フィルを演奏した録音もあるそうです。
 その演奏は聞いた事がありませんが、きっとテミルカーノフの西欧風の部分がもっと生かされていることでしょう。そうするとどんな演奏になるのか、そう思うとちょっと聞いてみたくなってきます。(2006/7/22)


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