P.I.チャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」

指揮ウラディミール・ゴルシュマン
演奏セントルイス交響楽団
録音1953年2月23・24日
カップリングラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 他
販売EMI
CD番号CDM 7243 5 67315 2 3


このCDを聴いた感想です。


 フランス風の優美さと、ロシア風の荒々しさがモザイクのように組み合わさった演奏です。

 この「ロメオとジュリエット」という曲は、ゆったりとしたテンポでメロディーを朗々と歌い上げる部分と、速いテンポの激しい部分とが交互に表れます。
 ゴルシュマンは、その二つの部分の性格付けに大きく違いをつけています。
 激しい部分では、テンポを思い切って速く取り、音を短く切って、キレの良い音楽を聞かせてくれます。
 さらに、アタックはかなり硬めにぶつけるようなアクセントをつけていたり、金管の出番ではほとんど音が割れそうなぐらいギリギリのところまでフォルテで演奏しているため、野蛮と思えるほどの荒々しさがあります。
 ただ、ここで凄いのは、音楽は確かに荒々しいのですが、アンサンブル自体は少しも荒れておらず、それどころかキッチリと揃っています。
 そのため、音楽が荒々しくても、下品に感じることは無く、逞しさや、むしろ蛮族の王のような気品すら感じます。

 その一方、ゆったりとした部分は優美そのものです。
 特にここは、ゴルシュマンの特長がよく出ています。
 その特長とは何かと言いますと、それは『フレーズの短さ』です。
 普通、フレーズが短いというのは、悪口でしかないのですが、ゴルシュマンはフレーズを短くすることによって生まれる魅力を最大限に生かしているのです。
 例えば、一つの長いメロディーがあった場合、大抵の場合は、メロディー全体を見通して大きく起伏を付けた方が、一体感が生まれてメロディーの魅力をより引き出すことができます。
 しかし、ゴルシュマンはメロディーを細かいフレーズに分け、その一つ一つのフレーズに細かく起伏を持たせることで、メロディーにまるで生き物のように多彩な表情を持たせています。
 ただ、このようにフレーズを短く切った場合、音楽がその部分で塞き止められて流れが無くなってしまい、メロディー全体の魅力が死んでしまうことが多いのですが、ゴルシュマンは、フレーズとフレーズとの間に自然な移り変わりがあり、メロディー全体の魅力も十分に感じることが出来るのです。
 これも、ひとえにゴルシュマンの微妙な力の出し入れによる表情付けの上手さあってのことです。
 この表情をつけるときに、決してフルパワーを出さずに80%ぐらいで抑えて力を上手くコントロールする様子は、まさしく『貴族』という雰囲気があります。

 演奏しているセントルイス交響楽団は、相変わらず上手いです。
 アンサンブルは締まっていますし、なによりゴルシュマンと20年以上も一緒にやっているため、彼の意志が末端まで伝わっていて明瞭に反映されていることが聴いていてもよく分かります。

 録音は、モノラル末期ということを考えれば、まあまあだと思います。
 楽器間の分離はなかなか良いのですが、サウンドがベタッとして平面的で、特にフォルテ部分で音が割れたり途切れたりする事があるのが、ちょっと残念です。(2001/11/30)