P.I.チャイコフスキー 組曲「くるみ割り人形」

指揮レオポルド・ストコフスキー
演奏フィラデルフィア管弦楽団
録音1926年11月4〜18日
カップリングJ.S.バッハ トッカータとフーガ 他
「A STOKOWSKI Fantasia」の一部
発売Pearl(Victor)
CD番号GEMM CD 9488


このCDを聴いた感想です。


 ストコフスキーは「くるみ割り人形を得意としていたのか、わたしの知っているだけでも、1929年のフィラデルフィア管、1950年のヒズ・シンフォニー・オーケストラ、1973年のロンドン・フィルと、3つの録音が残っています。
 それだけでなく、ディズニーの「ファンタジア」にも使っていて、そもそも今回取り上げる最も古い1929年のフィラデルフィア管との録音もファンタジアのサウンドトラックに収録されていたものです。ただし、ファンタジアのために録音されたのではなく、既に録音されているものをファンタジアに流用したようです。
 わたしは、残念ながら最も新しい1973年の録音を聞いたことが無く、1950年のヒズ・シンフォニー・オーケストラとの録音だけの比較になりますが、正直に書くと、純粋に面白さという点では、新録音の方が上だと思います。録音も遥かに鮮明になっていますし。
 新録音の方がいろいろやりたい放題やりつくして大げさなまでに表情を付けているのに較べると、フィラデルフィア管との旧録音はずいぶんスッキリとしています。
 例えば、最初の小序曲などでは、冒頭はずいぶんゆっくりとしたテンポでじっくりと始まるため「おや?」と思いますが、じきにテンポは真っ当な速さになり、ある程度で落ち着くと、後はあまり動かしたりはしません。表現も驚かせるような突飛なことなど全く無く、むしろ小さく引き締まっていて、テンポ良く進んでいきます。
 新録音より全体的に表現が抑え気味で音楽も直線的進んでいるので、これをどう受け取るかで評価も大きく変わってくると思います。くどいまでに演出に力を入れたストコフスキーを期待している方には物足りないでしょうが、ストコフスキーらしさはたしかに欲しいけど、あまり極端なのはちょっと、という微妙な演奏を求めている方にはピッタリです。
 特に、組曲の曲目の中で「アラビアの踊り」は、演出とくどさのバランスが絶妙につりあっています。メロディーをゆったりと大きく表情を付けて歌わせているのは、新旧両録音とも同じですが、新録音の方は表情をあまりに濃く付けすぎて、フレーズが短くなりあちこちでぶつ切りになっているように聞こえます。一方、旧録音は表情の濃さがギリギリのところで踏み止まっていて、甘くゆったりとした表情でフレーズを長く大きく歌わせています。しかも、新録音ほど大げさではなく少し控えめな表情が、逆に謎めいたオリエンタルな雰囲気がよく表れているように感じました。
 もう一曲印象に残ったのが「葦笛の踊り」です。
 この曲は前半と後半のフルート3本で演奏されるほのぼのとしたメロディーが有名ですが、それに挟まれた間には短調の、トランペットが16分音符のスタッカートでメロディーを演奏する硬い雰囲気の中間部があります。その中間部の雰囲気が印象に残りました。短調になった瞬間、それまでの長調の部分より少しテンポを速め、そこからさらに少しずつテンポを速めていくのです。テンポが速くなった時点でガラッと雰囲気が変わって緊張感が高まり、そこからのテンポアップも、劇的に急加速するのではなく、機械のように着実にじわじわと上がっていくところが、妙に恐怖感そこはかとなく滲ませた迫力がありました。これは新録音では強弱の変化が激しくてあまり「じわじわ」といった感じがせず、物語を感じさせる浮き沈みはあるのですが迫力はそれほどではありませんでした。
 新録音も、面白さという点でストコフスキーの演奏の中でも屈指ですし、これはこれで十分に楽しめる演奏ですが、こちらの旧録音も面白さとはまた異なる面に着目すると新録音にはない魅力があります。ただ、録音年が録音年だけに録音があまり良くない(当時の録音の中ではわりと良い方なのですが)のはまあしょうがないところでしょう。(2007/2/10)


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