P.I.チャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1930年5月30日
発売及び
CD番号
HISTORY(205254-303)
Pearl(GEMM CDS 9070)
Music&Arts(CD-809)
G.S.E Claremont(CD GSE 78-50-48/49)
東芝EMI(TOCE-8191〜99)
東芝EMI(FECC 30784〜5)
ANDANTE(2966)
GreenDoor(GDCS-0016)
ARCHIPEL(ARPCD 0124)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクのチャイコフスキーですからドロドロのベタベタで甘々の演奏かと思いきや、意外とそうでもありません。
 1930年の録音ですから、まだメンゲルベルクが60歳になる前の頃ということもあるのでしょうが、テンポ自体はわりと速めで、むしろキレの良さが印象に残ります。
 それに加えて重量感のある響きといったところでしょうか。
 冒頭から途中のアレグロのテンポ指定になる辺りまでは、部分的にテンポを落とす部分はあっても、基本的には速めのテンポを保ったまま進んでいきます。音は低音のしっかりと出た重量感のある響きで、それが重いからといって動きが鈍かったりはせず、速いテンポに合わせて反応良く素早く移り変わっていくという、展開の速さ、スピード感に驚かされます。
 メロディーは甘ったるかったりドロドロと粘ったりはしていないものの、フォルテからピアノのダイナミクスの幅が広く、力の入れ抜きも少し大げさなぐらいに違いをつけているので表情の変化は大きく、しかも伴奏も一体となって力の入れたり抜いたりしているためさらにその幅は大きく広がっています。全合奏で大きく力を入れた次の瞬間には、全員が見えない糸で引っ張られたように一気に力を抜き、そのまた次の瞬間には引いたのが嘘のように一気に押し寄せてくる、それが速いテンポに乗って次々と繰り返される様子は、まるで時化の海の波のようです。高い波が大きなうねりを伴って押し寄せ、それを越えると急に下へ落ち込み戸惑う暇も無くまた次の高い波が押し寄せてくる。まさに変化の大きさとスピードに翻弄される思いがします。
 なんでもこの部分の音楽はモンタギュー家とキャピュレット家の抗争の様子を表しているものらしいのですが、この演奏の激しさからすると、ところかまわずいきなり剣を抜き合い多くの一般市民を巻き込んだりしてのかなりハードな抗争になっていそうです。
 この抗争の部分と対比されているのが、ロメオとジュリエットの愛の主題で、中盤(184小節目)少し静かになったあたりから登場する、初めはイングリッシュ・ホルンとヴィオラによって演奏されるメロディーなのですが、こちらはメンゲルベルクのチャイコフスキーらしさが大きく前面に出ています。
 平均すればそう遅くはないテンポですが、メロディーに合わせて大きく伸び縮みします。
 当然メロディーに入れる力も尋常ではなく、フォルテになった部分では弦どころか弓の一本や二本は折れているじゃないかと思えるくらい情熱を込めて歌っています。
 さらにポルタメントまでそこかしこに散りばめてあり、それがヴァイオリンだけがメロディーの時などはまだしも、弦楽器全体がユニゾンでメロディーを弾く時にかかっていると強烈です。たしかに全体で揃っていることに感心するのですが、高音から低音まで幅の広い響きが一斉に滑っていく様子は、一種異様な感じがします。
 ポルタメント単体では甘くても、それが集団となると、空一面を覆うインコの大群といったところで、甘さを通り越して半ば畏敬とか恐怖の方に足を突っ込んでしまっています。
 激しい前半といい、異様な迫力の後半といい、いろいろ聴き所の多い、かなり面白い演奏です。

 録音は、1930年でもスタジオ録音ですからそこそこクリアですが、時代相応に楽器同士の分離が多少悪く、雑音もハッキリと分かる程度に入ってきてしまっています。年代を考えればまあ聴ける方ではないでしょうか。
 この演奏は、いろいろなレコード会社からCD化されていますが、わたしの持っている中では、Pearlのものが雑音が少ないわりに音に迫力があり、もっとも良いようです。
 聴く前は、Andanteのものに期待していたのですが、Pearlに較べると雑音が多く、音もPearlほど鮮明ではありませんでした。(2006/5/18)


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