P.I.チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏ピアノ:コンラード・ハンゼン
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1940年7月11日
発売及び
CD番号
キング(K30Y 259)
ワーナー(WPCS-4327〜30)
BIDDULPH(WHL 051)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクのチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音といえば、普通はこのベルリン・フィルとの一種類のみですが、以前ワーナーから発売された「メンゲルベルク/チャイコフスキー:テレフンケン発売録音集大成」(WPCS-4327〜30)によると、もしかしたら二種類ある可能性もあるそうです。
 とはいえ、はっきり「二種類ある」と確定しているわけでもなく、二つのレコード会社(ウルトラフォン社とテレフンケン社)から発売された、本来なら同じソースのはずの録音が、もしかしたらそれぞれ別の録音ではないか、ということらしいのです。
 そう推測した理由は2点あり、1点目は、聴いたかんじ強弱のダイナミクスが多少異なること。2点目は、録音の際につけられるはずのマトリクス番号に少し違いがあることです。
 マトリクス番号が、もし全く別であれば、これは別々の演奏である可能性が非常に高くなるのですが、この曲での違いというのが、片や「025083」(ウルトラフォン盤)で、片や「025083-I」(テレフンケン盤)という、なかなか微妙なかすりかたです。
 後ろにつくローマ数字というのは(「I」はアイではなく一と読んでください)、大抵、同じ日に同じ曲を何度か録り直しした時に、Takeいくつにあたるかを表していますので、IはTake1ということで番号無しと同じと考えることもできますが、必ずしもそうでない場合もあるようで確定はできません。
 解説では、同じ日でもテイクの異なる別の録音、もしくは同じ演奏を別々の録音装置で録音した可能性もあるのではないかと書いてあります。
 まあ、なかには、悲愴の録音のように、テイク番号無しは1937年の録音で、同じ番号でテイク番号付きが1941年の録音というように、4年も間が空いているものまでありますが。
「メンゲルベルク/チャイコフスキー:テレフンケン発売録音集大成」では、念のために、一枚のCDにテレフンケン盤とウルトラフォン盤の両方とも収録して聴き比べることができるようになっています。
 で、わたしが実際に聞いてみての感想としては、演奏自体は同じ演奏ではないかと思います。
 いくつかの部分をピックアップしての聴き較べですが、音のズレ具合などほぼ同じで、少なくともハッキリと違うと思えるほどの違いは見当たりませんでした。
 録音装置が異なるかどうかについては微妙ですね。
 たしかに音の拡がりなどは違うようにも聞こえるのですが、レコード等にするときのリマスタリングによっても多少は変わってくるでしょうから、もともとどこまで違いがあったかというのはとても判断できません。
 ただ、一つだけ言えるのは、もし違っていてもそんなに大した違いではないということです(笑)
 正確さを気にする研究者の人ならともかく、普通に聴いている分には、同じ演奏だと考えても構わないのではないでしょうか。
 一応、テレフンケン盤の方がノイズが少なく、ウルトラフォン盤の方がノイズが多い代わりに響きに拡がりがあるという違いもなくはないのですが、同じ演奏をCD化したもので、会社による差がもっと大きいものなんていくらでもありますし、それに較べたら、差なんてほとんど無いようなものです。

 さて、演奏の方の感想ですが、やはりいつものコンセルトヘボウ管を指揮した時と、だいぶ雰囲気が違いますね。
 まず音が違います。
 ベルリン・フィルの方がはるかに硬さと力強さを感じます。
 木に対する金属、それも『鋼』という雰囲気で、いくら突付こうが揺らそうがビクともしない強さがあります。
 木のような暖かさや柔らかさはそれほど感じられませんが、代わりに黒光りするツヤがあり、細部に至るまでピシッと骨が入っています。
 音の一つ一つの叩きつけたようなキッパリとしたところなど、コンセルトヘボウ管でもとてもここまではできなかっただろうと思えるほどです。
 テンポなども、そういう音に合わせてか、メンゲルベルクのチャイコフスキーとは思えないぐらいほとんど動かしていません。
 部分的に少し落とすぐらいで、後はほとんど一定のテンポを保っていて、まっすぐ直線的に音楽を進めています。
 さらにこの演奏の大きな特徴が軽快さです。
 テンポを動かさない分、他のチャイコフスキーの演奏ではテンポの動きに目を奪われてあまり目立たなかったリズム感の良さが引き立ち、第2楽章の後半や第3楽章など、硬い球がコンコンと跳ねているような軽くてスピードのある音楽になっています。
 その一方で、いつものメンゲルベルクのチャイコフスキーらしいなあ、と感じるのが第2楽章のようなゆったりとしたメロディーの歌わせ方です。
 といっても、他の演奏のようにテンポを動かすこともあまりありませんしポルタメントも全く入れていません。
 しかし、強弱の変化をうまく使い、大きく歌わせているのに細部まで細かく表情を作る辺り、いつものメンゲルベルクらしく、まるで見知らぬ土地で知り合いに出会ったみたいで、なんだかホッとします。

 一方、ソロのハンゼンは、伴奏と同じように硬めの締まった音です。
 ただ、ベルリン・フィルの方が鋼っぽいのに対して、ハンゼンの音はもっと透明感があり、金属というより磁器やガラスのようなイメージです。
 実は、伴奏のメンゲルベルクよりもよっぽどテンポをいろいろ動かしているのですが、あまり粘ったドロドロの演奏には聞こえず、ちょっと表情が柔らかくなったかな、ぐらいで、キチッとした折り目正しさは終始変わりません。
 まあ、その割にスタジオ録音とは思えないほどミスタッチが多かったりもするのですが、 粒は揃っていて、速い動きで下から音階で上がってくるところなんかは、クリスタルがズラッと並んだみたいにキラキラと輝いていて、思わず感嘆の声を上げたくなりました。

 ところで、第3楽章の冒頭はティンパニーの一発から始まりますが、この演奏がもっとも前にキング(TELDEC)からCDで復刻された時には、その音だけ、別の指揮者(バルビローリ)の演奏と差し替えられていたのだそうです。(BIDDULPH盤も同様です)
 その理由というのが、なんでも、メンゲルベルクの演奏ではあまりに大きい音だったので、SPでは一回再生しただけで盤に傷が入ってしまい、復刻には適さなくなってしまったとか(金属原盤はおそらく水害で消失)。
 ワーナーでのCD化では、残っているSPの中で、まだ傷が浅いのを選んで復刻に使用したのだそうですが、百聞は一聴にしかず、聴いてすぐに納得しました。
 これでは、最初の復刻の際にその音だけ別の演奏に差し替えたくなったのもよくわかります。
 テレフンケン盤とウルトラフォン盤では多少違い、テレフンケン盤の方が多少マシなのですがそれでも十分酷い音です。
 ましてやウルトラフォン盤ではとんでもない音になっています。
 既に楽音とか雑音とかいうレベル以前の音で、なんか、近くで雷が落ちてコンセントが火を噴いたかのようなグシャという壮絶な音です。
 これはたしかに、一回でも再生したら、もう二度とまともな音では聴けなくなるのはわかりましたが、それよりもSP盤が真っ二つになってないかを心配したくなってきます(笑)(2004/8/21)


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